表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/11

5話 一人で家事

 ……ふぁ。


 靴を玄関に置いたオレは、ゆっくりと居間まで歩いていく。居間にはソファがある。疲れたのでそこでちょっと休む。


 クルリと回転して背中からダイブ!


 顔面から行くのもいいんだけど、なんか普通に息苦しいからね。何が何でも寝たいという時以外は仰向けだ。


 しばらくの間はパタパタと足を揺らしていた。時間にはめちゃくちゃ余裕があったからね。


 でも、ずっと寝ているわけにもいかない。一時間が経つと、オレは立ち上がって何をするか考え始める。


 風呂掃除、洗濯物、トイレ掃除、部屋の片付け、そして夕食の用意……たくさんあるな。


 まあ、でも両親が帰って来る頃には終わるだろう。


 まずは風呂掃除、と思い風呂場に向かおうとする。だが、その途中で大事なことを思い出した。


「侑奈」


 侑奈というのはオレの妹の名前だ。めちゃくちゃかわいい。もちろん、芹花の次にだが。


 前世は弟も妹もいなかった。だから、生まれたばかりの頃は色々と苦労したものだよ。


 これが弟だったらもう少し上手くやれてたんじゃないかと思う。侑奈は妹だからな。性別が違うということもあって、何をして遊びたいのか全くわからなかった。


 女の子はおままごとを好むものだと調べて知ったからしてあげようとしたら、手をはねのけられたし。


 今思えば、妹はどこから普通の女の子とは違ったのかもしれない。お人形遊びとかもしたがらなかったし。


 ちなみに妹は今のオレにとっては芹花の次に大事な存在。そんな存在のことを忙しいからといって、少しでも忘れてしまうとは……オレって本当にダメだ……


「あいつは、多分今日も遅くなるんだろうな」


 最近は友達と遊ぶとか言って中々帰ってこないんだよ。顔を合わせる機会も減ってしまった。寂しいよ。


 あ? なんでメールとか電話とかしないのかって? して意味があるならしてるよ。しても出ねぇんだよ。


 兄ちゃんが嫌いだから出たがらないとかじゃなくて単純に携帯を見ないんだろう。妹はあまり電子機器を好まないから。イマドキじゃ相当珍しいと思う。最近じゃどこの子供も携帯とかしょっちゅう弄ってるし。


 携帯をきちんと見る癖、つけさせないとな。


 そう思いながら、オレは風呂場へ向かった。とっとと洗ってしまおう。


 うちの風呂場は少し大きめだ。全部洗うとなるとまあまあ時間がかかるので、普段は浴槽だけを洗ってる。


 浴槽だけならそんな大きくないからな。五分ほどで終わる。楽ちんだ。


 オレは風呂掃除を済ませると、近くのトイレへと向かう。トイレ掃除をするのだ。道具などはきちんとトイレ内に用意されているので、何か取りに行ったりする必要はない。


 不思議に思われるかもしれないが、トイレ掃除に関しては割とガッツリやるタイプだ。あ、理由は特にない。


 そういえば、トイレ掃除には順番があるらしい。まずはトイレ本体、その次に壁、最後に床だ。この順番を守らないと雑菌が広がっちゃうかもしれないんだよね。


 オレはその順番をきちんと守り、トイレ内をきちんと掃除する。ピッカピカになったよ。


「後は……洗濯物と部屋の片付けと夕食の準備だな。頑張ろう」


 まずは洗濯物だ。これは簡単。昨日はあんまり洗濯物が出なかったから、取りこむのもたたむのもすぐ終わる。


 パパっと済ませると、部屋の片付けを始めた。これもそんなに難しくないな。一昨日、掃除したばかりだからそんなに散らかっていないのだ。


「あ……本とか結構広げちゃってたんだった」


 ベットの端に置きっぱなしになっていたのに気づいた。さっきは簡単だと思ったけど、前言撤回だ。これを片付けるのはめちゃくちゃ難しい。相当難しい。


 うちは本好きが多い家庭なので本棚は既に本でいっぱいなのだ。上手く入れないと他の本が落ちてくるから、入れ方はめちゃくちゃ気をつける必要がある。


「大変だ……」


 本棚に本を入れ終わると、夕食の準備をするために居間に戻った。まだ部屋は完璧に片付いてないが、なんかめんどくさくなってしまったので後回しにする。


 夕食は簡素な物でいいだろう。前世で芹花から料理について教えてもらったことがあるのだが、一人だけで作ったことは一度もない。しかも、教えてもらってから何年も経っている。体が覚えてないかもしれない。


「ま、無難にオムレツだな」


 オムレツならあまり材料が多くないから簡単に作れるだろう。えっと、確か卵、塩、胡椒、バターだったな。


 うーん、なんか心配になってきた。分量とかはちゃんと調べたから知ってるけど……


 そんなふうに唸っていると、突然テレビの電源がつく。どうやら、地面に落ちているリモコンを踏んでしまったようだ。


 折角だから、テレビを観ながら作るか。


『最近、女子高生が通り魔に狙われる事件が多発しているそうですが、田中さんはどう思います?』


『犯人の目的が気になりますね。なんで女子高生ばかりを狙ってくるのか……』


 かき混ぜた卵をフライパンに流しこむところで、テレビの中のそんな会話が聞こえてくる。


 女子高生……通り魔?


