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「今回、僕は何もしなくていいかもね」
カウンターでコーヒーを飲みながら
タバコに火を灯すと
「いやいや、リンちゃんが動かなきゃダメっしょ?」
「そもそも探偵事務所なんて言ってるけど、探偵としての仕事なんて橘のほうができるだろ」
「いや〜そんなことないよ〜最後に解決するのはリンちゃんだからさ〜。とりま、情報収集いってきまーす」
笑顔で手を振りながら立ち去って行った。
ストーカーを見つけ、警察に突き出す。
今回の依頼内容はこんなところだろう。
そう考えながら、新しいタバコに火を灯した。
「情報収集してきたよ〜」
あれから一週間が立った。
雨宮栞の身辺を調べてみたが、目立った証拠はない。
大学に通いながら、アイドル活動を行う。
熱狂的なファンはいないがそれなりに人気はある。
大学にも友人がそれなりにいて、
普通に過ごしているようにしか感じない。
「ストーカーがいるようには感じないな」
「そうだね〜。俺が調べた感じでも普通に過ごしてると思うけど…」
「けど?」
「何かに怯えてる感じはするのよね〜」
結局、進展がないままだった。
カラコロカラン
「あの…すいません…」
「栞ちゃん!いらっしゃ〜い」
雨宮栞が来店してきた。
相変わらずウエイターのような早さで
お茶を用意し、ソファに導く
「あれから何かあったかな〜?」
「あの…それが…こちらでお願いしてからはそれがなくなってしまって」
「それならストーカーはいなくなったということですか?」
「その…多分。でも、いつまた現れるかわからなくて…怖くて…」
「そりゃ、怖いよね!でも、こっちでも調べてみたんだけど…なかなか見つけられなくてね…ごめんね」
「いえ…その、すいません」
無言の時間が続く
「申し訳ありませんがこれ以上調べられることはありません」
「いえ…そ、そうですよね。すいません」
無言の時間が続く
「いや!でもさ、リンちゃん!俺たちにも何かできることあんじゃないのっ!こんなに可愛い子が怖がってるんだぜ!」
「そうは言っても、僕達に依頼した途端に何もなくなるのなら、ストーカーを見つけることはできないよ」
「そ、そうだけどさ…」
「また何かありましたら、ご相談ください」
「はい。すいませんでした」
カラコロカラン
俯いたまま静かに立ち去っていった。
「本当にこれでいいの?」
「何が?」
「何がって!栞ちゃんのことだよっ!」
大きな声で耳がキーンとなった。
感情を声の音量で示さないでほしい
「橘はあの人を引き続き調べて」
「は?」
「聞こえなかったの?雨宮さんの身辺を調べて」
「どういうことだよ?」
「多分だけど盗聴器、仕込まれてるから。依頼が終わったと思えばまた現れる可能性があるでしょ?」
「リンちゃん!!」
ご褒美をもらった子犬のようなキラキラした瞳で
こっち見んな。