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れんげ 2

色々あった。

ありすぎて、今の状況が現実なのか疑いたくなる時もある。




単身赴任で滅多に家にいない父が帰ってきたタイミングで、私は話を切り出した。地元の公立中じゃなくて附属中に進学したいって。

そうしたら、母は言った。


「何言ってるの?あんたは鷹校に行くって決まってるのに」


鷹校は母の出身校で今までも散々勧められてきた。面倒なので適当な相槌をうってたのは事実だけど、これには父も「本人の希望が優先だろう」と眉を顰めた。よかった、父がいる時に話して。

そして附属中と鷹校両方受けるってことで話はまとまった。附属中は難関だから駄目だった時の事も考えないと、と言われたら反対しづらかった。ゆりえちゃんが受ける学校だから絶対行きたくない、とは父が近くにいても恐ろしくて言う事が出来なかった。




私は附属中に行きたい以上に鷹校に行きたくなかったから、必死で勉強した。受験は水物っていうけど、それを覆すくらいの勢いで。

そして附属中の合格通知を受け取った。本当に嬉しかった。私の頑張りを知っている担任の先生も喜んでくれた。


それなのに。


私の頑張りを、無にした人が、いた。






「鷹校の制服作りに行くわよ」

そう言った人がいた。

意味がわからない。私は附属中に行くのに。

「附属中?辞退の手続きしたから大丈夫」

何が大丈夫なの?

「鷹校にいけばゆりえちゃんとあと6年一緒よ」

何言ってるのクソババアが。

「あんたはゆりえちゃんがもっと輝けるようにずっと下で支えなさい」


嫌。絶対に嫌。


そう言うと、凄い勢いで殴られた。

そして満面の笑みを浮かべられる。

「れんげは蘭と共通の話題で盛り上がる為のツールなんだよ。黙って言うこと聞いてりゃいいの」

そう言って、いつかのように私を引きずって車に乗せようとする。でも、小さい子どもじゃ無くなった私が全力で抵抗したら簡単には動かないし、騒ぎを聞きつけた人たちも何事かと集まってきた。

そうして母に隙が出来たところを全力で逃げ出す。野次馬の人たちがさりげなく母の進路を邪魔してくれたのには感謝しかない。


身ひとつで逃げ出したはいいけどどうしようと思いながら走り続ける。交番?でも家に連絡されたら母の元に返されちゃうかも。

その時、見慣れた建物が目に入った。六年間通った、もうじき卒業する小学校。すがる思いでインターホンを押すと、土曜日だけど出勤している先生がいて担任に連絡を取ってくれた。

やってきてくれた担任の先生は、頬を腫らした私が語った内容を時折質問を挟みながら静かに聞いた後、幾つかの選択肢を与えてくれた。


母をこの場に呼び出して話を聞く。

児童相談所に相談する。ただし保護してもらえるかはわからない。

父に連絡を取る。

一時的に避難できそうな親戚がいたらそこを頼る。


私は父に連絡を取ってもらう事にした。

驚いた事に、父は飛行機に乗ってその日の夕方には駆けつけてきた。担任の話を聞いて、私の為に怒ってくれた。嬉しくて泣いてしまったら「怖がらせてごめん」って言われた。そうじゃないのに。

そのまま父と担任と一緒に帰宅して不機嫌な母と対峙したんだけど予想通り話が通じない。

ただ、附属中の辞退の手続きは済んでいて決して覆らないという事実だけが分かった。


その後、強引に休みをもぎ取ってきた父と一週間かけて話し合った。

父はこれ以上母と二人で過ごさせたく無いから自分のところに来ないかと言ってくれた。離婚してもいいとも。でも父は海外への出張が多いから、その間中学生の子どもが一人で暮らす事になる。それはあまり現実的では無いだろう、という結論になった。

父は、今年は無理だけど来年には絶対に地元に戻ってくる、無理なら今の会社なんて辞めてやるって意気込んでいる。私のことをこんなに思ってくれる人がいたなんて、嬉しい。




「単身赴任になった時、お父さんなんていらないと言われた気がして帰ってくる足が遠のいてしまった。そのせいでれんげがこんな目にあってた事も知らなくて、本当に情けない」

