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『ハーモナイズ』  作者: 青山樹
第五章 『なくしもの』
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第六話 『その手はページをめくらない』

 アキトが帰宅した時、家の中は夏の暑さを忘れさせるほどに涼しかった。

 そんな快適な環境のなか、ハクアはソファに座り本を読んでいた。

 アキトはハクアのそばへ行く。もはや、本のページを確認する必要はなかった。


「どうしてずっと同じページを見ているの」


「あら、おかえりなさい。今日はいつもより遅かったのね」


 質問を無視しているのではなく、最初から質問などなかったというような態度だった。


「友達と、話をしていたんだ」


 それだけ言うとアキトは自分の部屋へもどり、着替えをもって風呂場へ向かった。


 アキトもハクアも普段通りに過ごしていた。

 もっとも、そう見えているだけなのだが。


 すべての家事を終え、アキトはハクアの隣に座る。

 この家にはテレビがない。音らしい音といえば、空調のかすかな稼働音だけだった。


「次の土曜日、彩と二人で都会の花火大会に行こうと思う」


「ならちょうどいい場所があるわ。この前都会に行った時、山の上の神社に行ったでしょ。そこへ行く石段の手前の道を東へ歩いて、そこから」


「どうして君は、そんなことを知っているの」


「どうしてって、前に一緒に行ったことがあるじゃない」


 そんなことも忘れたの?


 ハクアの目はそう語っていた。


 少なくとも、アキトにはそう思えた。


「どうしたの、アキト。あなた少しおかしいわよ」


「なんでもないよ。おやすみ」


 アキトはリビングを出る。そのままドアに背をあずけ、息を吐く。


 言えなかった。聞けなかった。


 君は一体誰なんだ。


 声にならなかった言葉はじわじわと重みを増し、ゆっくりと彼の胸を押し潰す。

 前へ進めなかった意思は半端に力を持て余し、行き場をなくしてさまよい続ける。


「…………くそ」




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