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「それで、何で私は呼ばれたの?」
「いえ、流石に婚約中の女性と二人きりになるのは問題があるのではと思いまして…」
「ふ〜ん。それで私を呼んだんだ…」
「雨宮さんと悩んだんですが…」
「そう。私を呼んで正解だったかもね…」
僕は今、二人が同棲している部屋に来ていた。
彼がいない時に来ると話していたので、
部屋の中に倉本大輝はいない。
倉本大輝には橘と一緒に外に隠れてもらっている。
実際に人が来た時に連絡をするようにお願いしてある。
「あ、あの…こちらの方は?」
「申し訳ありません。こちらは僕の知り合いの方でして…」
「初めてして、鈴の彼女です」
「…は、はい」
柚葉さん…彼女を困らせないで…
鈴って誰だろうって表情をしているじゃないですか…
「少し変わった人ですが、おかしな人ではないので、ご安心ください」
「そ、そうですか…」
鈴も似たような感じでしょ?と柚葉さんは言っているが、
僕は返事を返さなかった。
「来ますかね…」
「どうですかね…今までは私1人だけの時にしか来てませんでしたから…」
「そうですか…」
水原聡美は少し怯えた表情をしている。
まぁ、知らない人が突然くるのだ、
怖がっても仕方ないだろうと思った。
チリン
左腕から鈴の音が聞こえた気がした。
僕はこの音が大好きだったが、
二度と聴きたくないと思うこともある。
ドンッと入り口のドアを叩いた音がした。
その後、爪で引っ掻いているような、
ギィーーーーーと音が鳴り響いている。
「き、きた…」
水原聡美は怖がって、頭を抑えて座り込んだ。
鈴…と呟いた声が聞こえたので、
柚葉さんを見ると視線は僕の左腕に向いていた。
僕はポケットから携帯を取り出し、橘に電話をかける。
ワンコールで電話に出た。
「リンちゃん?どしたん?」
「橘…部屋の前に誰かいるか?」
「え?いや、いないけど」
わかったと言って、通話を切った。
「部屋の前には誰もいないそうです」
「…えっ?…う、うそよ…だ、だって」
水原聡美はそう言って入り口のドアを見つめた。
ドアからはまだ爪で引っ掻いているような音がしている。
柚葉さん…と声をかけた。
柚葉さんは僕の目を見つめている。
「お願いします」
僕がそう言うと、高いわよ?と微笑んだ。
ブツブツと呪文のような言葉を呟きながら、
手を入り口のドアに向け、近づいていく。
長いような短いような時間。
柚葉さんは手をドアに向けながら呟いていた。
突然、ドアが開く
「っ、聡美!大丈夫かっ!」
倉本大輝と橘がドアを開けて入ってきた。
玄関には長い髪の毛が大量に落ちていた。
「うわぁ〜!なんじゃこりゃ!?」
橘は玄関でビックリした声を上げた。
倉本大輝は怖がっている水原聡美に近づき、抱きしめた。
「聡美…ごめん」
「だ、大輝…」
水原聡美は泣きながら倉本大輝を強く抱きしめている。
「聡美がこんな思いをしてるなんて、知らなかったんだ…なのに、俺!…本当にごめん」
二人から視線を外し、僕は玄関の髪の毛を見た。
たしかに、どっちの髪の毛でもないな…
「とりあえず、追い払えたかな?」
柚葉さんは汗をかきながら微笑んでいる。
柚葉さんを呼んで…正解でしたよと僕が伝えたら、
そう言う意味じゃなかったんだけど?と笑われた。
橘が困惑した表情で話しかけてきた。
「リンちゃん…ドアが全然開かんかったけどさ…部屋ん中で何があったん?」
「…橘が…苦手なやつだよ」
「うへぇー、マジかよ…」
橘たちが入ってきて開いたままになっている、
入り口のドアを見た。
そこには爪で引っ掻いたような傷がついていた。




