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『ハーモナイズ』  作者: 青山樹
第四章 『こわれもの』
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第七話 『空白の時間』

 いつものようにアキトはハクアを目覚めさせようとしたが、ハクアはこたえなかった。

 リビングに座っている彼女の姿は、眠っているというよりも、停止した時間の中に置き去りにされているように見えた。

 ハクアのアンドロイドとしての機能に重大な欠陥が生じたとか、AIのプログラムに深刻なエラーが生じたとか、そういう可能性はアキトの頭には浮かばなかった。


 ハクアはただ、眠っているだけなんだ。

 だからいつかきっと目を覚ます。

 僕はその時が来るのを待てばいい。


 これが、アキトが出した結論だった。

 というわけでアキトは普段通りに過ごすことにした。

 朝食をとり、身支度を整えて学校へ行く準備をする。

 今日から夏休みといっても、七月中は昼前まで補習授業があり、それが済んだら部活にも行かなくてはならない。なんだかんだで、七月の終わりまでは一学期の延長戦のような日々が続くのだ。


「それじゃハクア、行ってきます」


 アキトが声をかけても、やはり彼女は眠ったままだった。

 彼女が目を覚まさないことを確かめて、アキトは学校へ向かった。


 アキトが部室に入った時、彩と部長はずいぶん驚いた様子で彼を見た。


「どうしたの二人とも。そんな顔して」


「どうしたって、アキ、今日の補習授業に来なかったでしょ? てっきり休みだと思って、さっき部長さんとその話してたんだよ。いったい、どうしたの?」


「補習? ああ、そういえば、受けてなかったっけ。おかしいな。家を出てからまっすぐ学校に行ったはずなんだけど」


 彩も部長も、アキトの言葉を信じた。だからこそ、二人は動揺しているのだ。


「アキト君。何かあったの?」


「いえ。特に何もないですけど」


「ならいいけど。何かあったら相談してね。それと明日は学校の外に出て写生をするから、部活に来られない場合は連絡してほしい」


「わかりました」


「いちおうハクアにも言っておいたら? うっかり忘れないようにさ」


「そうだね。起きてたら伝えておくよ」


「起きてたらって、その、アキがいつも起こしてるんでしょ」


「でも、今日は起きなかったんだ」


「え?」


「アキト君。その、ハクアさんが起きないっていうのは、つまり、どういうこと?」


「起きないんです。僕が起こそうとしても、全然起きないんですよ」


 普段通りの態度でアキトは言う。そんな彼の態度が、彩と部長をますます混乱させた。


「ま、まって。アキト君。君にとってハクアさんは、大切な人なんだよね?」


「はい。もちろんです」


「そのハクアさんが起きないんでしょ? なんていうか、不安はないの?」


「はい」


 アキトは迷うことなく言った。

 彼にとって大切なことは、自分のそばにハクアがいるということだった。

 たとえ目覚めていても、遠く離れた場所にいては意味がない。

 その逆もまた同じである。

 彩と部長が目にしているアキトは、やはり普段通りだった。


 アキトは帰宅するとすぐハクアに「ただいま」と声をかけた。

 しかしハクアは目を覚まさなかった。

 アキトは特に気にすることもなく、普段通りの生活を送った。

 公社のホームページには、アクセスしなくなった。

 眠る前に、アキトはふと考える。


 朝に家を出たはずなのに、どうして学校に着いたのは昼前だったんだろう。

 いつもの道をいつものように歩いていたはずだ。

 なのに。

 どうして。


 どれだけ考えても、アキトには何もわからなかった。




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