第四話 『心の窓』
夕方にアキトは帰宅し、荷物を置いて買い物に出かけた。
数人分の食料を入れた買い物袋を抱え家に戻ると、玄関の前に立っている彩の姿が見えた。
学校を休んでいたにもかかわらず、彼女は制服を着ていた。
「彩、もう来てたの?
「家に一人でいても特にやることなかったから。迷惑、だった?」
「全然。それより、どうして制服を着てるの?」
「……まあ、いろいろ。それより早く家に入ろう。重いでしょ、それ」
彩はアキトから買い物袋を受けとる。
「ありがとう。すぐ開けるから」
アキトはポケットから鍵を取り出し、ドアを開ける。生体認証であれば両手がふさがっていても問題ないのだが、アキトにとってはむしろこちらのほうが性に合っていた。
アキトはキッチンに入り、夕食の準備に取りかかった。買い物袋から肉類を取り出して冷蔵庫に入れ、次にナス、カボチャ、トマト、ピーマンなどなど、新鮮な夏野菜をキッチンテーブルに広げた。
「バーベキューでもするの?」
「透は打ち上げって言ってたから。だったら、景気よくこれかなって思ったんだ」
「だね。何か手伝うよ」
「じゃあ野菜の下ごしらえをお願い」
アキトは玉ねぎが入った袋を彩に渡す。
「あ、それとさ、さっき透から連絡があったんだけど、明理も一緒に来るって」
「よかった。バーベキューにして正解だったね」
彩は小さくうなずいた。
一通りの作業が済み、二人はリビングのソファに並んで座り休憩をとった。
アキトの正面にはハクアが座っていた。
機能を停止しているハクアは、本当に、ただ、眠っているだけのように見えた。
「その、起こさなくて、いいの?」
「みんなが来たら起きてもらうよ。夕食の時はいつも一緒だから」
「そっか。なんか、本当の家族みたいだね。アンドロイドなのに」
アキトはハクアのほうを見つめていた。それを確かめたうえで、彩は続ける。
「私にとってはね、ハクアがアンドロイドだっていうのはけっこう大事なことなんだ。アンドロイドだから、人間の心は理解できないし、共感もできない。そういうことができるのは、同じ人間だけ。そう思うことで、私はどこか安心できていた。でもそれは間違いだった。私は単純に、アンドロイドかどうかは関係なく、ハクアの存在を受け入れられなかったんだよ。なんていうか、今になってようやく、自分の心がわかったような気がするんだ」
「そう」
「あのさ、アキ。その……、アンは、どうなったの?」
「わからない。僕もあの後のことはよく覚えてないんだ。でも、僕は今でもアンが好きだよ」
そっか、と彩は言う。
「もちろん、彩のことも好きだよ」
「私も、アキのことは好きだよ」
「……彩が言う好きと、僕が言う好きって、同じなのかな」
「どう、かな。でも、ちがっていればいいなって私は思うよ」
「ハクアならわかるかもしれないけど、自分で考えなさいって言うだろうね」
彩はハクアのほうを見る。当然のことだが、彼女は眠ったままだった。
「ハクアも私たちみたいに夢を見てるのかな」
「かもしれないね。僕は一度も夢を見たことがないから、よくわからないけど」
「え? アキって、一度も夢を見たことがないの?」
「そうだけど、おかしいかな?」
「たぶんね。でも、なんかアキらしいな。一度も夢を見たことがないなんて」
「僕らしい?」
「うん。そんな感じがする。ねえ、もし自分が見たいと思った夢を見られるとしたら、アキはどんな夢をみたいって思う?」
「楽しい夢かな。よくわからないけど」
そっか、と彩は微笑みをつくった。




