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6話 頭の中の誰か

 へ……えっと見間違いじゃないよな。


 メールをもう一度見るが、そこには確実に『転生者』と書いてある。


 驚きすぎてむせた。さっき飲んだカカコーラが口から飛び出るかと思った。汚い。


『て、転生者って本当かよ!? てか、なんでそんなことを芹花は知ってるんだ!?』


『なんでだろうね……なんか頭の中の誰かが教えてくれて』


 頭の中の誰か? イマジナリーフレンド?


 いやいや、芹花はそういう悲しい子ではない……はずだ。


『実在する人?』


『ん? いや、わからないよ』


『そっか』


『……もしかして、侑史くん。わたしが嘘ついてると思ってるんじゃない?』


 芹花が嘘つくと思うわけないじゃん……と送ろうとして、数秒ためらってしまう。


 ダメだな、オレ。彼女のことは信じてやらないと。


『嘘ついてるなんて思ってないよ』


『なら、いいけど……』


 なんかの衝撃で幻聴が聞こえるようになったとかないかな?


 芹花は危なかっかしいからなぁ。


『あ、もういいよ。侑史くんの頭の中には誰もいないんでしょ?』


『え? ああ、うん。なんでかは知らないが』


 本当にいるのだとしたら、一つ疑問がある。なんで芹花の頭の中にはいて、同じ転生者のオレの頭にはいないのか。


 別に頭の中に誰かがいても気持ち悪いだけだからいいけども、理由は気になるよな。


 オレを転生させたやつに聞いてみる……っていうのは無理だろうしな。


 どこにいるかもわからなければ、誰なのかもわからない。どうしようもない。


『取り敢えずその転生者について教えてくれ。興味がある』


 一気に興味が出てきた。さっきまでがゼロだとしたら、今は百。『転生者』というワードはそれほど衝撃的だった。


『ごめんね、わたしもそんなに詳しくは知らないんだ……同じ学校ってわけじゃないし』


『そうなのか、すまん……』


 ま、そりゃあそうだな。同じ学校でもなければ、芸能人というわけでもない。知ってる方がおかしい。


『あ、でも……全く知らないってわけじゃないんだ』


『へぇ……じゃあ、何を知ってるんだ?』


 知ってることは全部聞いておきたい。


『大漉さんの友達のことだよ。こちらもあまり情報がないから詳しくは話せないんだけどね』


『別にいいよ』


『なら、よかった。えっとね……その人は早桐阿那(さぎりあな)さんっていうの』


 早桐阿那……うーん、聞いたことねぇ。


『早桐さんはね、すごい運動が得意らしいよ。色々なスポーツの大会に出場して優勝してるらしい』


 絵が得意な大漉と運動が得意な早桐か。どちらも得意なことがあっていいな。


 オレは絵も運動も人並みだからな。下手ではないとはいえ、上手いとも言えない。


『情報がないって言ったが、それはどうしてだ? 人気者じゃないのか? 絵が得意というだけで人気者になれるのなら、運動が得意な早桐も人気者になれるはずだろ』


『大漉さんは絵が得意だから人気者になったわけじゃないみたいだよ。あと、早桐さんは必要以上に人と関わらない。だから、情報が入ってこないのは仕方ないんだよ』


 必要以上に人と関わりたがらないのか。人間嫌いなのかもしれないな。


 オレも昔は人間嫌い……いや、自分以外の全ての生物が嫌いだった。孤児の頃だ。


 信じても裏切られるだけ。それなら、最初から信じない。ずっとそう思っていた。


 その考えを変えてくれたのがセリカ……いや芹花なのだ。本当に今でも感謝している。


『わかった、今日は色々と教えてくれてありがとな。もうすぐ両親が帰ってくるんだ。そろそろ話は終わりにしよう』


『うん、またね』


 会話が終わった。よし、今から居間に行きます。うん、くそつまらん。


「おっし」


 テレビでもつけよっかなー。


 そう思い、台所近くに落ちていたリモコンを拾ったところでインターホンが鳴る。


『開けてくれー』


 父さんの声だ。帰ってきたか。


 開けると、パンパンに食材が入ったレジ袋を三つも持つ両親の姿があった。


 スーパーに寄ってから帰ってきたのか。なら、いつもより少し遅いのも納得だ。


 大変だったのだろう。二人とも、汗が滝のように流れて、髪の毛や服がビッショリと濡れてしまっている。


 オレは急いで洗面所まで行ってタオルを取ってくる。当然二人分だ。


 それを手渡すと、両親の顔がパアッと明るくなる。


「侑史! お前は本当によくできた息子だなぁ!」


「そうね、本当に助かるわぁ」


 そんな神様を見るかのような目をするのはやめてくれ。気恥しいにも程がある。


 疲れているようなので、レジ袋の中身はオレが冷蔵庫に入れた。二人は食卓に座らせている。


「えっと……夕飯はどうするんだ? そんだけ疲れていたら作れないだろう?」


「ああ、作れないな。だから、スーパーで買ってきたこれを食べる」


 おいおい。


「なんでカップ麺なんだよ。もっと他にいいものあっただろ」


 安く済むかもしれないが、夕飯っぽくはない。富豪というほどではないにしろ、それなりに金はあるんだからもっと贅沢してもいいんじゃないか?


「なぁ、母さんもなんか言っ……って母さんもカップ麺なのかよ……」


 うーん……


 頭を思わず抱えてしまう。この両親、大丈夫だろうか。


 ……ま、そんな両親が好きでもあるんだけどな。前世の両親はオレを捨てたから嫌いだったが。


 この両親は何があってもオレのことを捨てないだろう。十六年も一緒に暮らしてきたのだからそれぐらいわかる。


「あ、二人とも侑奈に会わなかったか? まだあいつ帰ってきてないんだけど」


「え? まだ帰ってきてないのか? てっきり上にいると思ってたんだが」


 うちは三階建てで、その二階に侑奈の部屋がある。前はよくそこに篭って何かしていたんだけど。


 飽きたのか、友達と遊ぶ方が楽しいと思うようになったのか……話してくれないからわかんねぇんだよな。


「上にはいないよ。友達と遊んでるんだと思う」


「そうか、じゃあ、迎えに行かんとな。侑史、自転車借りるぞ」


「車じゃないの?」


「車を使うほどじゃないだろ。それに、侑奈は自転車で友達の家に行ってるんだろう?」


 なんだよ、侑奈が自転車に乗って友達の家に遊びに行ったこと知ってるんじゃねぇか。からかったな?


「行ってらっしゃい、早く連れ帰ってきてくれよ?最近通り魔が出てるらしいから」


 通り魔のターゲットは女子高生らしいから大丈夫だとは思うが……まあ、一応ね。


「わかったよー」


 本当に大丈夫なんだろうか。心配になる。


 いい両親なんだが、頼りがいがなさすぎるところだけは問題だと思うわ。


 自転車に乗って駆けていく父を見送りながら、オレは溜息をついた。


「……もう寝よ」


 明日こそは、妹に携帯をちゃんと見るように言おう。大切だから、セリカみたいに死んでほしくない。


 いつも、決めてもすぐに忘れちゃうからな。メモしておかないと。






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