えっ……デート?②
土曜日の朝。
雲母と駅前に十時に待ち合わせをしており、現在九時四十五分。
雲母からは一緒に家を出ましょうよ、と言われたが、二人で出かけるとなると変に怪しまれると嫌なので、俺が先に家から出てきた。
格好はいつもと同じような服装だ。
だって、今日はデート服を買いに来たのだ。 だから、いつもと同じなのだが…………今日、どう見てもデートじゃない?
何でデートする相手とデート服を買いに行くことになってるの? いやまあ、俺が持ってないからだけど……。
「でも、今日はどう見たってデートだよね……」
本番は明日なのだが……。
そんなことを思っていると、肩をトントンと叩かれた。
「ん?」
後ろを振り返ると、ほっぺを人差し指でツンッと軽く押された。
「えっ?」
「ふふっ。 引っかかりましたね」
俺から手を離してにっこりと微笑んだ。
そこに立っていたのは俺が待っていた相手。 雲母だった。
「空太さん。 お待たせしました」
「いや、そこまで待ってない……」
雲母を見ると、可愛らしいワンピースに緩く巻かれた髪。 それにほんのりと色づいた唇。 どこを見ても可愛くオシャレをしている。
可愛い。 どこを見ても可愛い。
「ふふふ。 何だか、彼氏彼女、みたいな会話ですね」
「ええっ⁈ 彼氏彼女⁈」
「まあ、違うんですけどね」
「あはは……はは……だよね……」
雲母の期待させるようなセリフに一瞬ドキッとさせられた。
「じゃあ、空太さんの服を買いに行きましょうか?」
「そうだね……」
とりあえず、近くのショッピングモールに行くことに決めて二人並んで歩き始めた。
「空太さんに似合う服、頑張って選びますね」
「うん……ありがとう。 俺、自分で選ぶと同じような服を選んじゃうから雲母に任せるよ。 頑張って」
「はい! 任せてくださいね」
……やっぱりこれって、どう見ても周りからはデートしているみたいに見えないかな?
「……あのさ、雲母」
歩いていた脚を止めた。
「何でしょう?」
雲母も歩みを止めて、首を傾げて少し斜めしたから俺を上目遣いで見る雲母。
可愛い。
「んんっ……」
いかん。 また、チョロ太になりそうになった。
「大丈夫ですか?」
「だっ大丈夫。 そっ、それよりも! 今日って……その……あの……」
「はい……?」
「……デートみたいじゃないかな?」
言った! 言えた!
「本番は明日ですよ?」
首を傾げてそういう雲母。 その目は今日は決してデートではないと言っている。
そうなんだけどね。 確かにそうなんだけれども……。
「そっ、そうだね……。 あはは……はは……はぁ……」
「大丈夫ですか?」
「うん……大丈夫、大丈夫」
「変な空太さん。 でも、今日は空太さんと出かけられて嬉しいです」
ニコッと笑う雲母はルンルンとしながら前に歩いて行く。
「ほら、空太さん! 置いて行きますよ」
「……あっ、ちょっと待って」
雲母を追いかけて俺も歩き出した。
笑った雲母の笑顔にドキッとしたことは内緒だ。 本当にチョロ太に改名した方がいいかもしれない。
「空太さん、楽しいですね」
「うん、そうだね」
「ふふふっ……ふん……ふふふ」
小さな声で鼻歌を歌っている雲母。
その様子から今日のお出かけが本当に楽しいのだとわかった。
「まあ、いいか。 デートじゃなくても雲母、楽しそうだし」
「空太さん、何か言いました?」
「ううん。 何も言ってないよ。 俺も楽しいなぁって」
俺たちは知らなかった。
まさか、この二人で出かけていることを知っている人物がいるとは……。
「どうして、空ちゃんと雲母がデートしてるの?」
「知らないわよ! 空太のくせしてデートなんてずうずうしいわ!」