第6話 夏の笑顔と交錯する瞬間
2010年7月、日曜の朝。
駅前のロータリーで彩愛を待つ。
夏の陽射しが強くて、アスファルトが熱を帯びてる。
11時ちょうど、改札から彩愛が出てくる。
水色の髪がゆるく結ばれて、白いワンピースが風に揺れる。
いつもと違う雰囲気だ。
「ごめん、少し遅れたかな?」って柔らかい声で言う。
「いや、ちょうどだよ」
「うん…ねえ、気づいた?」って少し恥ずかしそうに顔を上げる。
分かっていたが…「コンタクトにしたんだ」と言うと、「うん…恥ずかしいけど、今日は特別だから。どうかな?」って頬が微かに赤くなる。
「いいと思う。目、きれいだね」と言うと、「ありがとう…慣れないから緊張するけど、そう言ってくれると嬉しい」と笑う。
正直に新鮮で少しドキッとした。
「じゃあ、行こうか。カフェ巡りしたいんだよね?」って聞くと、「うん。でも、その前に買い物したいな。付き合ってくれる?」と提案された。
「もちろん。どこ行く?」って言うと、「モールで夏服見たい」と言われた。
駅から少し歩いて、ショッピングモールへ。道すがら、「買い物ってよく行くの?」って聞くと、「あんまり。暑い日は外に出たくなくて…今日は九条くんと一緒だから楽しみ」と言う。
夏の日差しの中、彩愛の笑顔が映える。
モールに着いて、エアコンの冷気が心地いい。
服屋に入ると、彩愛が白いブラウス手に取って、「これ、どう思う?」って聞いてくる。
「爽やかでいいね。彩愛の雰囲気と合いそう」って言うと、「試着してみるよ」ってカーテンの向こうへ。
出てきた彩愛、ブラウスがドレスに重なって、涼しげな印象。
「いいよ、それ。夏にぴったりだ」
「うん、気に入った。買うね」
「これ俺に似合うかな?」と、青いポロシャツ手に取る。
「着てみてよ。楽しみ」
試着室から出ると、「動きやすそうでいいね。色も好き」と彩愛が頷く。
「じゃあ、これにするよ」って決める。
服選びながら、彩愛の「次はこっち見てみようか」って声に引っ張られて、店内を歩き回る。
◇
昼過ぎ、フードコートでご飯を食べる。
「何食べる?」って聞くと、「パスタにしようかな。トマトソースのやつ」と、メニュー見る。
「俺はハンバーガーにするよ。暑い日はガッツリ食べたい」
「分かるよ。夏って食欲出るよね」
注文して席に着く。
彩愛のパスタは赤いソースが鮮やかで、俺のハンバーガーはチーズがとろけてる。
「美味そう」って言うと、「一口食べる?」って彩愛がフォーク差し出す。
「いいの?」って聞くと、「うん。はい、どうぞ」と笑う。
「ありがとう」
「うまいね」
「ね。美味しい。九条くんのハンバーガーも美味しそう」
まだ食べていなかったので「食べる?」って差し出すと、「うん、もらうね」って小さくかじる。
「ジューシーだね。好きかも」
「そうだね」
すると、彩愛はフォークを少し振りながら、俺が使ったフォークにちゅっとキスをする。
「これが本当の間接キッス」と、無邪気に笑いながらそう言った。
俺は照れて思わず目を背けた。
食後、「パフェ食べたいな」と、呟く。
「いいね。暑いし、冷たいの欲しいよな」
デザートコーナーで、彩愛がイチゴパフェ、俺がチョコパフェ頼む。
スプーンでイチゴすくう彩愛が、「甘くて冷たくて最高」と、目を細める。
「俺のも美味いよ。チョコとアイスのバランスがいい」って言うと、「一口交換しない?」と提案される。
「いいよ。はい、どうぞ」
「ありがとう。私のもね」
イチゴの甘さと俺のチョコの濃厚さ、交換しながら笑い合う。
夏の暑さが和らぐ瞬間だ。
