第5話 深まる絆と新しい一歩
◇放課後
図書室の窓から差し込む夕陽が床に長い影を落としてる。
彩愛が本棚の間を歩きながら、「九条くん、この本読んだ?」って聞いてくる。
水色の長い髪が揺れて、肩に触れるたび光が反射する。
縁なしメガネの奥の目が静かにこっちを見てる。
「あ、読んでない。どんな話?」って返すと、「平安時代の恋物語。言葉が綺麗で、読んでると落ち着くよ」って本を差し出す。
細い指が表紙を撫でる仕草、上品だ。
「彩愛って、そういうの好きだもんな」って言うと、「うん。歴史の中の感情って、なんか深いよね。九条くんはおすすめある?」って聞いてくる。
「俺は宇宙戦争っていう作品がおすすめかな。ほら、SFって現実から離れられるから」って答えると、「ふふ、現実から逃げてるんだ」と、小さく笑う。
窓際の席に並んで座る。
本のページめくりながら、彩愛が「そういえば好きな食べ物って何?」って聞いてくる。
「唐揚げかな。シンプルでいい」と言うと、「私はねパスタ好き。トマトソースのやつが特にね。作るのも楽しいんだ」と笑う。
「へえ、今度食べてみたいな」
「いいよ。私、料理結構得意だから」
「期待してるわ」と言うと、「任せて」と頷く。
彩愛の真剣さがちょっと可愛いかった。
◇
次の週、昼休みに彩愛が「図書室でお昼食べない?」って提案してくる。
教室の喧騒抜けて、静かな空間で机並べる。彩愛が弁当箱開けて、「昨日作ったんだ。食べてみて」ってサラダとサンドイッチ差し出す。
彩り綺麗で、味もいい。
「美味いな。彩愛、ほんとうまい」
「良かった」
俺がコンビニの唐揚げ弁当出すと、「これはちょっと濃いね。でも嫌いじゃない」と、一口食べる。
彩愛が箸動かすたび、メガネが合わないのか少しずれて、直す仕草が自然だ。
「毎日手作り?」って聞くと、「うん。朝早起きして作るの。九条くんは?」って聞いてくる。
「基本は母さんが作ってくれるから。たまにコンビニかな」
「じゃあ、今度作り方教えてあげるよ。簡単なやつからね」
机に置いた弁当箱越しに、彩愛の優しい声が響く。
窓から入る風が紙の匂い運んできて、穏やかな時間が流れる。
彩愛とこうやっていると、頭の中が静かになる。
別の日、図書室で彩愛が「休日って何してるの?」と、聞いてくる。
本の整理しながらの会話。
「散歩したり、音楽聴いたり。たまにゲームするくらいかな。彩愛は?」って答えると、「私は本読んだり…うーん、あ、最近お菓子作り始めたんだ」って言う。
「お菓子?器用だね」
「うん。クッキー焼いたら、意外と美味しくてさ。今度持ってこようかな」
「マジで?楽しみにしておく」
「じゃあ、明日持ってくるね」
彩愛のことをどんどん知れる。
◇
彩愛との距離は日に日に近くなる。
ある夕方、図書室で「九条くんってどんな人がタイプ?」と、聞いてくる。
タイプ…か、一瞬美緒が過ぎるが、あれはタイプとかそういうのではなかった気がする。
「タイプ?あー、穏やかで、話聞いてくれる人かな。あと、一途な人。彩愛は?」
「私は優しくて頭いい人。見た目は…メガネ似合う人がいいかな」
「俺、メガネだけど」と、冗談混じりに言うと「うん、似合ってるよ。落ち着いて見える」って笑う。
少し顔が熱くなって、本の背表紙で顔を隠して目を逸らす。
「ねえ、おっぱいは大きい方が好き?」と唐突に聞いてきて、「は!?」って声が裏返る。
「冗談だよ。でも、顔赤いね。おっぱい好きなんだ」
「す、好きじゃないし…」
「えー?好きって言ったら見せてあげたのに」
「なっ!?//」
「可愛い反応」と、くすくすと笑う。
「…じゃあ、メガネはあったほうがいい?」
「メガネ?うーん、ないほうが好きかな」というと、彩愛はメガネを外して上目遣いで距離を詰めてくる。
「…本当?」
その可愛さに思わず、目を逸らす。
「本当」
彩愛のこういう一面がどんどん知れて嬉しかった。
「そういえば、九条くん、絵は描ける?」
「落書きくらいなら」って答えると、「じゃあ、これ描いてよ」と、ノートに鳥のスケッチ指す。
適当に描いて渡すと、「上手いね。私、絵下手だから羨ましい」と呟く。
「彩愛は料理できるじゃん。そっちの方がすごいよ」って返すと、「お互い得意なとこあるね」と笑う。
ノートに描いた鳥見ながら、「これ、私の家の近くにいるやつに似てるよ」
彩愛の日常、少しずつ見えてくる。
「ね、好きな映画ってある?」
「映画…アクションなら『マッドマシン』かな。勢いあって好きだよ」
「私は『プラダ』が好き。おしゃれな雰囲気で話も面白いんだ」
「へえ、今度見てみるよ」
「私も見てみる。感想言い合おうね」
彩愛と趣味の話するたび、新しい繋がりができてる気がする。
また別の日の夕方、彩愛が「この本、重いから持ってて」と、頼んでくる。
2人で本運んでると、指が触れて、「手、冷たいね」と呟く。
「彩愛の手が温かいんだよ」
「そうかも」と笑った。
本棚に並べ終わると、彩愛が「九条くんとこうやってると、楽しいよ」と本当に楽しそうに笑う。
俺もだ。彩愛の声、穏やかで心に響く。
◇
彩愛がどんどん積極的になってくる。
ある昼休み、「これ、昨日焼いたクッキー」と、袋差し出す。
「和風の味にしたよ。食べてみて」
甘さ控えめで、サクッとしてて美味い。
「彩愛、ほんとすごいな」
「良かった。もっと作ってくるね」
机並べて食べながら、彩愛が「九条くんって優しいよね。話しやすいし」と笑う。
「俺も彩愛と話してると落ち着くよ」と返すと、「嬉しいな」と微笑む。
「はい、あーん」と、クッキーを差し出してくる。
「い、いや、自分で食べられるから」
「いいからいいから。はい、あーん」
「…あーん」
嬉しそうに笑うと「ね、休日、どっか行かない?」と、提案された。
「どこか行きたいとこあるの?」
「カフェ巡りしたいの。一人だと入りづらいし…九条くんと一緒なら楽しそう」と、少し照れる。
「いいよ。いつにする?」
「来週の日曜はどう?」
「駅前で11時に待ち合わせな」
「楽しみ」
普段静かな彩愛が、俺の前でいろんな表情見せてくれる。
胸が温かくなる。
休日前の放課後、彩愛が「日曜、楽しみにしてるからね」と、念押しされる。
「俺もだよ。晴れるといいな」
「晴れるよ。私、晴れ女だから」
図書室出て、校舎の廊下歩きながら、彩愛が「九条くんと過ごす時間、なんか特別だよ」と言ってくれる。
俺も同じだ。
彩愛とこうやってると、新しい自分になれる気がする。
15年の傷が、彩愛と過ごすたび薄れてく。