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4話 再会の元聖女

「……本当に久しぶりだよね、ちゃんと覚えてる?」


 あ……あ……言葉が出なかった。


 驚きがあまりに強すぎた。『絶句』という言葉はこういう時のためにあるのだろう。


 信じられない、こんな場所に芹花がいるなんて……も、もう諦めていたというのに……


「おーい、聞こえてるー。魂抜けてないー?」


「あ、ああ……大丈夫だ」


「緊張してる……ま、久々に会ったからね」


 芹花は立ち上がると、オレに手を差し伸べる。驚いたせいてずっと地面に尻餅をついていたからな。


「あ、ありがとう」と一言だけ答えてから、オレはその手をできるだけ優しく取った。


 立ち上がると、芹花が「ずっと立っているのもなんだから」と言って椅子に座らせてくれる。


 なんだ……今から話をするつもりなのか?


「悪いが、今から何をするかだけ教えてくれないか」


「……お話。大事な、ね」


 大事な話……オレはよく天然だと言われるが、さすがにこれはわかるよ……これはね。うん。


 絶縁宣言だ。絶縁宣言しかないだろう。こんな場所までわざわざ連れこんで……


 なんかたまに苦笑いしてるし、オレのことが嫌いになってしまったんだろう。そうだよな……ごめんな。


 意気消沈しているオレに、芹花は不思議そうな顔で声をかけてくる。


「ん、なんでそんな落ちこんでるの?」


「気にしないでくれ……お話、聞くよ……」


「……まあ、いいや。じゃあ、話すね」


 ゴクリ、と息を飲む。何が「聞くよ」だ。オレは馬鹿かよ。


 ダメだ……まだ心の準備が全然できていない。今、絶縁宣言なんてされたら絶対に受け止めきれない。


 芹花、お願いだからもう少し待ってくれ……心の中でそう思うが、もちろん届かない。


 オレが手を伸ばして止めようとしたところで、遂に彼女は口を開いた。


 あぁ……もうダメだ。


「侑史くん、わたしともう一度付き合ってくれないかな?」


「絶縁宣言だけはもう少し待ってくれ!」


 ん、あれ、今なんて言った?


「「へ?」」


 オレと芹花の驚きの言葉が重なる。こんなこと、付き合っていた頃もそうそうなかったぞ。


「……」


「……」


 それから、無言の時間が三分ほど続いた。なんか、恥ずかしいからな。


 オレが頬を染めて俯いていると、芹花が「あはははは」と大笑いしながら話しかけてくる。


「あはは、わたしが侑史くんとの縁を切ろうとするわけないじゃん! 転生して姿かたちが変わっても、わたしは変わらずあなたのことが好きです。それは侑史くんも一緒でしょ?」


「……お」


「あれ、侑史くんはそうじゃなかった? じゃ、ごめんね」


「……い、いや、違う。オレもお前のことが変わらず大好きだよ。でも、驚いてすぐに反応できなくて」


 まさか、芹花がまだオレのことを好きでいてくれていたとは……とっくに嫌われていたと思っていた。


「侑史くんは相変わらず面白いなぁ」


「そうか、それは嬉しいな」


 笑ってる姿を久々に間近で見れた気がする。芹花の笑ってる姿はやはり綺麗だな。


「前世では侑史くんの方から告白してくれたでしょ? だから、転生後はわたしの方から告白するって決めてたの。ちょっと失敗しちゃったけどねー」


「オレのせいだな、ごめん」


「いやいやー、侑史くんが謝ることなんてないよ! 顔を上げて!」


 折角告白してくれたというのに、台無しにしてしまったんだ。謝るのが当然だと思うんだけどな。


「失敗なんてどうでもいいよ。こうして、また付き合うことができたんだからさ」


「そ、そうか」


 芹花がそう言うなら、いいんだけどさ……ちょっとスッキリしないな。


「……それにしても、なんでこんな場所で告白を? 他にも場所ぐらいあっただろ」


「ま、色々あってね」


 色々って……まあ、事情くらいあるよな。


「あ、それだけじゃない。お前、保健室に身代わり置いてったよな?」


「身代わりって面白い言い方だね」


「わかってると思うが、霧谷のことな?」


 芹花は首肯すると、窓の外を確認してから小さな声で事情の説明を始めた。


「実はわたし、誰かに狙われてるんだ。誰なのかはわからないんだけどね」


「狙われてる!?」


「シーッ! 大声出しちゃダメ! 今もいるかもしれないんだから」


 驚いて思わず教室中に響くぐらいの大声を出してしまった。反省しよう。


「ちなみに狙われてるのに気づいたのは二週間前ぐらい。登校してる時に背後から気配を感じてね。振り返ったら、誰かが逃げていくのが見えたんだ」


「どんな服を着ていたとかわかるか?」


 それがわかるだけで大分変わってくる。


「ちゃんと見えなかった。すぐに逃げられちゃったから」


「そっか……」


「でもね……犯人っぽい人がこんな物をわたしの近くに落としていったんだ」


 芹花の手に握られていたのは一枚の写真。その写真には一枚の女性向けファッション雑誌が写っていた。


 名前はフィオーレ。見たことも聞いたこともあるが、買ったことはない。


「これだけか?」


「うん……他に手がかりはない。一回わたしに気づかれてから警戒を強めたんだろうね」


「そうか……」


 女性向けファッション雑誌だからといって、女性が犯人とは限らない。これだけだと何もわからない。


 探偵とか警察とかなら何か掴めるかもしれないが、ただの一般人であるオレが証拠を見つけるのは難しい。


「ま、一度持って帰ってみるよ。何かわかったら知らせる」


「わかった。じゃあ……」


 じゃあ?


「連絡先、交換しよっか?」


「……!?」


 れ、連絡先の交換……神呂侑史、お前はなんて幸運なんだ。付き合ったその日に連絡先まで交換って。


 手を震わせながらも、オレは芹花と連絡先を交換した。


「夜、多分電話かけるかも。出られるようにしといてね。それじゃあ、またね!」


「おう! またな!」


 ……やべぇ。なんか今日一日ですごいこと起きすぎじゃないか。こんなにすごいことばかりでいいのか?


 明日オレ死んだりしない? 大丈夫だよね?


「ま、取り敢えず帰るかぁ……」


 早く帰って、芹花からの連絡が来るまでに食事とか風呂とか済ませておかないと。


 家まではどれくらいだったかな。初登校だから、どれくらいの時間がかかるかちゃんと記憶してない。


「全速力で大体五分ぐらいだった気がするな」


 今はもう午後の五時。LHRが終わったのが三時過ぎだから、あれから二時間は経ってることになる。


 五分で帰ったとしたら、五時五分に着けるな。両親が帰ってくるのは七時なので全然問題ない。


 両親が帰ってくるまでに家事全部終わらせておこう。驚かせてみたいからな。


 ……それにしても、そんなに時間が経ってるとは思わなかったな。てっきり、四時前ぐらいかと。


 校内には多分生徒は残っていないだろうな。先生に見つかったら何か言われるかもしれないし、早く出ねば。


「今日の夜と明日が楽しみだ」



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