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この作品を読もうと思ってくださったこと
とても嬉しく思います。
お楽しみいただければ幸いです。
目が覚めた時、いつも感じることは
あー、僕はまだ生きているんだな。
ただそれだけだ
コーヒーの香りを感じ、またかと思う。
僕が目覚めた時に必ずいれたてのコーヒーが
カウンターに用意されている。
今ここには僕しかいないはずなのに
ソファから重い体を起こし、
カウンターでコーヒーを飲み、タバコを一服。
これが僕のモーニングルーティンだ
深夜2時。モーニングとは言えないが…
「グッドモーニーング!!」
カラコロカランと扉が開く時になるベルよりも
大きな、元気な声で入ってくる男がいる。
「おーい。テンション低めだぞ〜」
爽やかな笑顔で、さぁご一緒にと笑いながら
「グッドモーニーング!!」
「おはよう。もう昼前だけどな」
食い気味に答えたせいか、少し笑顔が苦笑いになった気がしたが僕には関係のない話なので気にしない。
「今日もお客さんは…なしっ…と〜」
「いつものことだろう」
「いやいや、ちゃんとお仕事してもらわなきゃ」
俺のお給料が〜と泣きまねをしている。
意外と泣きまねは上手なようだ。
「別にここじゃなくてもいいだろう?」
「リンちゃん。それはないから」
真顔で言われた所で…気迫は感じるが
そこまでここにこだわらなくてもいいだろうに。
カラコロカラン
若い女性が入ってきた。
今回のお客さん候補一号
「あの…ここが神影探偵事務所でしょうか?」
「イエス!!ここが神影探偵事務所さ!」
「どうかされましたか?」
ハイテンション男にビックリしながらも
僕に話を続けてくれた。
「はい…あの…ストーカーがいるんじゃないかって…ここなら調べてもらえるんじゃないかと思って、きたんですけど…」
「OK OK!まかせんしゃいな!」
「警察に行かれた方がいいんじゃないですか?」
「ちょっ!おーいっ!」
すいませんね〜と苦笑いしながら
僕の腕を掴み、カウンター奥に連れて行かれた。
「おい!折角のお客様だぞ!依頼人だぞ!」
「警察に行った方が早いだろ?」
「あんなに可愛い女の子が困ってんだ!話ぐらいちゃんと聞けよな!何かあってからじゃ遅いのよ!」
「あの!すいません…ご迷惑ですよね」
カウンター越しに女性が話しかけてきた。
微かに肩が震えていて、緊張しているように見えた。
「いやいや、こっちの話なんで!オールOKっすよ!」
「とりあえず、座りながら話聞いてもいいかな?」
こちらへどうぞ〜と爽やかな笑顔でソファへ導き、
素早くお茶をグラスに注ぎ、彼女の前に置いた。
まるで、ウエイターのような流れるような動きに
僕はただ、石のように立ったままだった。
話し始めるようなので、僕はいつものソファに腰掛ける
「とりあえず、自己紹介しますね〜」
俺の名前は橘龍生。助手で〜すと満点スマイル。
笑顔に点数などありはしないが…
「そんで、こっちの仏頂面がリンちゃん!探偵さ!」
僕自身、表情は乏しい方だと理解はしているが
仏頂面と言われるほど、仏頂面はしていない。
静かに名刺を渡した。
「えっと…神影…スズタロウさん?」
「スズタロウでもリンタロウでも好きに呼んでください。どちらでも同じ名前に変わりはありませんので」
「ちなみに俺はタツオね!リュウセイじゃないからね〜」
「あっ…はぁ…」
何とも言えない表情を浮かべ、少し悩んだのか
「橘さんと神影さんですね」
苗字に落ち着いた。当たり前の話だ。
突然、下の名前で軽々しく呼んでくるような人は
よほどのチャラいやつかパリピだろう。
偏見なのかもしれないが…
「私の名前は雨宮栞です。アイドルをしてまして。アイドルと言っても人気もまだまだで駆け出しではあるんですけど…」
「どおりで〜!可愛いと思った!栞ちゃんはアイドルなんだね〜」
こいつはチャラいのかもしれない。
「最近はずっと付けられているような気がして…」
「マネージャーさんとか事務所の人には話したの〜?」
「はい…話したんですけど、気のせいだよってちゃんと聞いてもらえなくて…私の話…信じてくれますか…?」
「信じる!信じる〜!ねっ?」
「何か証拠とかあるんですか?あるなら警察に」
「ほら、二人とも信じてるでしょ〜?」
明らかに僕に対して、どうしたらいいのか
わからない表情のまま橘に話し続ける
「この間、これがポストに入ってて」
鞄からとりだした紙には大きな文字で
ずっと見てるよ
そう書かれていた。
他にも髪の毛が入ってる袋が入っていたり、
家に帰ると非通知で電話がかかってくるらしい。
「うひゃー。そりゃ怖いね〜」
「はい…でも、イタズラだとは思えなくて…怖くて…」
「怖いよね〜。この依頼受けますよ!神影探偵事務所にお任せください!」
「はい…ありがとうございます。」
そのあと、橘と打ち合わせを行い
彼女は少しホッとしたような顔をして帰っていった。