7話 学校中の人気者
サブタイトルを『学校中の人気者』に変更しました。
入学式の日が月曜だったので今日は火曜!
高校生になってから二回目の登校、そして初めての授業だ。めちゃくちゃ楽しみである。
勉強が好きなのかって? ノンノンノン。むしろ嫌いだ。できるならやりたくない。
なら、どうしてそんなに楽しみにしてるんだよって?
オレはさりげなく自分の隣を歩く女子高生に視線を移動させる。ここまで来たらさすがにわかるだろう。
ここにいるのは逢坂芹花。オレの彼女であり、クラスメイト。めちゃくちゃかわいい。
つまり、『彼女が近くにいてくれるから』というのがオレが学校を楽しみにしている理由ということになる。
彼氏だから一緒に登校できるし、クラスメイトだから一緒に授業を受けられる。こりゃあ、つまらない学校生活も一気に華やかになるというものだ。
「芹花、昨日の夜は何食べた?」
「え、昨日の夜? えっと……オムレツかな」
「本当に!? オレもオムレツだったんだよ!」
あれはオムレツじゃないって?それは言わないお約束だ。
「……なんかやけに元気だね。いいことでもあった?」
芹花が隣にいてくれるから、と言おうとして止める。
やば……今ものすごくキモいこと言おうとしてたわ。いくら恋人でも、その発言はないな。うん。
心の中で思うだけにしておこう。
「いやまあ、いい天気だからさ。気分も上がっちゃって」
「ああ、ちょっとわかるかも。天気がいいと気分って上がっちゃうよねー」
「うんうん」
元気な理由は芹花が隣にいるからだが、天気がいいと気分が高まるというのも嘘ではない。
芹花がいることで元気になった後、天気がよくて更に元気になったって感じだな。
そんな感じで空を見上げていると、校門が見えてきた。
二人で手を繋ぎながら仲良く校門を抜けると、突然あちこちから歓声があがる。
「ん、なんかみんなこちらを見てない?どうしたのかな」
「本当だな。なんかこちらに面白いものでもあるのかな」
振り返ってみるが、何もない。
なんなんだ、気持ち悪いな。集団で幻覚でも見てるのか? 折角いい気分だったのに台無しだ。
「行こうぜ、芹花。変なやつらは放っておいて」
「ねぇ、みんなわたしたちを見てるんじゃないの?」
芹花がなんか言ってたが、早く教室に入ることを考えていたオレの耳にその声は届かなかった。
教室に入るまでの道のりでも色々なやつに見られた。本当になんなんだよ、ふざけるな。
段々とイライラしてきたぞ。次に見てきたら注意してやる。
教室のドアを開けると、オレは最初にこちらを見て驚いたやつを思い切り睨みつけた。
睨まれた生徒は「ひぃっ」と情けない声をあげて教室の隅へ行ってしまった。
「こらっ、侑史くん。怖がらせちゃダメでしょ」
睨みつけるオレの頭を芹花がポカリと叩く。あんまり痛くないな。それどころか、ちょっと気持ちいい。
「うー、怒ったのになんか嬉しそうにしてるし。わたしの彼氏、ドMなのかな……」
その発言後に再び歓声があがる。もう本当に意味わかんねぇな。お前らには何が見えてんの?
なんかオレらの顔に変なものでもついてたとか?でも、その程度でこんだけ歓声があがるか?
意味のわからなさが臨界点を超える。
「マジかよ……」
「まだ二日目だぞ……」
耳をすませたが、なんの話かわからん。もうこれは誰かに聞いてみるしかねぇな。
オレは「マジかよ……」と言っていたメガネくんに声をかけてみる。
「なんの話してんの? マジかよって何が?」
「え? いや、お前はわかってないかもしれないけど、逢坂さんは超が何個もつくほどの有名人だぞ。その有名人が入学式の次の日に男と歩いてたら驚くに決まってるだろ」
ああ、そういうことだったのね。そういうことならちゃんと言えや。
「ありがとな、教えてくれて。スッキリしたよ」
「お、おう」
オレはマジかよメガネくんに礼を言うと、芹花の方に向き直る。
「え?」
なんかいつの間にか芹花が女子連中に取り囲まれてるんだが。
この光景、前にも見たな……保健室の前で。有名人の周りには人が集まるもんなんだな。
「……」
それはオレも例外じゃないらしい。気づけば、オレの周りにも男子連中が集まっていた。
昨日はオレが自己紹介しても無反応だったくせに。ま、つまらない自己紹介だったから反応しにくいだろうけど。
「なぁなぁ! どうやって付き合ったんだよ!」
「俺ら、狙ってたんだぞ!」
「さよなら、おれの初恋……」
こうして話を聞くと男子の七割ぐらいは芹花に恋愛感情を抱いていたとわかる。早く付き合ってよかった。
変な輩に告白される芹花など見たくはないからな。
「おーいー、譲ってくれよぉ」
「頼むからさぁ」
「一生のお願い。ね?」
何が一生のお願いだ。ぶっ殺すぞ。
どうでもいい野郎のお願いなんぞ聞いてられるか。
オレは男子の群れをかき分け、芹花のもとへと向かう。芹花も囲まれて困っているはずだ。助けに……
「えー、そんなに褒めないでよ」
「いやいや、すごいって」
……なんか盛り上がってる。
褒められてデレデレと笑ってる芹花、久々に見た。すごい。オレが見てない間にどんな話をしてたんだ……
「でも、なんで付き合おうと思ったの?」
ま、まずい……オレたちが付き合おうと思った理由を話すとなると、転生前の世界のことを話すことになる。
転生したことを転生者以外にバラすのはダメだと思う。誰かに言われたわけじゃないが、なんかダメな気がするのだ。
助けようと思ったのだが、再び男子連中に取り囲まれてしまった。どうしよう。
「ん、なんで黙ってるの?」
ダメだ。話さないと不審がられる。
どうするんだ、芹花。無言で乗り切るのは無理だぞ……
「……はは、わたしも侑史くんのことが好きだったからだよ。好きでもない人と付き合おうとは思わないでしょ?」
「確かに! でも、神呂くんってイケメンではあるけど、ちょっと地味だよね?どうやって好きになっていったの?」
地味……オレって地味だったのか……
ショックだな……ちょっとショックだ。いや、大分ショックだ。地味だなんて今まで言われたことなかった。
もしかして、口に出さないだけでみんな心の中ではオレのこと地味だと思ってたのか……?
ああ、なんかテンションダダ下がりだ。
「……ぁ!」
「……ろ!」
なんか言ってるけど、落ちこんでるオレの耳には届かない。
空返事ばかりしていると、何を聞いても意味ないと悟ったのかどんどんと人が離れていく。
芹花の方もどんどん人がいなくなっていた。
「疲れたな……ってもう授業時間じゃねえか」
いつの間にやら授業時間だ。先生が教壇の方からこちらを睨みつけている。
こえー。でも、なんか授業受ける気なくしたんだよな……
「先生……気分が悪いので保健室に行ってきていいですか?」
「すみません……わたしもです」
芹花も!? あ、でも芹花の方はオレと違って本当に気分が悪そうだな。
「……ふん、わかった。だが、体調が改善したらすぐに戻ってこいよ?」
「はい、それはもちろん」
ごめんなさい、嘘です。丸々休むつもりでいます。
申し訳ない気持ちは一応あるので、心の中で「てへぺろ」と言っておいた。
なんかまた睨まれた。もしかして届いた?
今更ちゃんと授業を受けるとも言えないので、怖がりながらも教室を出た。
「なーんでこんなことに……」
保健室までの道を歩きながら、そんなことを呟いた。
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