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実はこういうことだ。
当時は幼女だったセリーヌが父親らしき男性と共にマーゴ国に現れたのは、今から十二年ほど前のこと。父も娘も、飢えと疲労で倒れる寸前の状態で、マーゴ国の地方都市マッカラで食堂&宿屋を営む女将ヨシーネの店先に現れた。
その日以来、2人はヨシーネの宿屋の一室で生活するようになり、食事もヨシーネから提供を受けている。ヨシーネによれば、父親の所持品の中に王侯貴族しか手に入れられないような高級貴金属があり、それを売ったお金で2人の宿代、食事代を賄っている、ということだったが、セリーヌにとってヨシーネは、親切な隣人と言うよりも、親族のような存在だった。
セリーヌの中にある並外れた魔法の能力に気づき、一年半前、「コルバーン魔法学校」への入学を薦めてくれ、入学準備をしてくれたのもヨシーネだったし、彼女は、セリーヌがいない間も、父親の世話をしてくれていた。
父親は、ヨシーネの店に現れた時点で、すでに記憶をなくしていて、彼が覚えていたのは、娘の名前が「セリーヌ」であること、それだけだった。体に異常はなく、日常会話も何とか可能だったが、口数は少なく、喜怒哀楽を示すこともなく、放っておけば丸一日、何もせずに無表情でベッドに座り込んでいるような状態だった。
「いずれにしろ、お父さんを置いて、私一人、この国を出ることなんてできない」
セリーヌは思った。