「私、小さかったから記憶が曖昧だけど、お父さんと離れて暮らすの嫌だって泣いたのは覚えてるよ」

「母さんは、れんげが友達と離れたくないって引っ越しを嫌がったって言ってたが」

「お父さんと別々に暮らす事になったっていきなり言われて泣いて、お母さんに殴られたんだよ。その時出来た傷、今でも頭の中にあるもん」


父と顔を見合わせる。

ああ。その頃から母は自分に都合がいいように話を盛ってたんだ、と思った。

「これから少しずつ取り戻していこう?」

そう言って父の袖を引くと、嬉しそうに頷いてくれた。






そして私は結局鷹校に行くことになった。

入学金やらなんやらを払い済みだった(父は気にするなと言ってくれたが)し、ゆりえちゃんと同じ学校に行きたくないだけで鷹校自体は悪くない学校だったから。

後から考えたら、附属に落ちたら地域の中学に行くつもりだったんだから鷹校の入試はわざと落ちればよかったんだ。そんな事も思いつかなかった数ヶ月前の自分に腹が立つ。




春休み、こっそり大地くんと待ち合わせる。

ゆりえちゃんやうちの母が絶対来ないうらびれたシャッター商店街の自販機コーナー。

大地くんがレモンサイダーを手渡しながら「附属駄目だったのか?」って聞いてきた。私が鷹校に行く事はおばさんに聞いてたって。

「手続きしてもらえなかったの」って言ったら「何だよそれ。またおばさんが勝手してんのか?ゆりえとあと六年同じ学校なんてれんげも嫌だろ」って事情をすぐにわかってくれる。


「何でも相談してくれ」って大地くんが言うから、私は今日呼び出した目的を「お願い」する事にした。






入学式の二日前。

母が「入学式に向けて美容院に行くわよ」と言ってきた。まあ、行動としてはおかしくないんだけど母が絡むと何でも疑いたくなってしまう。


予約していた美容院で、母は美容師さんに今人気のモデルさんの名前を伝えて「この子はそのイメージで」と言った。それ、ゆりえちゃんが好きで真似してるモデルさんでしょ。嫌だ、と言おうとしたら美容師さんから見えないようにお腹を殴られる。体を折って咳き込む私に「ごめんなさい、ホコリっぽかったですか?」って心配そうに声がかけられる。

何を言っても無駄なんだと諦めムードになった私だったけど、美容師さんの「お嬢様の髪質だとこの手のパーマはかかりが悪いんですよ。よろしければ他の髪型をご提案させて頂きますが」という一言で少しだけ浮上する。ただし、地面に叩きつけられるのもあっという間だった。

「いいから言った通りにしてちょうだい」

美容師さん困ってるよ。ごめんなさい、と視線で伝えると首を横に振られる。


そしてプロの見立ては正しかった。

私の髪はパーマのかかりが悪く、納得のいかない母の指示でやり直しされたところ、髪は痛むは変な感じにぼわっと膨らむわで非常に残念な結果になった。

さすがの母もこれ以上は無理だと悟ったらしく、申し訳なさそうな美容師さんを残して私たちは引き上げた。





そして入学式の日。


母と、おばさんと、こちらを睨むゆりえちゃんという最悪の面子で学校に向かう。


新入生の受け付けを手伝う大地くんの姿が見える。

「今日は上級生はお休みじゃなかったの?」

驚いたふりをしてそう言うと「見ての通り、手伝いで参加してる」と返事が返ってくる。

本当は大地くんがいる事は聞いて知っていたけれど、私たちがそれほど親しくしてないってゆりえちゃんに勘違いさせる為のシナリオだ。大地くんにそっけない態度を取られるのはさみしいけど、私たちが仲がいいって知られたら何してくるかわからないから、人目のあるところでは距離を置いて欲しいってお願いしていた。

うん。ゆりえちゃんは大地くんが小学校を卒業した後私と会ってないって思ってくれたみたい。お願いだから、そのまま気づかないででいて。


そして、大地くんにはこんなボロボロの姿を見せたくなかった。

サイズの合っていない制服に、痛んでどうにもならない髪は三つ編みにしてごまかそうとしたけど野暮ったくなっただけだった。ほとんどの新入生が入学式向けに身なりを整えて来ているから一層浮いている。

