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今日は満月なんだなと思いながら、
二本目のタバコを吸い終わり、吸い殻を携帯灰皿に捨てる
部屋に戻ると雨宮栞は少し眠たそうな顔をしていた
「もう夜も遅いですし、僕たちは帰りましょうか」
「そうだね〜。今日はもう大丈夫でしょ」
雨宮栞はありがとうございますと返事をした。
「栞ちゃん?カギだけじゃなくてドアロックもしなきゃダメだからね〜」
「はい!今もドアロックまでちゃんとしてますよ」
チリン
左腕から鈴の音が聞こえた気がした。
僕はこの音が大好きだったが、
二度と聴きたくないと思うこともある。
明るかった照明が突然暗くなり、
テレビの電源も落ちる。
真っ暗闇な空間に無音が続く
ブーブーブー
テーブルの上に置いてあった雨宮栞の携帯画面だけが
明るく光り、微かに部屋を照らす
橘が携帯画面を見て、非通知…と呟いた
通話が切れると部屋に明るさが戻ってきた。
テレビからもバラエティ番組の笑い声がする
「停電…じゃないよな」
橘が僕の方を見ながら聞いてくる。
ドンドンドンドンドンドン
ガチャガチャガチャガチャガチャ
玄関のドアから強く叩く音と
開こうとドアノブを回す音が響き渡る
キャッと驚く声が聞こえた。
橘と目を合わせ、ドアの方を見ると
少し違和感を感じた。
何かがおかしい気がする。
音がしなくなったドアを見つめていると
鍵がカチンと開く音がした。
ガチャと扉がゆっくり開き、
そこには目が血走っている野田勝が
右手に包丁を持って立っていた。
栞ちゃん栞ちゃん栞ちゃん栞ちゃん栞ちゃん
とツブツブ呟きながら、僕たちの方を凝視している。
横のほうでバタンと倒れた音が聞こえた。
雨宮栞が恐怖のあまり気を失ったらしい。
あああぁぁぁぁぁぁぁと奇声を上げながら
包丁をこちらに向け走ってくる野田勝
素早く動いた橘が野田勝の腕を掴み
揉み合いになった。
突き飛ばされた橘はなんとか包丁を
奪い取ることができたようだ
「リンちゃん!」
橘を突き飛ばした野田勝は勢いよく僕にぶつかってきた。
勢いのまま倒れ、気付けば僕の上に野田勝がいて
馬乗り状態のまま首を絞められた。
人間って狂気に染まればこんな表情をするんだなと
目が血走っていて、怒りなのか嘆きなのか
わからない表情をするんだなと息苦しさの中思った。
このまま殺される訳にはいかない。
僕の首を絞め続ける両手に抗うため力を込める。
急に絞められていた力がなくなり、息を吸い込むと
ゴホッゴホッと全力でむせた。
橘が後ろから殴り、僕の上からどかしてくれたようだ
そのまま野田勝の腕関節を決め、動けないように
取り押さえている。
「栞ちゃんは僕だけの!僕だけの栞ちゃんなんだ!」
泣き叫ぶような、怒り散らすような声の中
「おめーのじゃねーよ!!!」
と負けず劣らずの大声で返す橘
息を整えた僕は静かに電話をかけた。