 ちょっと待て……芹花も誰かに狙われてるって言ってたな。もしかして通り魔と芹花を狙うやつは同じなのか?


 だとしたら、まずい。テレビでは『多発している』と言っていた。被害者は芹花だけじゃないのだ。そしてテロップを見る限り、被害にあった女子高生たちは未だに行方不明らしい。悠長にはしていられない。


 芹花が行方不明になんてなったら、オレは一生分の涙を流してしまうだろう。


 早く、知らせてやらねば……


 直接家に行くことも考えたが、もう夜だから迷惑だろう。メールの方がいい。


 そう思い、立ったところで……


「アチャー!?」


 フライパンの中身をちょっとだけ足にこぼしてしまう。


 ヤバい……服がベチョベチョだ。材料も無駄になっちゃったし……最悪だ。料理する時はちゃんと集中しないとな。


 さすがにこのまま芹花にメールしにいくわけにはいかない。失敗は確定してしまったが、最後まで作らないと。


 オレはフライパンに向き直り、料理を再開する。


 ……それから五分も経たないうちに、一応その料理は完成した。


「……できた、よね? これはできたと思っていいよね?」


 黄色いドロドロの物体を見て、オレは自信なさげに呟く。


 こんなはずじゃなかったんだ……前にやった時はもっと上手く作れたんだ……


 って誰に言い訳してるんだオレは……


 オレは黄色いドロドロの物体を急いで皿に盛りつけ、机に持っていく。


 うう……何度見てもオムレツには見えない。


 その到底オムレツには見えないような物体を泣きながら、バクバクと口に運ぶ。


 料理って辛いな。そんなことを思いながら。


 ……今度、また教えてもらお。芹花のことだし、転生しても料理の腕は衰えていないだろう。


 皿が空っぽになると、オレはそれを食洗機に放りこむ。スポンジで洗った方が汚れは取れるが、今はそんな洗い方をする余裕はない。芹花が大変な目にあうかもしれないんだ。


「……っ」


 居間だと親や妹が帰ってくるかもしれないので、部屋に行ってからメールするつもりだ。


 部屋のドアを開けて、ベッドまでジャンプする。そこまで僅か三秒ほど。前は五秒だったので記録更新だ。


 オレは芹花のことを考えながら、携帯をポチポチと操作する。慣れているのでまあまあ早い。


 メールアプリを開いて、事前に考えておいた文章をそこに打ちこんでいく。


『芹花、女子高生ばかりを狙う通り魔がいるらしい。もしかしたら、お前のことを狙ってるやつと同じかもしれない。危険だから今日はあまり外に出ないようにな』


 送信すると、五秒ほどで返信が来る。


『大丈夫だよ!侑史くんは心配性だなぁ笑』


 予想通りの芹花らしい文章だ。とても良い。


 顔文字やら絵文字やらの文章はちょっと読みにくいんだよ。そういう文章を否定するわけじゃないが、オレに送ってくる時は芹花のような文章にしてもらえると助かる。


『そういえば、これ知ってる?』


 なんか芹花から送られてきた。人物の写真だ。女の子だな。


『誰?』


『え、もしかして知らない?』


 これは……もしかして知らないとヤバいレベルの有名人だったりするのか!?


 テレビやヨォチューブは人並みに観てるつもりなんだが……勉強不足だったかもしれないな。


『すまない……誰なのか全くわからん。そんなに有名人ってことは女優さんとかか?』


『えー、全然違うよ。そもそも芸能人じゃないもん』


 え、芸能人じゃない?


『芸能人じゃないってどういうことだよ……もしかしてヨォチューブとかティッカトッカで人気な人?』


『そういうのでもないよ。侑史くんってあまり新入生に興味ないんだね』


『新入生?』


『そう、昴星高校の新入生だよ。なんか絵が上手いらしくて小さい頃からたくさん賞を取ってるすごい人らしいよ』


『へー、そうなんだ』


 ……正直言いますね、全く興味がないです。全然……これっぽっちも興味がわかない。


 オレはベッドの上に置きっぱなしにしていたカカコーラを口に流しこみながら、メールアプリを閉じようとする。


 芸能人だったら少しはわいたかもしれないけどさぁ。ただたくさん賞を取ってるだけの人って……


『あー、興味ないって顔してるね?』


『……ごめん』


『謝らなくていいって。わたしが詳しく言わなかったのが悪いんだから』


 なんか説明してくれるようだ。別に興味ないんだけど……


『その人の名前は大漉香里奈(おおすきかりな)


『そうなんだ』


 あんまり聞かない名字ではあるな。ま、どうでもいいんだけどさ。


『その大漉さんはね。わたしたちと同じ、転生者だよ』


 へー……そうなんだ。転生者……ん、転生者? テンセイシャってなんだろう。


 ……って転生者!?


 ベッドから転げ落ちてしまった。頭が痛い。


面白いと感じたらブックマーク&評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