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『ハーモナイズ』  作者: 青山樹
第一章 『おなじもの』
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第四話 『にたものどうし』

 透が言った通り、彩は校門前のバス停にいた。

 今まで陸上部の練習に励んでいたためか、彼女にしては珍しく表情に疲れが感じられた。


「だいぶ疲れてるみたいだね。だいじょうぶ?」


 アキトが声をかけると、彩は「大丈夫」と答えた。


「今日はほとんど一日中外にいたから、少し疲れてるだけ。プールで軽く泳いだらさっぱりすると思う」


 ほのかに幼さが残る彼女の顔に、小さな笑みが浮かぶ。


「アキこそ、いいの? 透の補習につきあって」


「最近透の顔を見てなかったからね。そうそう、部長が言ってたよ。二年になってから彩が部活に来てくれなくなってさびしいって」


「私もできれば行きたいけど、もうすぐ夏の大会があるから。それに、透が行くのいやがるし。今度部長さんに謝っとく。明日、陸上部の練習が終わったら顔を出すね」


「急がなくてもいいと思うよ。気が向いたらって言ってたから」


「あいかわらずいい人だね」


「へんなところはあるけどね。さっきも僕がプールに行くって言ったら、自分の水着を貸そうとしたんだよ。さすがにちょっと驚いたな」


「アキのことが好きだからだよ」


「僕も部長のことは好きだよ。なんだかんだで面倒見はいいし。そういうところは透と似てるよね。まあ、あの二人は会うたびにケンカしてるけど」


 似ているからだよ、と彩は言う。

 もっとも、アキトが言う「似ている」と彼女が言う「似ている」が指しているものは、ちがうものなのだが。


「もしくは、部長さんに嫉妬してるのかもね」


「それってどういう――」


 アキトがそう言った時、バスがやって来た。

 彩はバスへ向かって歩き出し、アキトも続く。二人は一番後ろの席に並んで座った。

 バスが動き出した時、彩は言った。


「ところでアキ。今日の球技大会のことだけど」


「……あ」


「あ、じゃないよ。透と一緒だったんだから、あのバカをちゃんと黙らせて。むちゃくちゃはずかしかったんだからね」


「ごめんごめん。透が楽しそうにしてたもんだから、止めるに止められなくて。そうだ。その時に透から人権の作文が受賞したって聞いたよ。よかったね。おめでとう」


「あんまりおめでたいことじゃないよ。よくわかんないけど、今度の人権講演会で朗読することになっちゃったし。それに私は、あの作文に書いたことが、いいことだって思わないし」


「どんなこと書いたの?」


「人間とアンドロイドの関係性について」


「いいテーマだと思うけど」


「私は、作文の結論にこう書いたの。人間とアンドロイドの間には、人間と人間の間に生まれるような絆は生まれないし、生まれるべきじゃないって。それは結局ただのつくりもので、本物の絆にはなれないって」


 彩は窓の外へ顔を向け、そのまま黙り込んでしまった。

 しばらくの沈黙の後、アキトは彩の地雷を踏んでしまったことに気づいた。

 彼女のアンドロイド嫌いは、小学生の頃からずっと変わってないのだ。





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