えっ……デート?
雨希とファミレスに行った日から数日が経った。
相変わらず、彼女達と一緒に住む生活はまだ慣れない。
だが、俺とは違い彼女達は慣れてきたのか、皆、遠慮というものを忘れてきている。
この前なんて俺が着替えてきている時に急にドアを開けられた。 俺が目を点にしていると、「これ、乾いた洗濯物でーす。 置いときますねー」って言いながら部屋に雲母が入ってきた。 俺が着替えていても何も気にしないのかそのまま普通に出て行った。
まあ、慣れた方がいいんだけどね! 俺は未だに慣れないけどね!
そして、そんな俺は今玄関を開けて入ってから固まってしまった。
何故なら、目の前に一枚の紙が落ちているからだ。 それも、可愛い少女とイケメンな少年が描かれている。
どう見てもこれ、少女漫画の1ページだよな。
俺は、落ちていた紙をそっと拾った。
拾ったまではよかった。 だが、誰の落としものかわからないため、どうして良いのかわからない。
「えーー。 これ、どうしよう。 雨希達の誰かのものだとは思うんだけど……。 ……勝手に拾って見たって言ったら怒るかなぁ」
三人の内の誰かだとは思うが、誰の物かは検討がつかない。
とりあえず、自分の部屋に戻って考えることにした。
その戻る途中で雲母の部屋の前に通ると声が聞こえてきた。
『わかってます。 ちゃんと、間に合わせますから……』
そんな言葉が聞こえ、通り過ぎる筈が思わず足を止めてしまった。
「えっ?」
雲母はもしかしたら借金をしている? と頭に一瞬よぎったが、そんなまさかとすぐに考えを改める。
何故なら、この間雨希から話を聞いた時にここに来る前にシェアハウスをしていた家は雲母の持ち家だと言っていた。 なら、お金は借りないでいいほど持っている筈だ。
「うん、うん。 そんな筈はない」
そう思って、また部屋に向かって歩き出そうとした瞬間にまたしても声が聞こえてきた。
『だから、大丈夫ですよ。 必ず間に合わせます。 だから、もう少し待ってください』
俺はまたしてもあの考えが頭に一瞬よぎったがそんなまさかだと思い、自分に言い聞かせる。
「……うん、きっと俺の考えすぎだ」
「何が考えすぎなんですか?」
「雲母が」
「私がですか?」
「えっ?」
パッと横を見ると、扉を開けた雲母が立っていた。
「雲母?」
「はい、雲母です」
まさかの本人登場。
「それで、私が何ですか?」
「えと……」
まさか、扉の前で盗み聞きしていたなんて言えない。 それに、勝手に聞いて勝手に想像していたなんて知られたら……。
「あっ!」
「ん?」
「これってさ、雲母の?」
俺はさっき拾った紙を雲母に見せた。
「はい! 私のです。 ありがとうございます」
俺は持っていたそれを雲母に渡した。
「はい、玄関に落ちてたよ」
「そうなんですね。 一枚足りないと思ってたんですよ」
一枚足りないって……。 拾った紙は漫画の1ページのような絵だったし……。 もしかしたら、趣味で漫画でも描いてるのかな?
「拾ってくれたお礼にデートでもしませんか?」
「えっ?」
えっと……ん?
「空太さん。 デートしませんか?」
聞き間違いじゃなかったんだ……。
「あっ、あのさ……。 雲母。 別にお礼とかいらないよ。 落ちていたから拾っただけだし……」
「でも……私、彼女候補ですよ」
「うん、まあ……そうなんだけどね」
「拾ってくれたお礼がしたいのもあるんですけど……デートがしたいんです。 空太さんと」
「えっ⁈」
本当? 本当に俺とデートしたいの? 嘘じゃない?
