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相川姉弟②

 何とかファミレスに入ることができた。

 俺は雨希の真向かいに座りながら彼女に気づかれないようにそっとため息を吐いた。


 ここまで入るのに苦労した。 ファミレスに行ったら雨流くんに連絡を入れるから、と約束したことで一応は納得した雨希は歩き出してくれた。 泣きながらだが。 その時のうわ言が 「何であんたは連絡できて……私は返してくれないのよ」だった。 周りから見たら、本当に俺が泣かしたように見える。


「ちょっと、あんた」


「あっ、はい……」


 雨希に呼ばれて意識を戻す。 


「ん!」


「ん?」


 顎で何かを示しているが、俺はわからずに首を捻る。


「さっさと、送りなさいよ」


「ああ……」


 そうだ。 約束したわ……。 彼女の弟に連絡を入れるって……。


「早く」


「……はい」


 俺はスマホを取り出してメーセージアプリで相川に連絡を入れてみる。


『今日、大学休みみたいだけど……何かあった?』


 いや、彼女みたいじゃん。 


「見せて」


 そう言われて雨希にスマホ画面を見せた。


「……今、何処にいるかも聞いて」


「えー」


「いいから、早く打ちなさいよ」


 有無を言わさない目に負けて俺は続けて『今、何処にいる?』も付け加えた。


 これだと、俺が相川に用がある内容じゃん。 俺は今日、合わなくてホッとしているのに……。 でも、送ると言った手前、送らないという選択肢は俺にはない。


「送った?」


「…………送った」


 俺は送信ボタンを押した。 


「既読ついた?」


「まだ」


 その答えに雨希は不服そうな顔をした後にニンマリと笑った。


「えっ、何?」


 さっきまで泣いていたのに笑うなんて怖いんだけど。


「友達のあんたもすぐに既読がつくわけじゃないのね」


「まあ、ただの友達だしね」


「そうね。 あんたも所詮、ただの友達なのよ」


 まあ、泣かれるよりは偉そうにしている方がいいのか?


「………………」


「………………」


 そして、突然訪れる沈黙の時間。


 特に会話が思いつかない。 共通の話題と言えば彼女の弟である相川雨流の話題になるが、今は避けたいところ。


 じゃあ、何を話す? 思いつかない。


「何か頼む? せっかくのファミレスだし


 そう会話を切り出してくれたのは雨希だった。


「あー。 そうだね。 これ、メニュー表」


 俺は彼女にメニューを見せた。 


「ドリンクバーとポテトにするわ。 あんたもそれでいいかしら。 ポテトはあんたとシェアで。 ……今、たくさん食べたら、和佳子さんのご飯が入らないから。 仕方なく、あんたとシェアするのよ」


 そう言って顔を逸らした雨希。


 おばあちゃんのご飯が入らないからって、やっぱりいい子なんだよね彼女。 


 そして、この後店員に注文をお願いした。


 そこから数分後、スマホが揺れた。 メーセージが届いたのだ。

 雨希が先にドリンクを選びに行って今は席を離れている。


 俺はスマホ画面を見た。


『ちょっとした用事があったから休んだだけ』


 という文の後に相川がよく使う変なクマのスタンプが送られてきて、またすぐに別の文章が送られてきた。


『今はファミレスにいる。 この前、空太と行ったところ』


 この前、俺と行ったファミレスって……。


「ここじゃん! 今いるファミレスだよ!」


 俺は即座に軽く席を立って周りを見渡した。 


 俺たちの席から3席ほど離れた場所から見覚えのある茶髪の髪が見えた。 


「いた!」


 ちょうどドリンクバーからはギリギリ見えない位置ため、雨希は気づいていない。 だが、あの位置だと気づく可能性が高い。


 俺は焦った。 何故なら、彼一人だったら合流すればいいだけなのだが、雨流は今一人ではない。 彼の前に若い女性が座っているからだ。


 もし、相川の彼女だったりしたら雨希はどうなるのだろうか……。

 友達の俺でさえ嫉妬した雨希だ。 相川の彼女を許す筈がない。

 ここが修羅場になる可能性が高い。


 今すぐ、ここから離れなければ……。

 そう思っていたら、雨希が戻ってきた。


「どれ飲もうか迷って混ぜて見たわ」


 そう言った雨希が持っていたコップの中身が変な色になっていた。


「えっ? それ、美味しいの?」


「………………美味しいわ」


 間があったよね。 って、そうじゃない。 ここから離れ……無理だ。 できそうにない。 ちょうど、店員さんにポテトを持ってこられた。 それを嬉しそうに受け取る雨希を見たらできない。 では、どうするか……雨希に気づかれないようにしないと。


「あんたも早くドリンク入れてきたら」


「そっ、そうだね……」


 そう言っても、俺がこの席から離れた間に雨希が相川を見つけて、ついでに彼女らしき人を見たら……。

 どうすれば…………あっ!


「あのさ、俺も雨希のジュース飲んでみたい」


「はっ?」


「ん?」


 そう、彼女にもう一度ドリンクバーに行ってもらえばいいのだ。

 しかし、俺がそう言ったら雨希は驚いた顔をしてその後、すぐに顔を真っ赤にした。


 えっ? 何で?


「あっ、あんた! 私のジュースが飲みたいって……わっ、私と……かっ、間接キスがしたいってこと!」


「はっ? 間接……? どういう……」


 そこで気づいた。 雨希は勘違いしているのだ。 俺は彼女にドリンクバーに行ってもらいたかっただけだが、雨希の方は自分のコップに入ったジュースを飲ませて欲しいと俺が頼んだのだと思ったのだ。


「はああああ! ちっ、違うよ! 俺は雨希が飲んでいるものと同じものをドリンクバーで作ってもらおうと思っただけだし!」


「バッ、バカなの! それならそうと言いなさいよ! 勘違いしちゃったじゃないのよ!」


「勝手に勘違いしたのは雨希の方じゃん!」


「あんたの言い方にも問題あったでしょ!」


 お互い、勘違いの内容の恥ずかしさから()()()()で言い合いをしてしまった。

 それがいけなかった。 ここはファミレス。 大きな声で話せば周りに聞こえるなど当然のことだ。 というか、そんな他人に迷惑なことをしてはいけない。


 そのため、気づかれるのも当たり前だということ。


「はっ! ……バレる」


「バレるって……何が?」


 この声は雨希ではない。 彼女の声よりももっと低い声。 俺はゆっくりと声がした方に顔を向ける。


「あんたら、何してんの?」


 そこに立っていたのは相川雨流。 俺の友達であり、雨希の弟だった。


 あっ……これは逃げれない。 雨希の方を見ると、目が泳いでいて焦っていることが見てとれた。


「「…………人違いです」」


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