第三話 『正午の向日葵』
空白の夜が終わり、アキトは目を覚ます。
リビングに降りると、朝食の支度を終えたばかりのハクアが「おはよう」と明るく声をかけてきた。
「たしか今日で夏休みの補習も終わるんでしょう。がんばってね」
アキトはあいまいに返事をしながら朝食をとった。やはりそれは、アンがつくった料理と同じ味だった。
アキトが食事をとっている間、ハクアはソファに座って本を読んでいた。
もちろん、彼女が読んでいるのは昨日と同じ本だった。
アキトが学校へ行く支度を済ませた時も、ハクアは本を読んでいた。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
そう言うと、ハクアは再び読書にもどった。アキトは玄関のドアを開け、外へ出て鍵をかけた。
いよいよ彼は受け入れなければならなかった。
ハクアが、ハクアではなくなったということを。
四時間目終了のチャイムが鳴る。このチャイムをもって、夏休みの補習授業はすべて終了した。生徒たちが喜びの声とともに次々と教室から出て行くなか、明理はアキトのそばにやって来た。
「おつかれさんだね、アキト君。でもこれで、やっと本当の夏休みがはじまるよ。七月はもう終わっちゃうけど、そのぶんこれからはじまる八月を存分に楽しもうではないか!」
「あいかわらず明理は元気いっぱいだね」
「そういうアキト君はなんだかしょんぼりしてるね。まるでぐったりと首をもたげたしわしわのヒマワリみたいにさ」
「だね。ところで彩は? もう部活に行っちゃった?」
「なんか家の用事があるとかで帰っちゃったよ。それで私も暇になっちゃったから、こうしてアキト君とコミュニケーションタイムをもうけているのさ。えー、こほん。そういうわけだから、勘違いしないでよね! アキト君が元気なさそうだから心配してるとか、そんなんじゃないんだから! たんに暇だったから、適当に暇つぶししてるだけなんだからね!」
「あいにく僕にツンデレ属性はないよ。それに明理はキャラ的に合法ロリのアホの子だから本質的にツンデレは合わないと思うな」
「ちょ、やめて? ただのボケだよ? なのになんかすごい罵倒された気がする!」
アキトは笑う。楽しそうに笑う。
なぜ自分が笑っているのかも、わからないまま。
「心配してくれてありがとう。そろそろ、部室に行くね」
「私も一緒に行く!」
「どうして?」
「うわさで聞いたんだけど、アキト君がいる総合文芸部の部長さんって、それはもう奇跡的な美少年らしいじゃん。前から気になってたんだよね。うちの部活は午後の後半からだからまだまだ時間はあるし、ちょうどいい機会かなって思ってさ」
「ああ、そういうこと。見学ってことなら、部長も歓迎してくれるよ」
やった! と明理は顔をほころばせた。




