愚か者たちの結末!
「お前がどうしてここにいる? 王城は男爵ごときが気軽に立ち入ることができる場所ではないぞ」
アーサーの厳しい言葉に、クラウスはへラリと笑った。
一気に人が集まって賑やかになったアーサーの執務室でクラウスは、わざとらしく片膝をついて言った。
「兄上、お困りなのでしょう? 私なら役に立てますよ」
そう言いながら青い液体が入った小瓶を兄に向かって差し出した。
「……なんだそれは?」
怪訝な表情を浮かべたアーサーは、クラウスの手元をまじまじと見つめた。
そこにあるのはインクのような青い液体の入ったガラスの小瓶だ。
これが今の困りごとへ、どう役に立つというのだろう。
クラウスは商売人のような、わざとらしい調子で言った。
「これは毒消しでございます」
「毒消し?」
(ボニータに使われた毒が何なのか分からないのに、毒消しがなぜ出てきた? しかもクラウスのような愚か者の手の中から……)
そこまで考えたところで電光石火、アーサーの中で答えが見えた。
「お前っ! ボニータに毒を盛ったのはお前だなっ!」
アーサーの怒鳴り声に、クラウスの肩がピクリと上がる。ピンク髪の男爵令嬢に至っては真っ青だ。
「なっ、なんでそんなに怒っているのですか、兄上?」
「そうですわ、王太子殿下。お怒りを鎮めてくださいませ」
ぶるぶると仲良く震えるバカップルに、アーサーの表情は更に怒りの色を深くした。
「国を守る結界を張っている魔女に毒を盛るヤツがあるかっ!」
「いや、あの、だから、この毒消しがあれば森の魔女は助けられます」
青い顔をして震えながらも訴えるクラウスに、アーサーは更に詰め寄った。
「毒消しがあるからって、なんてことをっ!」
「そんな怒らなくても……あの生意気な魔女に恩を売って、従わせるつもりだったのです」
アーサーの怒気にたじろぎながら、クラウスは自分の考えを吐露した。
「これを飲ませれば魔女は元気になります。結界が緩んだのは計算外だったけど……これで元通りでしょ?」
アーサーは弟たちをギロリと睨むと冷たく言い放った。
「衛兵。この者たちを捕らえよ」
「なっなぜです⁈ 兄上」
「そんな……横暴ですわ、王太子さま」
アーサーの一言で、クラウスと男爵令嬢は圧し潰されるようにして衛兵に捕らえられた。
クラウスは自分を抑えつけてくる衛兵に抵抗してジタバタしている。
その隣にいる男爵令嬢も同じようにジタバタしていた。
「ちょっと、なにをするんだっ」
「そうよ、放しなさいよっ!」
拘束され暴れる二人を冷たく見ながらアーサーは更に命じる。
「コイツらを男爵領に送れ。」
アーサーの言葉に衛兵たちはクラウスと男爵令嬢を抱えてドアを目指した。
「ちょっ、待てよっ」
「イヤァァァァァ、放してぇぇぇぇぇぇ」
無様に連れていかれる二人の背中にアーサーは追い打ちをかけるように言い放つ。
「お前たちは夫婦になり、共に助け合って暮らすんだな。二度と王都には戻れないと思えっ!」
「そんなぁぁぁ」
「イヤァァァァ」
悲鳴のような声を上げて連行されたクラウスと男爵令嬢は、そのまま貧しい男爵の領地へと送られた。
一方、王城では早速、宮廷医師たちの手によりボニータへ毒消しの薬が投与された。
だが、クラウスの説明とは異なり、彼女の容態が変わる様子はなかったのである。




