2の1
第二章、いざ開幕!
女性が僕を後ろから抱きしめている。
少し痛いぐらいに、だけど、優しく強く
僕を抱きしめている。
僕はこの女性を知らない。
顔が見えないんだから当たり前の話だけど
何か小さな声で囁いているが
聞こえない。聞かなきゃいけない気がするけど
聞かなきゃいけない気がするけど、聞こえない。
パッと目が覚めた。夢を見ていたみたいだ。
カウンターの方からはコーヒーの香りがしていた。
カラコロカラン
「リンちゃん!起きてる〜!?」
相変わらず元気な声で入ってくる。
「橘ってさ、なんかやばい薬とかやってないよね?」
「えっ!いきなりなにさ!そんなんやってねーよ!」
そんなことを考えてしまうほど、
橘の朝の元気は異常だ。
僕が低いだけなのかもしれないが…
カラコロカラン
「あっ!栞ちゃんだ〜。いらっしゃ〜い」
「おはようございます!来ちゃいました!」
眩しい笑顔で元気よく入ってきた雨宮栞は
カウンターの方へ歩いてくると
コーヒーお願いできますか?と上目遣いで聞いてきた。
「大丈夫ですよ」
あざといなと思いながらもちゃんと返事を返し、
コーヒーを淹れる。
「今日は今から学校?」
「いえ、今日はお休みだったので遊びにきちゃいました」
「そうだったんだ!俺、栞ちゃんに会えて嬉しいよ」
キャッキャウフフとキラキラした空間に向かって
コーヒーができましたよと声をかける
トテテと効果音がつきそうな歩き方で
カウンターにくると、ありがとうございますと
笑顔で言ってから、コーヒーを持ってソファに座る。
リンちゃん俺のは〜?と言う声が聞こえてきたが
返事を返さず、自分のコーヒーを入れて飲みながら、
タバコに火を灯す。
あれから雨宮さんはちょこちょこと
顔を出すようになった。
橘は嬉しそうに話しているが、僕は特に話すこともないので、基本的にはそっとしている。
だが、今では元気そうにしているので、
それが何よりだと思う。
「あれから何かお仕事とかあったんですか?」
「栞ちゃん!聞いてよ〜!飼い猫がいなくなったって依頼を受けたんだけどさ〜。リンちゃんが全然探してくんないの!」
「えっ!そうだったんですか?」
「そうなのよ!んで、薮の中やら路地裏やら泥だらけになりながらめっちゃ探したんよ!」
「うわぁ。すごく大変そう…」
「そう!大変だったのよ…そんで、見つからないからしょうがなく事務所に戻ったらさ。リンちゃんが猫をあやしながらコーヒー飲んでんの!」
「えっ!?神影さんが?」
「そーなんだよー。俺がめっちゃ大変な思いをして探し回ったのに、リンちゃんはすぐに見つけてさ!不公平だよな!」
「いやいや、橘が依頼人の話をちゃんと聞く前に飛び出したから、そんな目にあったんだろ?」
「そりゃそうだけどさ〜」
橘さん頑張ったんですね!と
笑顔でガッツポーズを作るアイドル
ただただ、褒められたかっただけだろ…
なんてどうでもいいことを感じていた。
カラコロカラン
「あの、ここは探偵事務所でしょうか?」
メガネをかけた男性が来店してきた。
今回のお客さん候補一号
「そーですよ!ここが神影探偵事務所さ!」
「どうかされました?」
カウンター越しに声を掛けると男性は
言いづらそうにしながらこう言った。
「娘を…娘を探して欲しいんです」




