第七話 『誰がために』
朝早くに部長から今日の部活を休むという連絡が届いた。物語を完成させたことで、今までの疲れが一気に出たらしい。彩も陸上部の練習で総合運動公園まで遠征に出ている。
それでもアキトは学校へ行った。
じわじわと暑さが増してきた午前十時過ぎ。
学校は典型的な夏休みの空気に包まれていた。
グラウンドでかけ声を飛び交わせる野球部。
軽快なリズムでボールを打ち合うテニス部。
土煙を巻き上げながらボールを追い求めるサッカー部。
校舎のあちこちから楽器の音色を響かせる吹奏楽部。
なぜかはわからないが、アキトはこういう音に引きつけられていた。
日常的に聞き覚えのある音なのだが、この時彼は何かちがうものを感じていた。
なんだろう。
僕は何を感じているんだろう。
その何かについて考えながら、あてもなく校舎内を歩く。
やがて彼は部室棟一階の備品置き場にたどり着いた。
一階から二階への階段下にあるこの場所には、何年か前に導入された掃除用の小型ロボットが所狭しと並んでいる。結局、掃除は生徒自身の教育の一環になるということでわずかな期間しか使用されず、まだまだ使えるにもかかわらずお役御免になってしまったのだ。
そんな掃除ロボットたちのなかに、見覚えのある旧式のロボットを見つけた。
透が代生として使っていたロボットだった。
アキトはロボットの前に立ち、古臭くも愛嬌のあるデザインの頭をなでた。
「透……。お疲れ様。今までありがとう」
「待て待て。まるで俺が死んだみたいになってんじゃねえか」
背後から声をかけられ、アキトは振り返る。
そこには夏服のセーラー服を身につけた透が立っていた。
「透? なんでここにいるの。びっくりした」
「びっくりしたのはこっちだっての。たまたまお前を見かけてよ、何してんだろうってあとをつけてたら、あてもなく校内をうろつき始めてさ、ここで急に立ち止まったかと思うと、じっとこいつを見つめてさっきのセリフだ。なんかもういろいろやべえぞ、お前。何がしたいんだよ」
「……僕は結局、何がしたかったんだろう」
「何言ってんだ。しっかりしろよ。自分のことだろ」
「まあね。それより透こそ、ここで何してるの」
「何って、夏ならではのことをやりに行くのさ」
透はスカートのポケットから鍵を取り出した。鍵のタグにはプールと書かれている。
「さっき職員室で借りてきたんだ。やることねえんなら、お前も来いよ」
だね、とアキトはうなずいた。