「さっき、部屋の前で話、聞こえていましたよね」
やっぱり気づいてたんだ……。
「ごめん……聞くつもりはなかったんだけど」
「そうですか……」
「あのさ、あの話は本当なの?」
電話中の雲母の声だけ聞こえてきたため、その言葉だけで想像したことだけど……。 もしかしたら、雲母は借金をしているかもしれない。 それが本当かどうか聞いておきたい。
お金のことは力には慣れないかもしれないが、話を聞くことはできる。
「本当です。 だから、手伝って欲しいと思って……」
手伝うって……。 あれかな? 『私とデートするためにお金を払って』ってことかな? だから、デートに誘われたの? 俺。
「その手伝いって……お金を払って欲しいってことかな?」
「えっ?」
「えっ?」
雲母が何を言っているのかわからない顔をしている。
あれ? 違うの? デートしたければ金払えって意味じゃないの?
「何の話ですか?」
「えっ? だから、雲母には借金があるからお金を出せって話じゃないの?」
「えっ? 私がですか?」
「だから、デートしようって」
あれ? 雲母が変な顔をしている。 俺、何か間違った?
「あれ……?」
「あのーー。 私って、借金があるんですか?」
「えっ? ないの?」
「ないですよー」
「でも、さっきの電話の内容はどう聞いたって……」
「えっと……。 空太さんは一体何を聞いたのでしょうか? 私はただ、締切まで待って欲しいって話の電話だったんですけど……」
「締切?」
「はい! 私、漫画描いてて。 その締切です」
えっと……。 雲母は漫画を描いていてその締切…………ということは……。
「えええええーー! 雲母って漫画家だったの⁈」
「そうですよー」
えへへと照れくさそうに笑う雲母。 その反対に驚愕している俺。
「拾ってくれたコレも原稿の一部だったのでよかったです」
「そっ、そうなんだ……。 だから、一枚足りないって……」
ということは、雲母は漫画家で借金などしていないってことだ……俺は酷い勘違いをしていたことがすごく今恥ずかしい。
「ごめん……。 俺、すごい酷い勘違いしてた……」
「全然いいですよーー」
「でも……」
「んーー。 じゃあ、やっぱりデートしてください」
「えっ?」
「今週の日曜日でいいですか?」
「えっ? 大丈夫だけど……」
「決まりですね。 デートといえば待ち合わせなので、九時に駅で待ち合わせしましょう。 じゃあ、まだ仕事しないといけないのでこれで失礼しますね」
そう言って部屋に戻った雲母。
「えっ……えっ……えええええーー!」
デート。 デートってアレ? 男女二人が出かけるアレ? まさか、俺がデートをする日が来るとは……。
喜んでいいのか? いいよね? デートだよ。 デート。
俺は走って自分の部屋は戻った。
「やったーー! デートだ!」
人生初めてのデート。 まさか、こんな感じで決まるとは思っていなかった。
「服、着ていく服決めないと」
ウキウキしながら、俺は服を片っ端から出していった。
「デートって……何を着ていくのが正解なの?」
服を端から見ていきながら正解を探すため、スマホで検索をかける。
『デート服 好感が持てる服装』 と検索画面に入れる。
すると、オシャレな服の画像がたくさん出てきた。
「……服、買いに行こうかな」
自身の持っている服とスマホの画面に写っている写真を見比べると自分の服が如何に地味かよくわかった。
そして、俺の心も地味に傷ついた。
「いや、これとこれを組み合わせてみたら案外…………うん、買いに行こう」
日曜日に出かけるから土曜日……明日だ。 明日、朝から探したら何とかデート服見つかるかな?
そんなことを考えていると、部屋の扉が空いた。
「空太さん? ちょっといいですか?」
「えっ⁈ 雲母⁈」
俺は急いでスマホを裏返して机に置いた。
「服……」
「あっ……」
俺は散らばっている服を見て恥ずかしくなった。
「きっ、雲母!」
「はい」
「部屋に入るときはノックしてって言ったじゃん」
俺は服から視線を外して欲しくて話を変えたが、雲母は服から視線を外してくれなかった。
「それはすみません。 次からは覚えていたらノックします。 それよりも、服を出している……ということは、デート服の考案をしているのでは?」
鋭い。 当たってる。
「それは、覚えていてよ……。 あと、雲母、正解。 デート服。 考えていたんだ……。 正解がわからないけど」
「なら、一緒に買いに行きませんか?」
「えっ?」
「せっかくなので、一緒にデート服選びましょう」
「んっ?」
いい考えというように手を合わせて微笑む雲母。
デートする相手とデート服選びに行くってどういうこと?