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ゆりえ 2

そんなこんなでワタシは予定通り中学から兄と同じ私立校に入学したんだけど。






何でやつも一緒なのよ。

附属中を受けるって兄がどっかから聞いてきてた。落ちたってことなんだろうけど、何でわざわざワタシと同じ学校に来る訳?滑り止めで私立も受けるってとこまではわかる。ワタシもそれに反対するほど心は狭くない。だったら別の学校行きなさいよって話。


ワタシもね、遠い世界で生きてるやつを探し出して制裁するほどヒマじゃない。

だけど、わざわざワタシの目につくところでウザい行動をする奴を見過ごすほど心は広くないんだよ。

こうなったらテッテーテキにやつを痛めつけるしかないよね。






入学式の日、母に連れられたワタシはおばさんに連れられたやつと顔を合わせた。


それにしても、やつのイケてなさは笑いを通り越して呆れるほどだ。いつの時代の田舎者かっていうボサボサのぶっとい三つ編みに、サイズが大きすぎる制服はとてもワタシと同じデザインとは思えない。体型も貧相。

ワタシは元々背が高い上に、小学生の頃から習ってるダンスで体型もポージングもばっちり。月とスッポン、ではスッポンに失礼なくらい差がある。

周りの誰が見てもそう思うようで、ワタシ達二人を見比べて憐れんだ目をやつに向ける人の多いこと。


不幸中の幸いでクラスは別だった。

一旦別れて入学式からのクラスでの自己紹介。通ってるダンススクールの名をあげるとざわめきが起きる。まあ当然。見た目の良さと実力が無ければ入る事すら許されないことで有名で、様々なユニットを展開しているスクールなんだから。羨望、嫉妬、崇拝、色んな視線を感じるけどぶっちゃけどうでもいい。このクラスにワタシに釣り合う相手はいなさそうだし、雑用係に丁度よさそうなのをテキトーに見繕っとくか。




放課後、しぶしぶだけどやつとついでに兄と合流する。おばさんがそわそわしてるのは、ワタシにこっそり入学祝いを渡したいからだろう。母と兄の目をどこかに向けておかないと。


そんな時、一人の女性がこちらに近づいてきた。紺のスーツに身を包んだ四十くらいの人で、入学式で他のクラスの担任って紹介されてた気がする。

「もしかして蘭さん?」

その人は母に話しかけた。

「そうよ、つぐみさん。お久しぶりね、卒業以来?」

母の様子を見るに、かつての同級生のようだ。六年間お世話になる学校のセンセーなんだから、媚び売っておいた方がいいよね。

「ママのお知り合いですか?よろしくお願いします」

にっこり笑えばセンセーはワタシを見て驚いたように言う。

「蘭さんの娘さん?そっくりね、とびきり目を引くところなんか特に」

そうでしょうそうでしょう。ワタシは特別なんだから。

「そっちはなずなさん、かしら?」

センセーは次におばさんに向かい合った。おばさんは覚えが無いようできょとんとしている。

「相変わらず蘭さん以外に興味ないのね」

ちょっと気になる台詞を残してセンセーは去っていった。






母は学生時代に有名だったようで、当時を知る教師や父兄から声をかけられる事は他にもあった。中でも面白かったのが、年配の女の先生にこんな事を言われた時。


「あなた、お化粧は校則違反ですよ」


ワタシは内心にんまりとしながら、申し訳なさそうな表情を作る。

「すみません。これ、地なんです」

そう、ワタシは本当に日本人?って言われるくらい彫りが深くてすっぴんなのにアイシャドウを入れてるってよく誤解される。

「疑うならクレンジングでも何でもして下さい。今後も他の先生に注意されるかもしれませんし、はっきりさせてくれた方がワタシも助かります」

ウルウルさせた瞳で見つめると、「確かに。私以外にも同じように思う方がいるでしょうから、確認させて頂ければ助かります。ごめんなさいね、それが本当なら私は何の罪も無い生徒を疑ってしまった事になります。それなのにあなたは怒りもせず冷静な対応をして、素晴らしいです」って。

まあ、こういう事があるかもしれないって事前に聞いてたからね。


「そういえば、何十年か前に同じ様に注意して的外れだった事がありました。嫌だ、恥ずかしい。私、その頃から成長してないのね」


いかにも厳格そうな先生が顔を赤らめて言う姿は面白かった。

先生が言う「何十年か前に注意した」相手は間違いなく母だろう。自分の経験から、こんな事を言われたらこう返せってノウハウを叩き込まれていたから冷静に対応できた。

母はワタシと同じく目立つ見た目をしているから、よく男子に言いよられて迷惑していたんだとか。モテるのはいい事じゃん。母は断りまくって恨まれることもあったらしいけど、上手くあしらって取り巻きにすりゃいいだけじゃん。ワタシなら上手くやれるし。






ところで、うちの学校は違う学年の子達が協力しあう授業が一定数あるのが特色だ。学校名を取って『鷹プロ』っつーんだけど、そこで指導したりされたり気づきがあったりを大切にしてるって話で。

個人じゃなくてグループでの評価って話だし、ワタシが頑張らなくても上級生が何とかしてくれるでしょ。ワタシはみんなのやる気を上げて癒しを与える役って事でいいよね。実際、ワタシがいるだけで作業が進むってセンパイ方も言ってるし。可愛いって得だよねー。




