勝手に彼女を募集された件⑥
「じゃあ、雨希は雨希でいいかな? ねっ、空ちゃん」
彼女達をボーとしながら見ていたら急に声をかけられて意識を戻すと笑顔の晴陽とは対照的に雨希の方は睨んでいた。
「本当なら雨希って下の名前で呼ばれるのは不服だけど、雨琉くんがいるから仕方なく、本当に仕方なく呼ばせてあげるわよ」
ふんっと聞こえそうなほど顔を背けられた。
「雨希ったらツンデレなんだから」
「このこの〜」と言いながら晴陽が雨希の頬を突いている。
それにキレそうになる雨希。
本当に仲良いな。
「皆んなは元から知り合いなの?」
「じゃあ、自己紹介がすんだことだし、皆んな荷物を片付けてきたら?」
俺の言葉に被せてきた祖母の発言に驚きを隠せない。
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「おばあちゃん。 『えっ?』に『えっ?』で返さないで。 荷物の片付けって何?」
彼女達を見ると、それぞれスーツケースと大きめのバックを手にしていた。
それを見る限り、何泊か旅行に行くような荷物の多さである。
「彼女達、今日からここで住むことになったのよ」
笑顔でそう言った祖母の言葉に固まってしまった。
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「いや、だから……って、そんなことよりも! 俺、聞いてないんだけど?」
「今、言ったじゃない」
「遅いよ! もう少し、早く言ってくれない? すっごく大事なことだよね」
一緒に住むだなんて…………。 そんな……。 そんな……。
「ラブコメ漫画みたいなことが現実に起こるなんて……もっと、心の準備が必要なんだよ!」
「あらあら。 驚かせようと思ったのに。 うちの孫は思ったよりも純情だったようね……」
「純情で片付けないで! それに、おばあちゃんがいるとは言え、年頃の男女が一緒に住むのは如何なことだと思うんだけど⁈」
「年頃の男女って……空ちゃんだから……」
「俺、男だよ? わかってるの?」
よくないよ。 年頃の男女……と言っても男は俺だけなんだけど。 それでも、それでも! 漫画の読み過ぎかもしれないけど、ラブコメみたいなことが実際に起こるかもしれないじゃん! ほら、お風呂で鉢合わせ? みたいな?
「そこは大丈夫よ。 おばあちゃん。 もし、空ちゃんが良からぬことをしようとしたら切るから。 物理的にね。 これで」
「これって……えっ⁈ どこから出したの? その薙刀!」
祖母はどこから出したかわからない薙刀を手に持って俺に向けていた。
「これ、横の部屋に防犯用に引っ掛けてあるのよ。 いつでも使えるようにね」
本当に、物理でやるつもりな祖母に彼女達はキャッキャと祖母に駆け寄ってきた。
「えー! 和佳子さん! すっごくかっこいい!」
「そうね。 すごくかっこいいです」
「モゴ。 良い。 すごく良いでふ。 モゴモゴ」
雲母はまだ食べていたのか……。
四人の楽しそうな姿に遠い目をしそうになった。
俺はこんなにパニックに陥っているのに、彼女達はそれでいいのか?
「君たちはそれでいいの? 一緒に住むんだよ⁈」
「「「いいの」」」
声を揃えてそう言った彼女達に俺は頭を抱えそうになった。
どうして、こうなったんだ?
「じゃあ、今日からよろしくね! 空ちゃん!」
「まあ、よろしくしたくはないけど、お世話になるわ。 空太」
「よろしくお願いしますね! 空太さん!」
そう言って笑った彼女達。
こんな、漫画みたいなことが起こるなんて……。
これからのことを考えると、不安と同時に心臓が高鳴った。