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派手にいこうぜ、婚約破棄!

「ボニータ! お前との婚約を破棄するっ!」


 賑やかだった卒業式典の会場は、一瞬にして静まり返った。


 王立学園の大広に設えられた檀上から、第三王子にしてボニータの婚約者であるクラウスが婚約破棄劇をおっぱじめたからだ。


 ボニータは心の中でガッツポーズをとった。


(やったっ! これで自由になれるっ!)


 旅立ちの春に相応しい展開だ。


 王立学園の大広間に集められた卒業生である貴族の令息・令嬢たちは、息を呑んで事の成り行きを見守っている。


 第三王子であるクラウスは、ボニータと同じ18歳。

 側妃の息子であり、身長も180センチに少し届かない程度ではあるが、王族である証のような金色の髪と青い瞳を持っている。

 端正な顔立ちはしているものの、立場の微妙さと性格の傲慢さから令嬢たちには人気がない。


 ついでに言えば愚か者である。


 森の魔女であるボニータが第三王子とはいえ王族と婚約した理由を知る者は少ない。

 一般の貴族、ましてやその令息・令嬢ともなれば、詳しい事情を知る由もないのである。

 だが森の魔女と王族の婚約に、何の意味もないと考える者は少ないだろう。


 意味などないと考えるのは愚か者だけだ。


 その数少ない愚か者の一人である第三王子が、華やかに咲き誇る花々が飾られた檀上から得意げに婚約破棄を告げる姿は滑稽ですらある。

 だがお約束も心得ているボニータは、ソバカスの浮く鼻先に不満げなしわを寄せながら、クラウスに聞いてみた。


「どうして私が婚約破棄されなきゃいけないんですか? 理由を教えてください」

「言わねばわからぬか?」


 クラウスは青い瞳に侮蔑の色を浮かべてボニータを見た。

 だが愚か者の王子に侮蔑されても、彼女にとっては痛くもないし痒くもない。

 ボニータはとても冷静な状態のまま、お約束でもある言葉を口にした。


「はい、わかりません」


 思惑を隠して真剣な表情で答えた彼女に、金髪碧眼の美しい王子さまは鼻をフンと鳴らした。


 彼の眼に映るのは、紫のフワフワした髪に紫の瞳を持ったチビで痩せっぽちの魔女だ。

 色は白いがソバカスの浮く顔に高貴さはなく、とても庶民的。

 平民であれば愛嬌があると言われるであろう可愛らしい顔も、王族であるクラウスにとっては醜悪にすら見えた。


 その上――――


「お前は私の愛する女性、レイラを傷つけた! 卑怯にも魔法を使ってな」

「クラウスさまぁ~」


 甘い声を出してクラウスに寄りかかるレイラは男爵令嬢だ。

 レイラはピンクの髪に赤い瞳を持つ、細身なれど出るべき所は出て引っ込む所は引っ込んでいるスタイル抜群の魅力的な令嬢である。


 通常ならば男爵令嬢ごときが第三王子とはいえ王族とお近付きになるとかありえないのは、王国の常識だ。

 だがクラウスは魔女と婚約させられるという常識的にあり得ない状態だったので、レイラが彼に取り入ることなどたやすかった。


 常識的にあり得ない婚約だったことについては、クラウスにも同情すべき点もある。

 しかしボニータは彼に冷たく当たられ続けたのだから、そんな義理はない。

 愚か者に冷静な軽蔑を送るべく、ボニータは顔をしかめた。


(私が男爵令嬢ごときに魔法を使う? ハンッ! ありえないわっ!)


 とはいえ、そこに突っ込んでしまうと婚約破棄がスムーズにいかなくなる。

 それはボニータも困るので黙っていた。

 クラウスは我が意を得たりとばかりに傲慢な笑みを浮かべ、声高らかに宣言する。


「クソ生意気なお前が黙ったということが、何よりの証拠! よって魔法契約を解除し、この婚約を破棄するっ!」


 その瞬間。


 パンッ! と会場を揺さぶる衝撃と共に大きな音が響き、ボニータはニヤリと笑った。


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