そんなこんなで上級生と関わる機会が多い中、兄と同じ学年の男子によく声をかけられる。


「聞いてた通り、すごく可愛い」

「本当にあいつの妹?全然似てないじゃん」

「君にすごく興味あるよ。授業以外でも話しかけていい?」


何でも兄が、入学してくるワタシの事を心配して友人に「よく見てやってくれ」って言って回ってたんだって。

兄とは仲が良くも悪くもないという感じで、男女の兄妹なんてこんなもんだろうと思ってた。だけど兄は意外とワタシを気にかけていたらしい。

何だよ本当はワタシのこと大好きなんでしょ、って詰め寄ったら真っ赤になって否定してた。はいはいわかってるっつーの。母に似て背は高いけど父に似て顔立ちがイマイチな兄は、恥ずかしくてワタシの隣に立てないんでしょ。仕方ないからワタシから歩み寄ってあげようじゃないの。


それから、以前より兄と過ごす時間が増えた。

小学校の頃、協力してくれなかった時あったっしょ。って言ったら覚えてないフリをされた。まあ、今回の事でチャラにしてやんよ。兄は図体がデカいだけだと思ってたけど、意外と使えそうだわ。






ある日、兄の友人の一人にこう言われた。

「ゆりえさんが生徒会に入ってくれたらいいのになー」

この人は生徒会の副会長で、眼鏡なのが残念ポイントだけど結構なイケメンでワタシの横に立っても問題ないレベル。兄曰く「絶対に怒らせてはいけない人」だそうだ。成績も見た目も良い上に礼儀正しくて、うちの学年でもよく話題に上がっている。

「鷺沢、俺の妹に重労働で有名な生徒会を勧めるな」

「はは、今年の一年は希望者が少なくて手が足りないんだよ」

「内申は良くなるけど、拘束時間長いし地味な雑用が多いし一部生徒には恨まれるしロクなもんじゃないだろ」

ふーん。生徒会って響きがいいし学校の顔って感じでアリかと思ったけどキツいとこなんだ。情報サンキュー、兄。

「ワタシは習い事もあってあまり時間が取れないので。ご期待に添えなくてすみません、先輩」

無難にお断りしておこう。

先輩も言ってみただけだったらしく、それ以上誘われる事がなくてほっとする。

「ゆりえさんみたいな可愛い子に激務を強いるのは僕も嫌だからね。でも知り合いにいないかな?ちょっとキツい業務でも学校の為ならって力を貸してくれそうな子」

素晴らしい笑顔でそう聞かれる。

「そうですねぇ」

ワタシはにっこり微笑んだ。






その後、やつは生徒会の雑用係に任命されたらしい。ワタシが推薦したからだけど。

学校行事の時に先輩方に指示されて走り回ってるのを見かける。副会長からは「いい子を紹介してくれてありがとう」と黒い笑顔で感謝された。ぜひ使い潰して欲しい。そう言うと「君は本当に面白い子だなぁ」って涙が出るほど笑ってた。イケメンは泣いても笑ってもカッコいいんだなあ、ワタシもそうありたいなあ、って思った。




副会長は教師からも生徒からも評価が高い、絵に描いたような優等生だ。だけどワタシの前では素っぽいところを見せてくれる。気づいちゃってゴメンね。副会長、ワタシの事、好きなんでしょう?だから他の人には見せない一面を見せるんでしょう?

そっちから告白するならくれればカレシにしてあげてもいいよ、感謝しなさい。


副会長と一緒にいると、上級生の女子の視線をよく感じる。中でもしつこく絡んでくるのが同じダンススクールのウザ女だ。

ダンスの評価は悔しいけど同じくらい。でもワタシの方が一つ歳下な分、実力はは上って事。だからさっさと消えろよ。同じ学校で学年が上だから無視できないのがめっちゃ腹立つ。






ワタシを贔屓してくれる人はたくさんいる。

例のおばあちゃん先生もだけど、母を知ってるセンセーが多いんだよね。ワタシと母の見た目が似てる事と、うちの学校の教師にOBOGが多い事が関係してらしい。




母が学生時代モテてモテて仕方なかったって話は聞いた事がある。過去の栄光を大袈裟に言ってるんだろうと思ってたんだけど、逆に控えめに話してたんだって知ってびっくりした。


「蘭さんはよその学校にもファンが多くて、校門前に出待ちの列が出来るのもよくある事だったよ」

と話すのは隣のクラスの担任。

「美人なのに奢らず誰にも優しくて、学校中の男子が夢中だった」

これは四年の学年主任。

「だから君が入学してきて、蘭さんと瓜二つでびっくりしたところに名前を聞いて更にびっくりだ、野草…いや、君のお父さんと結婚までいってたなんて」


なんでも父と母は学生時代からつきあっていたのだが、そのつり合わなさに「美女と野獣」ならぬ「美女と野草」と呼ばれていたらしい。

ああ、確かに父は地味でチビで野獣感ゼロだけど田舎で農業してそうな野草感はある。実の父がそう呼ばれていたことはビミョーだけど、納得がいっちゃって怒る気にもならない。


「あの鷹匠先輩に見向きもせず、地味だけど堅実な男を選んだってことで男子の間ではよけい評判が上がって」

「内気で大人しい蘭さんがタンカ切った時はもう心臓撃ち抜かれたかと思った」

ワタシから見ても母が父のどこに惹かれたのかわからないんだけど、両親は今でも仲がいい。ワタシなら、父は見た目でもステータス的にも対象外なんだけど。

「お話聞かせてくれてありがとうございます。初めて聞く事が多くてビックリです」

そうそう、これ使っときますか。

「また、色んなお話聞かせてもらえたらうれしいです」

腕でぐっと胸を寄せて、上目遣いにお願いしてみる。胸はこれからもっと大きくなる予定だけど、スクールのセンパイが言ってたのを思い出してちょっとやりすぎかなーくらい演出してみた。

そしたらセンセー達あからさまに鼻の下のばしちゃって。ヤバい。面白い。

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