俺の友人が「俺、浮気してるんだ……」って相談してきた
「なぁ、新屋。実は俺、浮気しちまったんだ……。どうすればいいんだ?」
「は!?」
俺、新屋進は友人である矢山透に相談があると言われ、マッグで相談を受けた最初の一言がこれだった。
「おい、それは冗談じゃねぇんだよな?」
「うん、これはマジなんだ」
「なんでそんなことしたんだよ!」
矢山ははっきり言うとバカである。バカではあるが、そのかわり超がつくほど自分に対して厳しい。特に悪いことに関してはたまに引くぐらいには厳しいやつだった。だからこそ、今回の浮気がマジで『謎』の一言であった。
「うん、俺だって悪いことだってわかってはいたんだよ。でもさ、だんだん惹かれちゃったんだよ……」
「お前、玉村さんと付き合って何ヶ月だっけ?」
「三ヶ月は超えてる」
「なるほどな。……まぁ、やっちまったことは仕方ねぇ。だから、特別に親友として2つの道を選ばせてやる。一つは彼女を悲しませてでも罪の告白をして楽になる。もう一つは一生隠し続ける、だ」
「やっぱりその2つだよな」
矢山は悩み、悩み続けた。そして、ひとつの答えを選んだ。
「やっぱり、正直に言うよ」
「へぇ、意外だな。お前のことだし玉村さん悲しませないためにも隠し続けるかと思ってたが」
「まぁ本来なら隠した方がいいんだろうけどさ、麻依の態度的に気づいてそうなんだよ。だからせめて自分の口で言いたい」
こいつはバカだ。成績だってあんま良くないし、今だって浮気するくらいだが、それでも誠実であろうとするこいつを、俺は少し誇らしく思った。
「なら、今すぐにでも彼女呼んで謝んないとな」
「ああ、そうするよ。たださ、やっぱり緊張するから隣の席に居てくんねぇか?」
「ま、その程度ならやってやるよ。そのかわり今度ラーメン奢れよ?」
そうして移動する。さいわいにも今は人がほとんどいなかったからすぐ隣の席を簡単に取れた。
そして矢山が連絡をしてから約20分後、とうとう彼女がここに来た。
「やっほー、透。急な話ってどうしたの?」
「うん、実はさ、麻衣に謝らないといけないことがあるんだ」
「謝らないといけないこと……やっぱりやってたんだね、浮気」
矢山の言う通り、玉村さんも薄々勘づいていたようだ。そして、尋問が始まる。
「それで、何回やっちゃったの?」
「……1回」
(おおう、なんかショックがでかいな)
「透、正直予測できているけど透の口から聞きたいの。だから正直に言って?」
「本当は3回です!!」
(え!? 嘘なの!? というか3回もやっちゃってるの!?!?)
俺は、なんか玉村さんが可哀想になって来ていた。というかなんで5回も浮気できるくらいモテてんだよ! こちとら彼女無しだぞ!
「じゃあさ、あのとき言ってくれた『君の優しくも厳しい心に惚れた』って言葉も嘘だったの?」
「そんなことはない! ただ、なんというか、そういう部分が日常化して来たというか……なんというか……」
「日常化して来たとか綺麗な言葉で濁してるけど要は飽きちゃったんだよね?」
「うぐ! ……まぁ、その、はい」
なんかだんだん昼ドラみたいな展開になって来ていた。矢山いっそビンタでもされないかな……。
あ、コーラ無くなった。
「ふふっ、まぁ半分冗談だから。でも、だったらせめて3回の浮気について聞きたいかな。どんなところに惚れちゃったとか、どういう風に惚れちゃった、とかさ」
よし! いいぞ! その調子で矢山をもっと責めたてろ、玉村さん!
あとなんかお供が欲しくなるな……。あとでポテト買うか
そんなくだらない思考をしていると、とうとう矢山の浮気の詳細が聞こえて来た。
「1回目の浮気は付き合って最初のデートでさ、恐る恐る手を繋いだとき握った君の柔らかい手がなかなか忘れられなくて気づいたら浮気してしまいました!」
(手を握っただけで惚れるって……ん? なんか今何かがおかしかった気が)
「ほほう、2回目は?」
「2回目は、下校デートでトイレに行ってる間に麻衣がナンパされたことあっただろ? 駆けつけたとき、怖かったはずなのにそんな様子を一切見せずに俺を待っててくれたじゃん。あの時に見えた、大切なモノのための揺るがい姿に浮気してしまいました!」
(……おい、なんかおかしいよなぁ? 浮気って他の女に靡くことだろ? バカか? こいつバカか?)
しかもこっそり見てみると、玉村さんの顔がドヤッとムフフの中間みたいな顔でちょっとムカついた。
「ふむふむ、それで3回目は?」
「3回目は、2週間前のデートでキスをしたときだよ。あのときのくちびるの感触がさ、その、なんというかめっちゃすごくてさ。意識しすぎて気づいたら浮気していました!」
(……)
玉村さんは、嬉しかったのか恥ずかしかったのか、「むきゅー」みたいな感じの声をあげて悶えてた。
「そっか。全部話してくれてありがとう。透、確かに浮気されたのは悲しいな。でも、これからはちゃんと愛してくれる?」
「うん、許してもらえるなら麻衣をずっと愛すよ!」
「そっか、ありがと! お腹もすいたし、ちょうどいいからマグマナルホドバーガーセット一緒に食べよ!」
「あぁ、そうだな!」
俺は、そんな会話を聴きながら店を出る。無言で駆け出し、人気のない公園まで走り続ける。
公園に着くと、スマホを取り出して矢山へ電話をかける。矢山が電話に出たのを確認すると、思いっきり息を吸う。
『どうした、新屋? おーい、どうしたんだ?』
「惚気聞かせんじゃねぇよバーーーーーカ!!!!!」
『えっちょっなに!?』
―――プツッ
なんで俺が怒っているのか、あいつはわかっているのだろうか。まぁおそらくわからんだろう。あいつバカだし。
「誰か、俺にかわいい彼女を恵んでくれーーーー!!!!」
俺の虚しい叫びは、蒼い晴天の中に溶けていくのだった……。
今回の作品はどうでした?
面白い!って思ったそこの君! 評価ください!(切実)