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「雨宮さん。とりあえず、橘と行動していただけますか」
神影さんはタバコを吸い終わったのか
私の方に歩きながら話しかけてきた。
「相手が動かないことには、こちらは何もできない。かと言って、このまま雨宮さん一人にしてしまうと危険な目に遭う可能性もある。ですので、橘が身辺保護をしますので、一緒に行動していただけますか」
橘さんはよしきた!とガッツポーズを作り
いいよね?と私に笑顔を向けてきた。
私としてはこのまま一人になるのは怖い。
願ってもない話だけど…いいのだろうか?
何も答えない私に神影さんは
「雨宮さんと行動するのは僕より橘の方が適任だと思ったのですが…」
あまり表情の変わらない神影さんは
何を考えてるのかわからない。
「いえ…ご迷惑ではないですか?」
そう聞く私に、危険な目に遭われる方が迷惑ですと
神影さんは表情をあまり変えずに、
でも、はっきりとした口調で話しかける
「では、橘には彼氏のフリでもなんでもよろしいので、一緒に行動するように心がけてください」
彼氏と言う言葉に、思ってもいなかった言葉に
顔が少し熱くなったように感じた。
「リンちゃん!こんなに可愛い子の彼氏だなんて、周りの男の子に嫉妬されちゃうじゃん!」
「橘なら大丈夫じゃないか?それに普段一緒に行動するんだから、彼氏だと周りに説明しやすいと思ったんだけど…」
「栞ちゃんにだって選ぶ権利があるんだからさ〜」
神影さんと橘さんの話が頭に入ってこない
あれ?私って、もしかして…
「何でもいいけど、雨宮さんと行動する理由をつけといた方がいいんじゃない?そこは本人と話し合ってよ」
「お、おう!栞ちゃんとしっかり話すから」
「雨宮さん?…雨宮さん聞いてますか?」
神影さんに声をかけられて、ハッとする
「は、はい。聞いてます」
「それでは、僕は行きますので。橘と一緒にいること…頼みましたよ」
そう言った神影さんは私の返事も聞かずに
静かに立ち去っていった。
なんか本当に何を考えてるのかわからない
不思議な雰囲気の人なんだなって感じながら
誰もいなくなった玄関のドアを眺めていたら
「栞ちゃん?とりあえず、どうする?」
橘さんが優しく話しかけてきた。
「えっ?いや、な、何がでしょうか?」
慌てて返事をする私に、
話聞いてなかったでしょ?と笑いながら聞いてきた
「す、すいません」
「大丈夫!大丈夫!とりあえず、俺が一緒にいるけど、それは大丈夫かな?」
「は、はい!それは…お願いします」
「OK OK!まかせんしゃい!栞ちゃんのことはしっかりと俺が守るからさ〜」
私を守ってくれる。そんなこと言ってもらったこと
今まであっただろうか…
あんなにも怖いと思っていたはずなのに
少しだけ胸があったかく感じていた。