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雨宮栞の家を出た後、歩きながら電話をかける
プルルルル プルルルル
「もしもし…」
「神影です。今、お時間よろしいでしょうか?」
「あぁ…大丈夫だ」
「ありがとうございます。先程、雨宮さんの自宅で盗聴器を発見しました。全て破棄したところです」
「…本当に…あったんだな」
「はい。現在、雨宮さんの身辺保護はこちらで行なっておりますが、ストーカーが今後どのような行動をとるかわからない為、一度ご連絡しました」
「…わかった。ありがとう」
「いえ、失礼します」
通話を切った僕は近くのコンビニでコーヒーを買うと
入口の喫煙所でタバコに火を灯す。
コンビニのコーヒーもそんなに悪くないなと
思いながら、白い煙を空へと吐き出す。
太陽がウトウトと眠る時間になってきたなと
空を見ながら考えていると、僕が歩いてきた道を
歩いていく男の姿に気づく。
「はぁ。お早い出勤で」
ぼやきながらタバコを灰皿に捨て、コーヒーをグイッと一気に飲み干してから捨てると、静かに男の後を追った。
「雨宮さんにご用事ですか?」
雨宮栞の部屋のドアを開けようとしている男に声をかけた。
あれから静かに後を追ったとはいえ、
こんなにも周りに気を配らないことに
逆にビックリしていると、
男はビクッとした後、ゆっくりとこちらを向く
「え、えぇ、まぁ」
「そうですか。奇遇ですね、僕も雨宮さんから頼まれごとをしたんですが、部屋の鍵を預かり忘れてしまいまして…」
男はそうなんですねと言いながら笑っている。
「あなたは鍵をお持ちのようですね?一緒に入ってもよろしいでしょうか?」
「そ、それはどうかな?君が栞ちゃんの知り合いだとは思えないし…勝手に入れるのは…」
「あーそうですよね。申し遅れました、神影です。これでわかってもらえましたかね?」
僕の名前を聞いた途端に笑顔だった顔が無表情になる。
「雨宮さんにご用事があるんですよね?どんなご用件かお聞きしてもよろしいですか?」
黙ったままの男は突然、走り出し僕を突き飛ばした。
人間とは不思議なもので咄嗟に身体が動くものだ
動いたとしても、手すりには手が届かず
僕は階段から転がり落ちた。
痛みを感じているとハァハァと荒い息遣いが
上の方から聞こえてきたが、その荒い息遣いのまま
階段を走り降りて、そのまま走り去っていった。
「まぁ、そうなるよな」
走り去る後姿を見ながら、
僕はそう独り言を言ってから、気を失った。