◇
「カラオケってどんな感じ?私、行ったことないんだよね」
「歌うとストレス発散になるし、楽しいぞ」「そうなんだ。私、初めてなんだけど…九条くんとなら行ってみたい」
「じゃあ、行こう。きっも楽しめるよ」
そして、モールのカラオケ店へ向かう。
個室に入ると、機械の使い方を教えながら俺が曲を入れようとすると、彩愛が「何歌うの?」と、画面見る。
「俺はアップテンポなやつが好きだな。彩愛は?」
「基本クラシックしか知らないけど…あっ、この曲、知ってる」って静かなバラード選ぶ。
そして俺が歌うと、パチパチと拍手をしてくれる。
続いて彩愛の番。
すると、初めてとは思えないほど澄んでて、綺麗な歌声に聴き入ってしまう。
マイクを持つ手は緊張で少し震えていた。
「彩愛、めっちゃ上手いよ」
「緊張したけど、嬉しい」と、微笑む。
次にロック調の曲歌うと、「声力強いね。かっこいいよ」と褒められる。
それから、交互に歌って、彩愛が「カラオケ、楽しいね」って笑う顔、輝いてる。
夕方、「ゲーセンも行ってみたい」と彩愛が言う。
「クレーンゲームとか得意だよ」
「へえ、すごいね。私、初めてだから…連れてって」と、手を握られる。
びっくりして、思わず手を引っ込めると、傷ついた顔をされてしまう。
「ご、ごめん!な、慣れてなくて…」と、手を差し出す。
「…うん。慣れてないのが好き」と、そう言ってくれた。
ゲーセンに着くと、彩愛が「このぬいぐるみ可愛い!」って白いクマを指す。
「取るよ」ってお金を入れる。
2回目で成功して、「はい、どうぞ」って渡すと、「ありがとう!上手いね、びっくりした」って目を丸くしながらクマを抱きしめる。
次に太鼓ゲーム見つけると、「これやってみようか」って提案してみる。
「リズム感いるけど、楽しいよ」って言うと、彩愛が「挑戦してみる」ってスティック握る。
最初はぎこちないけど、だんだん乗ってきて、「楽しい!」って笑う。
俺も叩いて、2人でスコア競う。
スコアが俺が上回ったけど、彩愛の「負けたけど面白いね」って声、夏の夕方に響く。
◇
陽が沈む頃、外に出る。
「あっ、カフェ行かなかったね」とつぶやいた。
「確かに」と、思わず笑ってしまう。
「九条くんと一緒だと、いつもと違う私になれる気がする」
「いつもって、図書室以外どんな感じなの?」「人見知りだよ。中学の時、友達ほとんどできなくて…静かすぎるって浮いてた」と、少し遠くを見る。
「意外だよ。彩愛ならすぐ仲良くなれそう」「ううん。友達になってくれそうだった男子に告白されたら、その子好きな女子に睨まれたりして…面倒だったよ。私と友達になりたいって男の子はみんな告白してきたから。でもね、今はその人たちの気持ちがわかるの」と、笑う。
「そうなんだ…」と、はぐらかす。
「…うん」
「でも、告白されるのは分かるよ。彩愛、魅力的だもん」
「やめてよ、照れるから…でも、ありがとう」って頬が染まる。
彩愛の過去、初めて聞いて、心が近くなるのを感じた。
19時近く、駅のホームへ。
「今日は楽しかったよ。九条くん、ありがとう」
「俺も楽しかった。また行こうね」
「うん、また…あの、九条くん」と、何か言いかける。
目が真剣で、少し緊張してる。
その瞬間、後ろから「悠翔?」って声。
振り返ると、美緒がいた。
カバン持って、驚いた顔。彩愛と俺を見て、目が一瞬鋭くなる。
「美緒…」って言うと、「またその子…」と彩愛に視線移す。
彩愛が「えっと…」って戸惑う中、電車の音が近づいてくる。
夏の夜、2人の視線が交錯した。