第六話 『土曜日の影』
放課後、アキトが部室に入ると、そこにはすでに部長がいた。
部長はアキトに気づくとパソコンから彼へと目を向け、土曜日のことをたずねた。
アキトは明理に話したことをそのまま部長に話した。
話が終わると、部長は深くため息をついた。
「なにやってるの。そんなんじゃ彩君もアキト君のこと本当に嫌いになっちゃうよ」
「それが彩の気持ちなら、仕方ありませんね」
「本当に君はそう思ってるの?」
「はい」
「まったくもう。本当に君には心があるのかないのか、わからないよ」
部長はやれやれと首を振り、パソコンに目を向けてキーボードをたたきはじめる。
「そういえば、部長が書いてる話ってどんな話なんですか?」
「うーん。簡単に言えば、心が通い合うための物語、かな。生者と死者の狭間の世界にある森が舞台で、そこに見た目が瓜二つな男の子と女の子がいるんだ。けれど男の子は太陽が出ている間しか目を覚まさず、女の子は太陽が沈んでいる間しか目を覚まさない。つまり二人は同じ時間に目覚めることができない」
「その二人が、心を通い合わせるんですか?」
「そうだよ」
「いやいや無理でしょ。同じ時間に起きられないなら、会話だってできないじゃないですか」
「そうでもないよ。同じ時間に起きていなくても、心を通い合わせることはできるんじゃないかな。逆に、同じ時間に起きていても、心を通い合わせることができない場合もあるでしょ」
「なんか、よく、わかんないですね」
「書き終わったら読んでみてよ。僕の言いたいことが、わかるかもしれないから」
「そうですね。楽しみにしてます」
部長はうれしそうに微笑む。その時、部室のドアをノックする音が聞こえた。
アキトがドアを開けると、透が『代生』として使っているロボットの姿があった。
「よお、アキト。やっぱりここにいたのか」
「透、学校来てたんだ。彩と一緒にいるんだとばかり思ってたよ」
「そうしたいのはやまやまなんだが、どうしてもお前と話をしたくてな」
「僕も。部長、透と少し話をしたいんで、ちょっと出ますね」
「彩君のことだったら、僕にも話を聞かせてくれないかな」
「お前には関係ねえことさ。ひっこんでな」
「関係あるよ。僕は総合文芸部の部長で、彩君はその部員だ。部長が部員の心配をするのは当然のことじゃないか」
「透、僕からも頼むよ。彩がどういう様子なのか、部長にも教えてほしいんだ」
「しゃあねえな。あれ以来、彩はずっと部屋にこもってる。飯もろくに食ってねえ。だから、明日もこの調子なら、ドアをぶち破ってでも部屋に入るつもりだ」
「彩がそうなったのは、やっぱり僕が原因なんだよね」
いや、と言って透は沈黙した。
体の内側にまで沈黙の重みが染み込んできたとき、校内放送がかかった。
放送したのは黒川先生で、アキトに対し職員室へ来るようにと指示する内容だった。
「もしかして、彩のことかな」
「かもしれねえな。だとしても、土曜日のことは絶対に言わないでくれよ」
わかった、と言い、アキトは職員室へ向かった。
職員室に入り、黒川先生を呼ぶ。黒川先生は少し困った表情を浮かべ、アキトに言った。
「じつはね、明日の講演会で講師をしていただく方がさっき急にお見えになって、君と話がしたいって言ってきたんだ。土曜日、って言えばわかるはずだって言ってたけど、なんのことかわかるかな?」
「はい。それで、その人は今どこにいますか」
「応接室で待ってもらっている。今から行っても大丈夫かな?」
はい、とアキトは答え、黒川先生と共に応接室へ向かった。
応接室にいたのは、例の婦人だった。
婦人はやはりピンク色のスーツをまとい、リラックスした態度でソファに座っている。
アキトたちの姿を見ると、婦人はにこやかな笑みを浮かべて立ち上がった。
「どうもご苦労様でした先生。あとは彼と二人で話しますので」
「いえ、あの、そういうわけにはちょっと」
「大丈夫です、先生。それにきっと、僕とこの人と二人きりでなければできない話になると思いますから」
「……わかった。じゃあ、職員室に戻ってるね」
不安げな表情を浮かべつつ、黒川先生は応接室から出て行った。




