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ゆりえ 1

初投稿です。よろしくお願いします。

毒親が出てきます、苦手な方はブラウザバックして下さい。

ワタシには幼馴染がいる。

勉強だけがとりえの陰キャで、視界に入るのも嫌なんだけどなかなか縁が切れなくてムカつく。






やつとは生まれる前からの付き合いだ。母親どうしも幼馴染で、同い年の娘が生まれて嬉しいわね親子ともども仲良くしましょうねってきゃっきゃうふふしてる。ウザい。あんたらが仲良いのは構わないけど子どもに強要しないでくれ。


やつは大人に媚びるのが得意で、母も兄もすぐ褒める。「れんげちゃんはいつも礼儀正しいわねえ」「ゆりえと違ってほっとするよな」とか意味わかんない。ワタシの方が可愛くて何でも出来て完璧なのに。

家が近所だから幼稚園もそのうち通う小学校も一緒。嫌なのに逃げられないワタシ不幸すぎない?






小学生になるとワタシは我慢するのをやめた。


いつも友達に囲まれてるワタシと違って、やつは一人で本ばかり読んでる。あんなのと仲良いなんて思われたくない。だから言葉や態度でバカにしてやった。人気者のワタシがそうしてると、周りも同じような態度を取り出した。いい気味だ。


他の友達と遊ぶ約束をしてるから、とやつと一緒にいる時間を減らす事に成功したが、幼稚園の頃ほど頻繁じゃ無いけどやつは母親にひっついて家にやってくる事がある。母に連れられて行く事もある。

おばさんの事は嫌いじゃない。いつもお菓子をくれるし「ゆりえちゃんは女の子らしくて可愛いわねえ。それに比べてうちの子は地味で困っちゃう」ってちゃんとワタシが上だってわかってるから。「ゆりえちゃんに似合いそうなもの見つけたから買っちゃった。お母さんには内緒ね」とプレゼントをくれる事もある。嫌いじゃない、むしろ好き。

これでやつさえいなければ完璧なのに。






ある日、やつが泣き叫びながらおばさんに連れられて来た。まさかイジってんのチクられた?と青くなったがやつより先におばさんがワタシに向けて頭を下げた。

「ゆりえちゃんごめんなさい」

はぁ?と思ったけど何が起きてるか分かんなくて下手なことが言えない。

「あんたも謝りなさい!」

やつの頭を床に叩きつける勢いでぐいぐい押して下げさせるおばさんの姿を見て、ワタシはピンときた。やつがおばさんに何か言ったけど、おばさんはワタシが間違った事する訳ない、やつの方が嘘をついてるって考えたに違いない。ワタシはおばさんに向かって悲しそうな顔を作ってみせた。

「おばさんありがとう。ワタシは気にしてないから大丈夫だよ」

やつが何を言ったか知らないから、どうとでも取れる言い方で乗り切った。母が不安そうにおばさんを見ていた事には気づかなかった。やつはいつも貧相だけど泣き顔は一段と無様、ちょっと笑える。おばさんが帰り際、中身の入ったポチ袋をそっと手渡してきたのも笑える。






それから一週間くらい経った頃、母が急に外に働きに出る事になった。昼から夕方にかけてのスーパーのレジ打ち。休日もあまり出かけなくなった。おばさんとはたまに会ってるみたいだけどワタシを連れて行く事は少なくなった。お小遣いやプレゼントをもらう機会が減ってムカつく。この前の事がきっかけだとしたら全部やつのせいだ。

そう思っていたら、おばさんが二人で行こうと遊びに誘ってくれるようになった。カフェでお茶したり、有名なレジャースポットに連れて行ってくれたり、母の目が無いのでプレゼントもお小遣いも堂々と渡してくれる。

「他の人には内緒よ」って言われてるのに兄に見られちゃった時はどうしようと思ったけど、もらったお菓子を横流ししたら黙っててくれた。チョロい。




ワタシが一番だってわかってるおばさんと違って母は相変わらずやつばかり褒める。このままじゃワタシは一生やつと比較される。成績では負けてるかもしれないけど、それ以外は明らかにワタシの方が上なのに。

母と違って兄はやつの話をしなくなった。つまんない子だし、興味が無くなったんだろう。






先日の出来事からわかったことがある。人は自分の好きな子、お気に入りの子の言う事を正しいと信じるんだって。

だからワタシは、奴の悪評を「事実」としてみんなに広める事にした。


見えないとこでいじめられてる、パシらされたり奢らされたりしてる。親も先生も信じてくれない、やつが上手いこと取り入ってるせいだって。いい子ちゃんのやつを嫌ってる子はそれなりにいて、ワタシが涙ながらに訴えるとクラス全体でやつをハブってぼっち街道まっしぐら!という流れになってきた。だが敵は身内にいたのだ。


「お前らどこに目ぇついてんだよ。こいつが大人しく人の命令きくと思うか?宿題写させろって勝手にれんげのカバンからノート持ってくような奴だぞ」


突然現れた兄のその一言で流れが変わった。

「私、ゆりえがれんげちゃんに掃除当番押し付けてるの見たことある」

「いじめられて泣き寝入りする子じゃないよね」

手のひらを返したかのような態度にあ然とする。

本当に、ワタシってばどこまで不幸なの!!

やつさえいなければ、こんな目にあわずにすんだのに。




その後、話が広まる事はなかったけど、こっちをニヤニヤ見る子がたまにいて腹が立つ。


ワタシは賢いので、キャラに反する事をすると信じてもらえないのだと学習した。だよねー。よく考えたら、とびきり可愛くて人気者のワタシをあの陰キャがイジメてるなんて恐れ多くてありえない事だったわ。

なのでやつをいないものとして扱う事にした。ワタシの機嫌を取りたい子達も同じようにし出した。






ある日の放課後、他に誰もいない教室でやつの机の上に一冊の本が置いてあった。やつは「いないもの」なんだから、この本も持ち主なんていないって事だよね。ならゴミ箱行き決定。そんな事を思いながら本を手に取ると、ことんと小さな音がした。本に挟まれていた何かが落ちたようだ。

そこにあったのは、薄い金属の板で出来たしおり。透かし模様で愛らしい妖精の姿が描かれていて、通されたチェーンの先にはガラス玉なんだろうけど濃いピンク色の小さな石が光ってる。

「へー、いいじゃんこれ」

あんな地味女には似合わない。ワタシみたいなイケてる子が持つ方が妖精さんも幸せだよね。

ちょっと予定変更して、ワタシはしおりを抜いてから本をゴミ箱にポイした。




勢いで持ってきたけどどうしようって思ったのは家に帰ってから。ワタシだって馬鹿じゃない、これを人に見せたらヤバいって事くらいわかる。

家族にはどこで手に入れたか聞かれるだろうし、学校ではやつの持ち物だって知ってる人がいるかもしれない。そもそもワタシしおりなんて使わないし。誰にも自慢出来ない物なんて持ってても意味ないじゃん。そうなったら、キラキラして見えたしおりもどうでもよくなってきた。所詮やつが持ってた程度の物だしよく見たら大したことなかったわ。

それでテキトーな引き出しにしまっといたらいつの間にか見当たらなくなってた。もう興味なくなってたから別にいいわ。






ある日気づいた。中学になればやつとは違う学校になるんじゃない?ワタシは両親が卒業した中高一貫の私立を受験するって決まってる。やつは勉強だけは出来るからいわゆる進学校に行くだろう。

その事に気づいたら、気持ちに余裕が出来たのかやつなんてどうでもよくなってきた。ああ、縁が切れると思うとせいせいする。

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