勝手に彼女を募集された件④
「じゃモゴあ、モゴ……次……モゴモゴ私……モゴかな?」
「えっ?」
聞き取れなくて彼女の方を見たら、頬をハムスターのようにパンパンに膨らませ、何かを食べていた。
「そんなにクッキーを頬に詰めなくても誰も取らないわよ」
雨希が呆れながらも自身の近くにおいてあったクッキーも彼女の方に寄せていた。
クッキーを食べていたのか……。 あんなに頬に詰めてよくむせないで食べられるな。
それよりも……。
「クッキーも買ってきてたの」
俺の心を読んだように晴陽が答えた。
「君も雲母に食べられる前に食べなよ」
雲母というのはきっと今頬をハムスターのようになっている彼女のことだろう。
「ありがとう」
一枚もらって口に入れた。 サクッとした食感にアーモンドのほのかに甘い口当たり。
「……美味しい」
俺の言葉に反応したのは晴陽ではなく、雲母と呼ばれていた彼女だった。
「そうでしょう! そうでしょう! 私が選んだんですよ!」
さっきまで頬がパンパンに膨れていたのに今は見る影もない。
「ヘえ……」
「タルトも美味しかったですが、クッキーも美味しいですよね! もう、止まらない美味しさ」
そう言って、また口にクッキーを詰めていく。
「…………」
「あれ? もう食べないんですか?」
いつの間にか頬に詰めていたクッキーがなくなり、もう一枚クッキーに手を伸ばしていた。
「雲母、一度食べるのはやめて自己紹介しなよ」
雨希が近づけたクッキーを晴陽が遠ざけた。
「むぅ」
「後でまたクッキー返すから」
その言葉を聞いて、視線がクッキーから俺に代わった。
「じゃあ、自己紹介を始めますね! 私の名前は明智雲母です! 食べることが大好きです! よろしくお願いしますね」
にっこりと笑う姿は太陽がよく似合いそうだ。
「よろしく」
自己紹介を終えると、すぐにまたクッキーを食べ始めた。
俺よりもクッキーの方に興味があるようだ。
皆の自己紹介を聞き終えると、祖母はニコニコしていた。
「なんだか、孫が増えたみたいで嬉しいわ」
「……俺はどうしたら良いかわからないんだけどね」
今の状況に頭を抱えたくなるのと同時に少し浮かれてしまっている自分が嫌になりそうだ。
「どうしたの?」
そして、察しが良い晴陽にすぐに気づかれるのも何とも言えない気持ちになる。
「えっと……皆んな、何で俺の彼女に立候補したのかなって? 誰も俺のこと知らないし……」
「ふふ……知りたい?」
その言葉にうなづくが晴陽は口に人差し指を当てて笑った。
「内緒だよ」
「えっ……」
ドキッとした。 今、すっごいドキドキしている。
頬が熱を帯びていくのがわかる。
「あんた、顔真っ赤よ」
「まるで、さっき食べたいちごタルトのいちごのようですね」
「ふふっ。 私の孫は純情なのよ」
俺の様子に皆口々に勝手なことを言っていく。
「ただ、暑かっただけだし」
絶対に誤魔化せてしないが、手で仰ぐふりをしながら「暑い、暑い」と言いながら顔を背けた。
だが、未だに心臓がうるさく動いていることは内緒だ。
その様子に気づいているのか祖母だけはまだ、笑っていた。