第2話 隣で笑う彼女と俺の距離
高校2年の夏、2011年7月の昼休みのこと。
教室の扇風機がガタガタ回ってて、窓の外じゃ蝉がうるさい。
制服のシャツが汗で背中に張り付く中、月見美緒が隣の席でガラケー弄ってる。
画面にはA◯B48の着うたランキングが映ってて、「ヘビーローテーションがやっぱ最高だよね」という声が響く。
ショートカットの髪が汗で少し湿ってて、首筋が白く光ってる。
高校生になって、彼女の可愛さはより増すばかりだった。
「悠翔、夏休みの予定って何かある?」と、こっち向く。
「バイトでもしようかな。コンビニとか」
「えー、コンビニかー。暇だったら遊びに行くねw」
すると、男女のグループがやってきて、楽しそうに話を始める。
その輪に俺は入れない。
数日後の昼休み、教室の喧騒が響く中、美緒が急に席を立って誰かと話してる。
陽坂 奏斗
高2になって転校してきた奴だ。
身長180cm超えのイケメンで、サッカー部のエース。
頭も良くて、黒髪が自然に流れてて、笑うと歯が白く光る。
名前までかっこいいし、俺とは正反対だ。
眼鏡かけた地味で頭も良くない172cmじゃ、影も踏めない。
そして、昼ごはんの時も「奏斗くんが、サッカーの試合でハットトリック決めたんだって!」と、美緒が目を輝かせて言う。
「そうなんだ」
俺は黙って弁当食うしかなかった。
あいつが転校してきてから、美緒の話題がそればっかりになっていた。
嫌な予感が胸を締め付ける。
◇
夏休み明け、8月末。
始業式の後、美緒が教室で女子たちと騒いでる。
「実はさ、奏斗くんと付き合うことになったんだ!」と、少し照れながら笑う。
頬が少し赤くて、髪が揺れる。
周りの女子が「えー!お似合いすぎ!」ってキャーキャー言う中、俺は教科書開くふりして下向く。
心臓がドクドク鳴って、耳が熱くなる。
知ってた。
夏休み中、美緒が奏斗とプール行った話もTwitterで流れてきた写真で見た。
水着姿の美緒と、隣で笑う奏斗。
それに夏休み中美緒は一度だって俺のバイト先には来なかった。
放課後、校門で美緒が「悠翔、聞いてよ!奏斗くんと初デートしたんだ!」と、駆け寄ってくる。
「映画館でさ、『ハリー◯ッター』の新作見てきた!奏斗くん、ポップコーン分けてくれて優しかったんだから!」
俺は「へえ、良かったな」って返すのが精一杯。
頭の中じゃ、奏斗が美緒の手握ってる想像がぐるぐる回る。
いや、それだけじゃない。
キスをして、その先も…。
次の週、教室で美緒が奏斗と弁当食べていた。
あいつが「美緒、あーん」と、唐揚げをあーんして、美緒が「やだ、照れるじゃん!」って笑う。
俺は窓際で一人、コンビニのサンドイッチの袋を開ける。
美緒とお昼を食べることも無くなって、1人で食べるようになっていた。
ガラケーで着うた流して気を紛らわそうとするけど、そんなものでは紛れない。
あの2人、どんどん距離が縮まる。
俺はただそれを見てるだけだ。
帰り道、美緒が「奏斗くんね、数学教えてくれるんだ!昨日も電話で2時間話してて…」と、惚気てくる。
「そっか、よかったな」
数学なら俺だって教えられる。
というか、数学だけはあいつよりも点数が高いし、実際今までは教えてきた。
そんな場所すらあっさり奪われた。
自分の立場がどれだけ安いものかを分からされる。
あいつの声、あいつの笑顔が美緒を満たしてる。
俺の存在なんかもう、空気みたいに薄い。
◇
秋、文化祭の準備中。
美緒と奏斗がクラスの出し物でペア組んでる。
あいつが脚立に乗って飾り付けしてて、美緒が「高すぎ!落ちないでね!」と、笑う。
「大丈夫、美緒のためなら頑張るよ」
あの軽いノリ、真似できない。
俺は裏方でダンボール運ぶだけ。
汗で眼鏡曇ってて、指先が冷たい。
美緒がこっち見て「がんば!」って言うけど、その笑顔は友達としてだ。
冬、教室で美緒が「奏斗くんとクリスマスデートするんだ!イルミネーション見に行くの!」と、話す。
俺は黙ってノートに落書きする。
クリスマスにバイト先のコンビニで1人、レジ打ちしながら、美緒が奏斗と笑ってる姿想像すると、頭がおかしくなりそうになる。
そして、迎えたクリスマス。
ガラケーの画面見ると、友達がTwitterで「美緒と奏斗、めっちゃラブラブじゃん!」と、盗撮したであろう画像と共に呟いていた。
胸が締め付けられて、息苦しかった。
どんどん遠い存在になることが、辛かった。
年明け、バレンタイン前。
美緒が「奏斗くんにチョコ作るんだ!喜んでくれるかな?」と、相談してくる。
俺は「うん、喜ぶよ」と、作り笑いをした。
あいつのために美緒が頑張ってる姿が眩しすぎて目を逸らした。
◇
高校卒業の日、2013年3月。
美緒と奏斗は付き合ったまま、一緒の大学に進んだ。
美緒が「悠翔、別の大学に行っても一生幼馴染だからね!」と、笑う。
俺は違う大学に進学することになった。
あの2人の幸せそうな姿を少しだけ見ずに済むのは救いだった。
◇2025年4月
俺はアパートの薄暗い部屋で缶ビール握る。
美緒は春に子供を産んだ。
毎年の同窓会で聞かされる惚気話。
あいつが昇進した話、家族旅行の写真。
俺はただ頷いて、笑顔を作ってた。
あの夏からずっと、美緒の隣は奏斗だ。
俺は13年間、少し俯瞰で見続けて、嘘の笑みを貼り付けていた。
美緒があいつと笑うたび、心が削れる。
仕事帰り、雨の中歩きながら思う。
告白してれば何か変わったのか?
いや、仮に成功していたとしても、どうせいつかはあいつと出会って、俺は捨てられていただろう。
部屋の窓、雨粒が叩いてる。
缶ビール空にして、床に転がす。
胸の奥が痛くて、涙が溢れる。
15年分の想い、どこにも吐き出せないまま。