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『ハーモナイズ』  作者: 青山樹
終章 『おくるもの』
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第一話 『託された心』

 都会を照らす無数の明かりも、二人がいる展望広場までは届かない。

 彼らは外界から隔絶された世界にいた。

 空人は父親の表情を細部に至るまで感じとることができた。

 その顔の向こう側にある心の歪さを感じることができた。

 空人は彼女から離れ、父親と向かい合う。

 父親は普段通りの明るく嘘くさい口調で言った。


「まったくお前という奴は、高校生にもなってあんなにみっともなく泣きわめくなんて。男の子なのに情けないぞ、まったく。あっはっはっは」


 空人は腹の奥にずしりとした不快な重みを感じた。


「大丈夫、安心しなさい。そのアンドロイドのデータはすべてリアルタイムで『公社』に送信されている。だから私がその気になれば、そのアンドロイドを初期化前の状態に復元させることもできるんだ。そう、おとぎ話に出てくる魔法使いがちちんぷいぷいっ! と魔法の杖を振って眠り姫を目覚めさせるようにね。あっはっは。あっはっはっはっは!」


 父親の高笑いが響く。

 直後、空人は拳を固く握り、父親の顔面に力の限りたたきつけた。

 重みのある鈍い音が鳴り響き、父親は体をふらつかせ、腰を落とす。

 空人は息を荒げ、真っ赤に充血した目を父親に向けた。

 父親はまだ、うすい笑みを口元に浮かべていた。


「おやおや、どうしたんだ。お前らしくないぞ。これじゃまるで、お前が怒っているみたいじゃないか。お前が心を持つ人間みたいじゃないか」


「そうだ。僕は人間だ。人間になるんだ。そのために彼女は僕に心を託してくれたんだ」


「そして死んだ」


 父親はあふれんばかりの憎悪を込めた笑顔を空人に向ける。


「お前が殺したんだ」


「そうだよ。僕が殺した。彼女に心を託してもらうために」


 たとえ彼女が望んだことだったとしても、空人が彼女を殺したという事実は変わらない。

 その事実を消してはならない。

 空人が、彼女の心と共にあるために。


「彼女を取り戻すことは誰にもできない。たとえあなたが彼女と何もかも同じものをつくったとしても、それは彼女じゃない。まったくの別物にすぎない」


 そこに、心と心を結び合う絆はないのだから。


「だからあなたも、あなたが愛した人をよみがえらせることは絶対にできない」


「その言葉は、私への復讐のつもりかい」


 父親は立ち上がり、背広に着いた汚れを払った。


「前にも言ったろう。大切なのは、私がどう思うかだ。お前が何を言ったところで、私には何の関係もない。私があの人を愛しているということが、何よりも重要なのだから」


 父親は、じっと空人の目を見る。


「今回の件もそうだ。すべて私が予想した通りに動いた。お前はお前自身の手で最愛の人を殺したんだ。私からあの人を奪ったお前に、私は復讐を果たしたんだ」


「あなたは僕の手で彼女を終わらせるために、彼女をここまで連れてきた。そして結果は、あなたが求めていた通りになった。でも、そんなことはどうでもいい。あなたがどう思おうと僕には全然関係ない」


 空人は息を吐き、小さく首を振る。


「もう行かなくちゃ。待ってくれている人がいるんだ」




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