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【二話】

朝の小屋は、私にとって小さな研究所だ。新たな魔法の実験台であり、日常を支える基地でもある。昨日は果物をもぎ、ナッツを食べ、クッキーもどきを焼いて、魔法で生活を成り立たせる楽しさを知った。今朝はもう少し進んだことをしてみよう。


「さて、今日はもう少しまともな食事を目指してみようか。果物は甘くていいけど、さすがに舌が甘みになれちゃいそうだし。」


小屋を出て、周囲の森を見渡す。昨夜はぐっすり眠れた。苔ベッド、なかなか快適じゃないの。ここはまるで私専用のリゾート地だ。


魔法で木々の声に耳を傾けると、少し離れた場所に小さな野原があるらしい。そこには背の高い穀物風の植物が生えているようだ。試しに行ってみようか。この森の生態系は私の意志に呼応することが多いみたいだから、うまくやればパンや麺の素材になりそうな穀物もゲットできるかもしれない。


森を抜けて少し歩くと、木々がまばらになり、明るい空間が広がった。そこには穂先がふわふわした植物が密集している。麦のようにも見えるし、キビみたいにも見える。とりあえず一房とって、実を指で潰してみると小さな粒が出てくる。噛んでみると少し甘みがあって悪くない。これを粉にすれば、もっとバリエーション豊かな食事が作れそう。


「よし、これを収穫して、小屋で精製だ!」


魔法を使って一部を刈り取り、宙に浮かせたまま粒を振るい落とす。落ちてきた粒子はグルグルと空中で回転し、細かな粉状になって私の手元に集まる。おお、なんだかファンタジー工場長みたい! 私はニヤけながら粉を集める。こんな簡単に製粉できるなんて、魔法最高じゃないの。


これを使ってパンっぽいものを作りたい。昨日はナッツでクッキーもどきを作ったけど、今日はもう少しふわっとしたやつに挑戦。水は小川から汲んで、粉と混ぜ、魔力で軽く練る。粘土細工みたいにコネコネと空中でこね合わせると、生地らしきものが出来上がった。そこに少し甘い果物の汁を足し、発酵っぽいイメージを魔力で注ぎ込む。発酵菌がないけれど、魔力で細菌もどきを生成……なんてできるのか? えいやっとイメージを強く念じてみると、生地がポワンとふくらんだ気がする。気のせいかもしれないが、まぁいい。


今度はオーブンがわりに魔力で熱をコントロールする。鉄板なんてないから、平たい石を魔力で熱し、その上に生地を置き、上からも軽く魔法火球を浮かべて覆う。待つことしばし、香ばしい匂いが漂ってきた。表面はきつね色で、ちぎると蒸気がほわっと出る! かじると……おお、ちょっとモチモチしたパンらしきものが完成。ほんのり甘くて優しい味だ。


「これはイケる! 文明を感じるじゃないの。」


まるで一人でこの世界に文明を築いている気分だ。自給自足の魔女ライフ、なかなか刺激的。これを朝食に決めて、冷蔵空間で冷やしておいた果物を添える。フルーツサンドも作れるかもしれない。包丁がないけど、魔力でスパッと切れば問題なし。ふわっと切ったパンにスライス果物を挟んで、もう気分はカフェのモーニングプレート。何この贅沢。


「うっわ、こんなこと誰かに見せてあげたい。いたら絶対『お前、火あぶりされてたヤツとは思えん』って突っ込まれるわね。」


そう考えると、ここは孤独ともいえる。元の世界には戻りたくないけど、異世界での知り合いがゼロなのも寂しいといえば寂しい。まぁ、しばらくはこの自由さを楽しもう。


朝食をとり終わって、ひと段落したら、次は設備投資に移る。木材で小屋は作れたが、もう少し手を加えたい。ベッドを柔らかい苔だけでなく、織物のシーツで覆ってみるとか、服のバリエーションを増やすとか。さらに、井戸的なものを作ってみたいかも。魔力で水脈を見つければ、自動的に小屋の近くまで水を引けるんじゃない?


「それ、やってみよう!」


小屋の横に立ち、地面に手を当ててイメージする。地下水を感じる……じわりと足元から冷たい流れを認識した。そこに向けて魔力で穴を開けていく。土がずずっと動き、円柱状の空間ができあがる。その内壁を魔力で固めて石壁にする。地中深くから水が湧き上がり、底に溜まったところでバケツがわりの木製容器を魔力で生成。ロープも植物の繊維から生成して……はい、あっという間に井戸完成。


「すごい、なんかもう神様みたいな働き方だわ。」


水をすくい上げて飲んでみる。冷たくて美味しい。この世界の水は不思議なほど澄んでいて、まるで浄化されているみたい。これで水確保もバッチリだ。


次はもう一段階進んでみようか。服をもっとオシャレにできないかなぁ。淡緑のワンピースは悪くないけれど、もう少し色が欲しい。染料になる植物を探し、赤や青の花を集めて繊維に染み込ませてみる。魔力で色を定着させ、柄っぽい模様もつける。すると、ちょっと地味だった服が可愛い柄物に早変わり。森ガール感増し増し!


「これはテンション上がるわね。服装ひとつで気分が変わる。」


パンも作れた、井戸もできた、服も可愛くなった。ちょっと調子に乗りすぎかなと思うが、誰にも怒られない自由さがたまらない。新しいものを生み出すたびに、前の世界の鬱屈した時間が遠ざかっていく。あの狂った社会から脱出できたんだから、好きなように生きていいじゃない。


それにしても、この世界はまるで私を歓迎しているかのよう。魔法はスムーズに扱えるし、環境は豊か。魔力を込めるだけで植物は応え、資源はいつでも手に入る。まるで私がこの世界の主役みたい。


ただ、こうして力を振るえば振るほど、復讐心も少しずつ冷静な形をとり始めている。「あの世界に戻って焼き払いたい」という生々しい怒りは、今はまだ小さくなり、代わりに「いつでも倒せる相手」くらいの軽い感覚になりつつある。ここでさらなる力を蓄えれば、復讐ももはや苦労にはならないだろう。


「ま、焦る必要はないわね。まずはこの世界を理解しないと。」


今日はパン作りや井戸で時間を使ったから、もう少し周囲を探索しようかと思ったが、なんだかお腹も満たされて眠くなってきた。満腹でまったり。ゆっくり昼寝なんて贅沢すぎる。一度昼寝して、起きたら今度はちょっと遠くに行ってみようかな。それとも何か動物に魔力で話しかけてみるとか? このリスみたいな生き物をペットにできたら楽しそうだ。


「あー、やりたいことが多すぎて困る! 最高ね!」


こうして私は、異世界で“魔女の休日”を存分に味わっている。誰にとがめられることもなく、自分の欲求と好奇心に従って行動し、魔力で全てを叶える。昼寝を挟んで、午後はまた新しい発明を考えてみよう。


例えば、自動でパンを焼いてくれる魔法オーブンとか? 野菜を育てる畑を魔力で創造するのはどうだろう? やること、楽しむこと、満載だ。

こうして、力なき魔女はもういないどころか、ここに“何でもあり”の魔女が誕生したわけだ。




(第2話 了)





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