他の子の姿を見るのが辛くて、教室でも入学式でも下ばっかり見てた。入学式で挨拶してる子は、本当にこの学校に来たかったんだって熱意が伝わってきて眩しすぎた。




入学式が終わって、大地くんも含めた一行で集まる。ゆりえちゃんに手を出されないように、おばさんの目が届く範囲を出ないように注意しながら。

そんな時、一人の女性がこちらに近づいてきた。紺のスーツに身を包んだ四十くらいの人で、確か入学式で他のクラスの担任だと紹介されていた。

「もしかして蘭さん?」

その人はおばさんに話しかけた。

「そうよ、つぐみさん。お久しぶりね、卒業以来?」

おばさんの学生時代の知り合いのようだ。おばさん達とひとしきり挨拶を交わすと、先生は母にも声をかけた。

「そっちはなずなさん、かしら?」

母は覚えが無いようできょとんとした表情だ。

「相変わらず蘭さん以外に興味ないのね」

ちょっと気になる台詞を残して先生は去っていった。






母は学生時代に有名だったようで、当時を知る教師や父兄から声をかけられる事がよくあった。

母は幼馴染の蘭おばさんと非常に仲が良く、美人だけど気が弱くて控えめなおばさんを引っ張ったり助けたりと保護者みたいな役割だったのだとか。そのせいで私がゆりえちゃんのお世話係なんだと勘違いされる事が多くて嫌になる。ゆりえちゃんが「そうなの。れんげはワタシの下僕だから」って言ってるのも何度も聞いた。お互いに嫌いなんだから関わらないのが一番なのに、どうしてそんな事言うかな。

そこから生まれた勘違いでゆりえちゃん関連の用事を押し付けられる事がある。本当に、ゆりえちゃんは訳がわからない。





ところで、鷹校には違う学年の生徒が協力して取り組む有名なカリキュラムがある。これ目当てで入学してくる生徒も多いという。

固定のグループで取り組む年間の課題と流動的なメンバーで挑む短期課題。週に一コマの活動が六年続く。

貢献の方法は何でもありで、下級生だから役に立たないなんて事は決して無い。評価は個人ではなくグループに与えられるので上級生は使える新入生を早めにチェックするし下級生は使えない先輩の情報を共有してリスク管理をする。

私は目立ちたく無いんだけど、いい成績を取りたいからこのプロジェクトは決して手は抜かない。先輩方の提示したヒントを元に下調べをしていくのはかなり楽しい。私じゃ決して思いつかないアイディアを提案してくれる先輩方とディスカッションするのはいい経験だ。

ゆりえちゃんと一緒でさえ無ければ、私はこの学校が好きになれたかもしれない。




そんなこんなで上級生と関わる機会が多い中、大地くんと同じ学年の男子によく声をかけられる。


「聞いてた通り、すごく優秀だね」

「ゆりえちゃんと友達って本当?全然合いそうにないんだけど」

「君にすごく興味あるよ。授業以外でも話しかけていい?」


何でも大地くんが、入学してくる私の事を心配して友人に「よく見てやってくれ」って言って回ってたらしい。

うれしい。

大好き。

でも今の私じゃあ、大地くんに好きって言う事は出来ない。私が大地くんと仲良くしていたら絶対に邪魔をしてくる人がいるから。


寂しいけど、大地くんには人前で私に話しかけないようにお願いしてある。

その代わり、学校の外で定期的に会おうって大地くんが言ってくれた。ゆりえちゃんが問題を起こさないように私から話を聞きたいって事なんだろうけど、何が目的でも大地くんと一緒にいられるのは嬉しい。


