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第八章、いざ開幕!

その女性はコーヒーをよく飲んでいた。

白い肌に、長い黒髪。

その女性だけが僕に優しくしてくれた。

僕の母親ではない。僕に親などいない。

身体中につけられる傷の痛みも、

死なない量の毒をのまされる苦しみも、

僕にはどうでもよかった。

ただ、その女性の優しさが…温もりがほしかった。




カラコロカラン


「リンちゃん!ごめん!今日休んでいい?」


橘は入ってくるなり、いきなり聞いてきた。

僕はタバコに火を灯しながら答えた。


「どうしたんだよ」

「今日さ…栞ちゃんと出かける約束しててさ…」

「そうなんだ」

「だからさ!ごめん!いいかな?」

「別に…依頼も受けてないからね」


いいんじゃないと話ながら煙を吐き出した。


「マジで!いいの!?」

「いや、いいだろ…」

「やったー!リンちゃんマジでありがと!」


店の外で雨宮栞が笑顔で手を振っているのを見つけた。

僕は軽く頭を下げて、橘に話しかけた。


「…雨宮さん。外で待ってるよ」

「えっ?うそ!…あっ!本当だ!じゃあ、俺行ってくるから!何か依頼あったら、連絡しろよな!」

「わかったから…ゆっくりしてこいよ」


じゃあな!と元気よく飛び出していった。


カラコロカラン


窓から仲良さそうに歩いていく二人を見て、

あの二人…付き合ったのかな?

なんてどうでもいいことを考えた。


久しぶりに一人でゆっくりと過ごす時間ができた。

僕はコーヒーを淹れ、コーヒーの香りを味わいながら、

タバコの煙を吐き出す。


カラコロカラン


「やっほー!コーヒーちょうだい!」


やっぱり、僕にゆっくりする時間はないのかもしれない。

カウンターに座った柚葉さんに僕は返事をせずに、

二人分のコーヒーを入れ、一つカウンターに置いた。


「う〜ん。いい香り」


コーヒーを一口飲み、天井に煙を吐き出す。

柚葉さんは美味しいと呟いてから、

静かにコーヒーを飲んでいた。


柚葉さんが何も話さずにいることを不思議に思いながらも、僕は何も話しかけなかった。


静かに時間が過ぎてゆく。


「ね〜鈴?」


ふとした時に柚葉さんが声をかけてきた。


「…どうしました?」

「コーヒー美味しいね」

「…そうですね」

「鈴はコーヒーのいれかたを誰かに教えてもらったの?」

「…いえ、教えてもらっていませんね」

「そうなんだ」

「…そうですね」


柚葉さんはカウンターから上目遣いで、

じゃあ、自分で頑張ったんだねと僕に話した。

あざといなと思いながらも、

そうですねと僕は返す。


また静かに時間が過ぎてゆく。


「私…こういうゆっくりした時間も好きよ」

「…そうなんですか」

「鈴…意外って思ってるのが顔にでてるよ」

「…すみません」


僕自身、表情の変化に乏しいことは自覚しているので、

僕の表情の変化に気付いた柚葉さんに驚いた。


「まぁ…いいけど。鈴も嫌いじゃないでしょ?」

「そうですね…僕も、嫌いじゃないですよ」


僕は柚葉さんと静かにゆっくりとした時間を、

コーヒーの香りを感じながら過ごした。

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