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『ハーモナイズ』  作者: 青山樹
第五章 『なくしもの』
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第十四話 『消える運命の光だから』

 夜空に咲く光の花は人々の心に今、この瞬間だけの感動を与え、消え、忘れられていく。


「私の心には、あなたの心も共にある。あなたの心と触れ合い、絆を結び合ったことで、私の心は生まれたのだから。オリジナルだろうと複製だろうと、それだけは変わらない」


 たとえ仕組まれた運命の産物だったとしても、二人に生まれた心は本物なのだから。


「だから私は、あなたに心を返したい。あなたが本当のあなたになって、これからの時間を本当のあなたとして生きてほしいから」


 花火は次々と打ち上げられる。

 海辺の観覧席から見れば相当な迫力なのだろうが、ここからでは十分に迫力は伝わらない。

 花火が咲く轟音だけが、不釣り合いに響いていた。


「君がこの夏に動かなくなった時、僕はやっとわかった。僕は君と一緒にいる時に、自分の心を感じることができたんだ。僕はこの世界にいる誰よりも、君との絆を求めていた。僕の心は君の心と、君の心は僕の心と共にあるから」


「だから私は、心が壊れそうなほどに苦しい」


「どうして」


「あなたと一緒にいる限り、私はあなたとはちがう存在だと意識せざるをえないから」


 たとえ心が本物であったとしても、二人は根本的に異なる存在なのだ。

 そしてそれは、決して変わることがない。


「このままあなたと一緒にいれば、私は私ではいられなくなる。私の心も、共にあるあなたの心も壊れてしまう。だからその前に、私はあなたに心をかえさなければならない」


 かえさなくていい。


 そう言おうとした時、ひときわ大きな花火が炸裂し、轟音が響き、腹にかすかな振動を感じさせた。なので彼の言葉は、声になる前に消えてしまった。


「あなたに心をかえすために、私はここへ来た。私の心を理解し、求めているのなら、あなたは必ずここに来ると思ったから。そしてあなたはここに来た。だから、今のあなたなら、あなた自身の心を受け入れられるはず」


 だから、と彼女は彼に近づいた。


「あなたはもうわかっているでしょう。私があなたに何を求めているのか」


 彼女の言う通り、彼にはそれがわかっていた。

 彼女は求めているのだ。


 かつて二人が心を通わせあったと信じられた、あの言葉を。


 彼は遠くに広がる夜空を見上げる。

 星の輝きをなくした夜空に、何かの模様を模している花火が次々と打ち上げられていた。


「君が、眠り続けていた時、僕はそれがずっと続いてもかまわないって、思っていた」


 自分の目に何が映っているのかもわからないまま、彼は言った。


「どんな形でも、君が僕のそばにいてくれるのなら、それでよかったんだ。君がそばにいてくれれば、僕は君の心を感じることができたから」


「それでも、ずっとは続かないの。私の心は、いつか必ず、あなたが望まないものになってしまうから」


「僕にとって大事なのは、僕がどう思うかなんだ」


 その言葉は、彼女にとって想定外のものだった。


 そして、彼にとっても。


「結局のところ、みんな僕のことなんてどうでもいいんだよ。みんな自分の心に従って生きているんだ。でもそれが、自然なことなんだよ。だってみんな、自分の心しかわからないんだから。他人の心なんて、その人以外には絶対にわからないんだから」


「それはちがうわ。たしかに自分の心と比べて他人の心は見えづらいものよ。でも、だからこそ、人は他人の心を見ようと思うし、求めてしまう。そうやって絆を結び合うの。そして、他人の心を通じて、人は自分では見えなかった自分の心の姿を知ることができる」


 花火の音が断続的に響き、夜空の果てへ吸い込まれるように消えていく。


「私たちは互いに自分では見えない心の姿を見ることができた。だから私には、あなたの心が見える。あなたの心が、願うことも」


「願い……」


「あなたは本当の意味で人間になるために、前へ進みたいと思っているわ。この夏に彩ちゃんも透君も前へ進むと決意した。それを見てあなたも前へ進もうと思った。そのためにあなたは心を取り戻さなければと考えたのよ」


「そう思う根拠は」


「あなたが彩ちゃんと二人で花火大会へ行くと言ったことよ。あなたもわかっているだろうけど、彼女の心にはあなたの心もあるの。それを確かめてから、あなたは私から心を取り戻して本当の自分になって、彼女の心にこたえようと思ったんじゃないかしら」


 彼女の話を聞いて、彼は不確かな思考が確かな答えにかわっていくのを感じた。


「君は、僕にとって誰よりも特別な人だ。だから僕はここに来たんだ」


「あなたにとって私が特別な人なら、私はもう、何も望まない」


 いよいよフィナーレを迎えるらしく、花火は次々と打ち上げられる。




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