大地くんは、昔から私を「幼馴染」でも「近所の女の子」でもなく「れんげ」って見てくれる。

小さい頃からずっと好きだった。今の状態で好きって言っても絶対に上手くいかないだろうから、私は大地くんの好感度をキープしつつ状況を改善できる機会をうかがってる。

ズルいって思われてもいい。私には、これが最善なんだから。






ある日の放課後、一人の上級生に声をかけられた。


「君が大地の彼女かぁ」

「彼女じゃないです」

そう思われてるのは嬉しいけど、事実じゃないから出来るだけ冷たく聞こえるように答える。

「まだ、ってやつでしょ?あ、勘違いされて本気で迷惑してるんだったらそう言ってね。空気読めない奴になりたくないから」

そんな言い方されたら否定しにくい。回り回って大地くんの耳に入ったら嫌だから。


鷺沢先輩は、生徒会の副会長で眼鏡の似合う爽やかイケメン。成績も優秀で非常に人気があるらしい。

「実はれんげくんにお願いがあって。生徒会に入って欲しいんだ」

この学校の生徒会は部活扱いで、誰でも自由に入ることが出来る。

「すみません。生徒会で活動すると人目につきますよね。私は出来るだけ目立たずに過ごしたいんです」

「なら余計に入った方がいいよ。君が優秀だって事は知られだしているから、近いうちにあちこちの文化部と委員会で取り合いになって騒ぎが大きくなる」

「取り合いって、そんな事は…」

「あるよ。学年間の交流が多いこの学校の恒例行事だからね」

「何ですか、その残念な行事は」

詳しく聞くと、部活はかけもちOKなので適当なものに入ってお茶を濁しても際限なく誘われるらしい。

「生徒会は拘束時間が長いから、誘いを断る口実に使えるよ。拘束時間の長い部活は他にもいくつかあるけど、特にやりたい事がないなら君には生徒会が一番いいと思う」


先輩は生徒会に入るメリットとデメリットをきちんと説明してくれた。

拘束時間が長くて地味な雑用が多い。生徒たちの為に頑張っているのに、学校の手先扱いされたりいくつかの部活から気嫌いされている。

内申は良くなる。テスト前に一般生徒も交えて勉強会をするので、自分の勉強時間は減るが参加者から感謝される。他学年のリーダー格との人脈ができる。

「そして君にはこれが一番重要だと思う。生徒会は学校行事で裏方を担当する都合で、鷹プロを含むグループ活動のメンバーを決める権限があるんだ」

「!それって!!」

「そう。特定の人物と同じグループにならないよう工作する事が出来る。僕が裏から手を回す事も可能だけど、他学年の行事に口出ししたくないし変な噂になっても困るからね」

そんな権限があるなら地味な雑用くらいいくらでもこなしてみせる。でもまだ一つだけ気になる事がある。

「生徒会のメンバーって、良くも悪くも一目置かれているって事ですよね。そこに私が入ることを気に入らない人がいると思うんです」

この言い方で先輩は全て察してくれた。

「そうだな…うん、そっちは何とか出来そうだ。生徒会が、一目置かれる代わりに馬車馬のように働かされるブラックな組織だと刷り込んでおけばいいんだよ」

「実際にブラックな組織じゃ無いですよね?」

ブラックだったとしても入るけど。

「…ホワイト寄りのグレー?」

「グレーなのは否定しないんですね。わかりました、生徒会にお世話になります。工作はお任せしていいですか?」

頭を下げながらそう言うと、楽しそうな声が降ってくる。

「任された。相手が単純すぎて張り合いが無のが残念だけど。そうだ、大地も巻き込むか」


その後、私はは生徒会に入った。

鷺沢先輩が事前に話を通してくれたおかげで目立たない裏方の仕事を中心にさせてもらっている。

打算で入会したけれど、ゆりえちゃんが立ち入ることの無い生徒会室は居心地がいい。優秀で親切な人が多くて、様々な助言をもらえるのも助かっている。仕事できちんと返していきたいと思う。






大地くんが紹介してくれたのは鷺沢先輩だけじゃ無かった。


その日生徒会室に行くと、見慣れない女生徒が上級生のメンバーとおしゃべりしていた。手足が長くて制服の上からでもスタイルのよさがわかる。

「あなたがれんげちゃん?」

私の姿を認めるなり話しかけてきたその人は、二年生の学年章をつけていた。

「あたしはヒバリ。大地先輩から聞いてない?」

そんなに緊張しなくていいよぉーってけたけたと笑うヒバリ先輩。笑った時に出来るえくぼが似合っていて、すごく可愛い。

大地くんが私の為に根回しをしてくれていたんだって思うと嬉しい。私は頬が赤くなるのを感じながら慌てて言う。

「すみません。大地くんから頼りになる女子の上級生を紹介するって聞いてたんですけど、先輩があまりにも綺麗でびっくりしちゃって」

そう言うと、先輩は「もぅー!れんげっち可愛すぎー、計算ずくだったとしても騙されたいー!!」と言いながら私に抱きついてきた。

ノリのいい人だ。私の周りにはいなかったタイプだけど嫌な感じはしない。


「改めまして、よろしくれんげっち。あたしはヒバリ。ゆりえとは同じダンススクールに通ってて、あいつの事がすげー嫌い。大地先輩とは、ゆりえに不当に扱われてる後輩をケアする同志ってとこかな。大地先輩には恋愛感情ゼロだから安心して〜」


