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『ハーモナイズ』  作者: 青山樹
第三章 『ほんもの』
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第十一話 『絆はどうあるべきか』

「まず結論から申しますと、人間とアンドロイドの間に絆が生まれるなどということはありえません。なぜなら、アンドロイドには心が存在しないからです」


 アキトは静かに婦人の主張を聞いていた。


「姿形がどれほど人間に似ていても、所有者の理想を体現していても、それは『モノ』にすぎません。しかし心が未発達な青少年はそれをうまく受容できないのです。彼らはその未熟さと純粋さゆえに、それに心があるのだと錯覚し、真実だと思い込んでしまいます。アンドロイドには心があると、信じてしまうのです。ですが!」


 婦人は声を張り上げる。


「結局のところ、それは歪んだ自己完結にすぎません。自身の理想の中に心を閉じ込めてしまっては、本物の心を持っている人間と心を通い合わせることなどできないのです。心を通わせあうということは、時には傷を負うことも意味しています。ですがそうした傷を負わなければ心と心を結び合うことも、絆を育むこともできません。ゆえに、アンドロイドとの間には正しい絆は生まれないのです。そこにあるのは、決して自分の心を傷つけない、つくりものの心なのだから」


 婦人は静かに息を吐き、そっと胸に手をあてる。


「私の息子はアンドロイドに心を奪われ、正しい絆のあり方を見失ってしまいました……」


 以前にアキトたちに聞かせた話を、婦人は語った。

 話を聞いているうちに、アキトはひとつの答えを得た。


 この人は、アンドロイドを憎んでいる。

 でもそれ以上に、自分が憎いんだ。

 アンドロイドよりも強い絆を息子と結べなかった、自分のことが憎いんだ。


 話が終わり、婦人はマイクを戻した。


「私の主張は以上です。では続いて、あなたの主張をお願いします」


 アキトはうなずき、マイクを取って体育館全体を見渡した。


「僕も講師の方の意見に賛成します。人間とアンドロイドの関係性はまだまだ問題が多くて、危険性もたくさんあると思います。なのでそのことをちゃんと理解し、解決に向けて進んでいくことが大切だと思います」


 以上です、とアキトはマイクを戻した。

 今のアキトの発言を受けて、この場にいる人のほとんどはこう思っただろう。


 討論だってのに、こいつは何を言ってるんだ?


 もちろんアキトは今が討論の時間であることを理解している。

 そのうえでの発言なのだ。

 これが、婦人の話を聞いてアキトが導き出した答えだった。


「あ、あなたは、真面目に討論する気がありますの?」


 当然のように婦人は混乱していた。彼女はアキトが稚拙で感情的な反対意見を述べるものとばかり思っていたのだ。それを徹底的に打ちのめすことが、彼女の目的だった。


「もちろんです。でも、僕はあなたの意見に賛成したい。これが僕の答えなんです」


「では、認めるのですね。あなたとアンドロイドの間には絆は存在しないと」


「いえ。僕にとってハクアはアンドロイドである前に大切な人ですから」


「だからそいつは人間じゃなくてアンドロイドなのでしょう? 馬鹿にしているの?」


「だからそういうことは関係ないんですって。いいかげん理解してくださいよ」


「……このっ!」


 婦人は立ち上がり、鬼のごとき形相でアキトをにらみつける。

 普通の高校生ならトラウマレベルの衝撃だろうが、アキトは平然としていた。


「息子さんもその顔を見たら、あなたの心が伝わったと思いますよ」


 そしてこの発言である。ステージに血が流れても不思議ではない。


 婦人の頭に上っていた血は、一気に凍りついた。

 そしてその冷気は、下劣な悪意を生み出した。


「わかりました。ではこれで討論は終了ということで、よろしいかしら」


「ええ。いいですよ」


「では、これで終わりましょうか。とても有益な時間でしたわ。アンドロイドに心を奪われるとどうなるか、皆さんにもよく理解していただけたことでしょうし」


 ただ、と婦人は腕時計に目をやる。


「時間はまだまだありますし、これで解散というのもなんだかもったいないでしょう? なので当初の予定通り、彼女に作文の朗読をお願いしたいと思いますの」


 婦人はスーツのポケットから小さく折りたたんだコピー用紙を取り出した。

 それは彩の作文のコピーだった。


 アキトは彩のほうを見る。


 彩は、大丈夫と伝えるようにうなずいた。


「では、お願いしますわ」




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