新しい生活
一睡もできずに朝が来てしまった。
夜ご飯の時もこれから一緒に住むという事実に緊張してしまって味がよくわからないまま食べて、そのままベッドまで放心状態できたから未だに一緒に住むという事実に緊張したままである。
「嘘、もう……朝じゃん」
ピピピピピー。 スマホのアラームが大きく鳴り響き、起きろと言っている。
俺の目の下にはクマを飼っていることだろう。
「空ちゃーん! 朝よー」
祖母が大きな声で俺を起こす声も聞こえてきた。
「眠た……」
目をこすりながら大学に行く準備をしていく。
ある程度、準備を終えてから洗面台に向かったが、もう少しゆっくり準備してから向かえばよかったと後から後悔することになった。
なぜなら、漫画で定番のアレを俺は起こしてしまったのだから…………。
「…………」
「…………」
少し、濡れた髪にタオル一枚巻いた姿の雲母がぽかんとして俺を見た。
「んー。 今は私が使っているので空太さんは後でもいいですか?」
そう言われて、ハッとした。
「…………すっ、すいませんでしたーー!!」
ドアをバンっと大きな音を立てて閉めて走って自分の部屋に戻った。
やってしまった。 早速やらかしてしまった。 まさか……まさかあんなお約束な展開が起きるなんて思わなかった!
真っ赤になっているであろう顔を両手で隠し、部屋に着いた途端その場にしゃがみ込んだ。
心臓がバクバクとすごい速さで音を立てている。
それと同時に彼女の姿が頭から離れない。 今からどんな顔をして彼女に会えばいいのかわからない。
ドンドン。 ドンドン。 と俺の部屋を叩いている。
「ちょっと、変態! 出てきなさい」
部屋の外から雨希の声が聞こえてきた。
「へっ、変態って……好きで見たわけじゃ……」
でも、見たのは本当だしな……。 しかも、その姿が忘れられない。
「早く出てきなさい!」
ドンドン。 ドンドン。 さらに部屋のドアを叩かれる。
俺は、恐る恐るドアをゆっくり開けると……そこに立っていたのは思っていた通り雨希だった。 それも、仁王立ちした雨希だ。
「えっと……」
俺は何を言っていいのかわからず、彼女の前で正座をして座った。
「朝ごはん、できてるわよ。 覗き魔」
俺を軽蔑した目で見た後に、クイッと親指でリビングの方を指した。
「だっ、誰が覗き魔だ! 別にわざとじゃ……」
「もう、早く来てくれないとー! 朝ごはん、食べられないじゃないですかー!」
俺の言葉を遮りながらリビングから出てきたのはこの件の当事者である雲母だった。
彼女は俺の顔を見ても気にしていないのか、にっこりと笑いかけてきた。
「朝ごはん。 和佳子さんの朝ごはん、すごく楽しみなんですからね! 二人とも、早くしてくださいよ」
本当に楽しみなのか、ニコニコしている雲母を見て雨希は俺を一回、睨んだ後に背を向けた。
「ふんっ」
「わっ、わかりました……」
雲母の言葉にしたがい、俺たちはリビングに向かった。
気まずい、朝ごはんになってしまった。
おばあちゃんはそんな俺たちのことを気にすることもなく一緒に朝ごはんを食べていた。
俺のおばあちゃん。 強くない? こんなに変な空気なのに普通にご飯食べてるんだけど……。
そこで、晴陽がいないことに気づいた。
「あれ? 晴陽さんは?」
「晴陽ちゃんなら少し前に大学に行ったわよ。 空ちゃんに朝から会えなくて残念がっていたわ」
「そうなんだ……」
「あら、朝から会えなくて残念?」
祖母からそう言われてドキッとした。
「別に、そうじゃないよ」
残念も何もない。 昨日、初めて会ったばかりの人にそんなこと思うわけ……。
「ごちそうさまです!」
「ごちそうさまです」
雲母と雨希は食べ終わったようで二人とも席から立った。
「後片付けは私がしとくから、二人とも準備していってらっしゃい」
「「ありがとうございます」」
二人は一度、自分の部屋に戻り家を出る準備をし始めた。
「空ちゃんも、早く食べないと遅れるわよ」
祖母にそう言われて時計を見ると、家を出る時間が迫っていた。
「あっ、そうだ。 これ、お弁当。 お昼に食べてね」
「ありがとう」
祖母からお弁当を受け取り、行く準備を始めて彼女達よりも少し後に家を出た。
もちろん、受け取ったお弁当も忘れずにだ。