第一話 『彼女の尊厳』
たまたま見ていたドラマのロケ地が、電車で行ける場所にあったから興味をひかれた。
それを口実に、彩はアキトを遊びに誘おうと考えた。
そんなことをしなくても、彼が誘いを断らないことはわかっていた。
よほどのことがない限りアキトが人の誘いや頼みを断らないということを、彩はよく知っていた。
都会への遠出となると、透も一緒に行くと言い出すだろう。
しかしそれは彩にとってありがたいことでもあった。アキトと二人で都会へ行くのは、やはり不安を感じるからだ。
なにも二人が若さゆえの過ちをおかすことを心配しているわけではない。
そんなことは、天地がひっくり返ってもありえないことだと、彩は確信していた。
たんに、見知らぬ土地へ行くことが不安なだけだった。
透は自他ともに認めるシスコンである。
同じく、彩も心のどこかでは透のことを頼りにしているのだ。
ハクアが同行することも、彩にはわかっていた。
ハクアの同行を認めなければ、アキトが誘いを断るだろうことも。
アキトが何を考えているかは、彩にはよくわかった。だてに幼馴染ではない。
それでも一度くらいは拒んでみようと彼女は考えた。
何もせずに敗北を認めることは、彼女のプライドが許さなかった。
それに、ハクアと行動を共にすることで、自分のなかで何かがかわるかもしれないとも思ったのだ。
あるいは、彼のなかで。
期待と不安を入り混じらせながら、彩はその日が来るのを待っていた。
人権教育の課題の作文が入賞し、それを全校生徒の前で朗読するように頼まれた時も、彩の頭には都会へ行く日のことしかなかった。
講演会の講師を務めるという婦人と初めて出会った時も。
だからだろう。
彩たちが都会へ行く日に、婦人が所属する市民団体が都会でデモをするという世間話程度の雑談に彼女は反応してしまった。
そして話は、予期せぬ方向へ動いた。
婦人はシルクハットの奇術のごとく彩から情報をするすると引き出し、彩がアキトに思いを寄せていることや、アキトがアンドロイドと親密な関係を持っていることを聞き出した。
話が終わると、婦人は彩に惜しみない同情の言葉を述べ、名刺を差し出した。
「私でよければいつでも相談に乗りますわ。何か力になれることもあると思いますの」
その名刺を受け取った時、彩にある思惑が浮かんだ。
それはだんだんと具体的な形となっていき、その日の夜に彩は婦人に連絡をとった。
全力で戦わなければ、敗北を認めることはできない。
これもまた、彼女のプライドだった。