ビシッとポーズを取りながらそう宣言した先輩は、視線を私の頭からつま先まで二往復させて不思議そうに尋ねてきた。

「ところで、れんげっちは何でそんなにサイズの合わない制服着てんの?」

そう。私の制服は背が伸びるのを見越して、と言うレベルを超えてぶかぶかなのだ。クラスの人や先生も気になってはいるようだけど気を使って誰もはっきり聞いてこない。節約の為に卒業生のお古をもらったと思われているようだ。

「この学校の制服があまりにも私に似合っていたからです」

ヒバリ先輩と、この数日で仲よくなった生徒会の人たちには本当の事を話していい気がしてそう口にすると、大きな目をさらに大きく見開いて驚かれる。

「ごめん。意味わかんない」

この説明で意味わかったらむしろ怖い。私はこうなった経緯を話し始めた。




制服の試着をした時、私は驚いた。あまりにも私に似合っていたから。

店員さんも「お嬢さんの為にデザインされたと思っちゃうくらい体型も雰囲気もぴったりですね。ここだけの話、鷹校の制服って着る人を選ぶんで着てみたらイメージと違ってがっかりする生徒さんが多いんですよ」なんて、どこまでお世辞か分からないけどうんうん頷きながら微調整をしてくれる。

「困ります」

「え?」

思わず口に出た言葉に首を傾げる店員さん。私は待ち合いスペースにいる母がこちらを見ていない事を確認してから小声で続けた。

「私の方が制服が似合うって知ったら嫌がらせをしてきそうな子がいるんです」

店員さんはそれで察してくれたようで、奥にある商談コーナーへ案内してくれた。

「実はね、同じような理由で制服を切られたり汚されたりした子を見た事があるの。あなたが不安になるのも当然だと思うわ」

そんなの心配しすぎだとか自意識過剰だとか言われてもおかしくないのに、店員さんは親身に相談に乗ってくれた。どう頑張ってもこの制服を着る事は変えられない。ならサイズを合わなくして乗り切ろうという事になった。

母は私を道具としか思ってない人だけど、さすがにこの姿を見たら交換してこいって言うだろうから入学式当日まで着たところを見せない方がいいだろう。

まさかその後、髪までおかしな事になったのは予想外だったけど私がゆりえちゃんに不当に恨まれる事態はそうやって回避できたのだ。




話を聞いたヒバリ先輩は泣きそうな顔をしていた。

「ゆりえなんかより、れんげっちの方がずっと可愛いのに。それでいいの?」

「悪い意味で見た目が注目されちゃったんでその点は良くないですけど、それ以外は問題ありません」

「ねえ。せめて学校の外では目いっぱいオシャレしよう、あたしが似合う服見立てるからさ。お化粧も教えてあげる。で、大地先輩にも見てもらおう」

「先輩、何でそこで大地くんの名前が出てくるんですか?」

「え、違うの?あとあたしの事は気軽に名前で呼んでよ」

私が大地くんを好きなのは、生徒会まわりではもう公然の秘密らしい。そうして私はヒバリさんという力強い味方を得たのだった。






さて。この学校の教師の中には、母とおばさんが学生だった当時を知る人がかなりの数いた。

そして私を見て言うのだ。「なずなさんの娘は同じように蘭さんの娘に尽くしてるんだね」って。

ゆりえちゃんは私の持ち物を勝手に持って行ったり用事を押し付けたりするくせに「ワタシの周りウロチョロすんな」って言ってくる人だよ?どう見たらその結論になるの?目が腐ってるんじゃない?


以前は泣き寝入りしてたけど。

そっちが私に関わるのをやめてくれたらこれからも表沙汰にせずやり過ごそうと思ってたけど。

お父さんや大地くんや大切な友達が我慢する必要は無いって私に言ってくれたから、今の私に出来る最良をしようと思う。

あまりいいやり方じゃないから大地くんにどう思われるかだけが心配だけど、私は平和な日常の為に戦ってみせる。

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