2話 入学式とLHR
サブタイトルを『入学式とLHR』に変更しました。
地球の中のとある小さな島国、日本でユージ・カミーロは神呂侑史として誕生した。前世の記憶を持ったまま。
あ、でも、誰に転生させられたのかは覚えていない。誰かと話して転生することになった気がするのだが……それが誰なのか、オレに何をしたのかあんまり覚えていない。
まあ、でも誰かと何か話したのは確かなんだよな。内容は少しだけ覚えているし。
セリカが地球にいるということ、セリカの葬式の場にいた奴らが全員無事だということ、あと避けなければいけない人物がいるということだ。避けなければいけない人物とやらがいるのは覚えているが、それが誰なのかは覚えていない。
前世の記憶がなければ、こういった記憶はあっても意味なかったからな。誰なのかは覚えてないが、記憶を残したままにしてくれたことには感謝したい。
ちなみに転生してから実に十六年が経ったが、未だに転生後のセリカとは会えていない。ま、外見も変わっているだろうから、見逃している可能性はあるが。
愛する人物に会えないというのは悲しいものだ。
「はぁ……そんなこんなでもう高校の入学式だよ」
早いもんだなぁ……オレの世界にも学校というものはあったが、孤児だったので行ったことはない。
中流家庭に生まれられてよかったよ。今のところ学業で困ったことは一度もない。
もちろん、家庭でも困ったことはないさ。両親はとても良い人で、大事に大事にオレのことを育ててくれた。
オレが何かやりたいことがあると言ったら、それを応援してくれるし、そのために必要なものを揃えてくれる。
学校だって、オレが行きたかった場所に行かせてくれたんだ。本当にありがとう。
「よし」
入学式には両親が買ってくれた自転車に乗って通学するつもりだ。
通学鞄をカゴに入れると、オレは自転車に跨る。ペダルに足をかける前に、家の中の両親に向かって挨拶をする。
「行ってきます」
高校生としての生活が始まる。何故か、小学校や中学校の入学式よりもドキドキするな。
セリカがいることを望む。あいつがいるだけで、オレの世界は更に輝くと思う。偶然、同じ高校に通っているなんて可能性はめちゃくちゃ低いだろうけど。
ま、いなくても通うつもりではある。いてくれたらいいな、レベルの話だ。
「本当に、いてくれないかな?」
そう思っていると、オレの横を誰かが通り抜ける。とてつもない速さだ。
誰だ。なんか見たことあるような背中……あんな奴見たことあるかな? 小学校や中学校の時の同級生か?
わっかんねぇ……気のせいか。
「ってボーッとしてる場合じゃねぇ! 早く行かないと入学式遅刻しちまう!」
入学式は午後の一時から。今はもう十二時五十分。恥をかかないためにも急がないとな。
※※※※※
何とか入学式には間に合った。他の生徒は既に集まっていたので、オレが最後だが。
小学校や中学校の時の友達や知り合いは全くいない。みんな違う高校を受験したのか。悲しいな。
「おい……あいつ……だよな」
「おう……っぱすげー……」
静かに待っていると、後方で何かボソボソと呟いている二人組の声が届いてくる。
なんだ……なんの話をしてるんだ……?
その二人の視線の先を見たが、誰もいない。どうやら、タイミング悪く視界から消えてしまったようだ。
誰か凄い人がいたのなら見たかったな。
「んー……」
ま、いいか。そんな凄い生徒なら入場した時に気づくかもしれないしな。別にいい。
取り敢えず暇だから体育館の声を聞くか。多分、今頃校長が話してるぞ。
「えー……開式の辞。これより令和二年度、昴星高等学校の入学式を始めます」
案の定だ。校長の声が聞こえる。体験入学の時に一度声を聞いているから間違いない。結構大きい声だから少し離れていてもよく聞こえるんだよな。
あと、見た目は冴えないおっさんなのに、めちゃくちゃいい声をしてるんだよ。面白い。
五分後、体育館のドアが開かれる。入場の時間だ。
オレたちは綺麗に縦に並んで体育館へと入っていく。小学校や中学校の時もやったはずなのに緊張感が凄い。
二年や三年の生徒の間をすり抜けて、体育館前方に用意された木製の椅子に腰を下ろす。
「国歌斉唱」
起立した後、生徒全員で国歌を歌った。正直面倒くさかった。歌は苦手なのだ。聴くだけなら好きだけど。
その後も色々なことがあったのだが、退屈すぎて眠りそうになってしまった。酷いな。
来賓紹介とか興味ねぇよ。どうせ、知らない奴らだし。
「はぁ……」
バレないと思って眠ろうとする。他にもちらほら眠ってる奴いるしな。
「んーんんー……あ!?」
気づかれないように小さく欠伸をした瞬間に、驚きの人物が目に入った。
な、なんであいつが……
オレは壁に貼ってある今回の入学式のプログラムを見る。えっと……今は、新入生代表挨拶……
っていうことは……あいつが新入生代表、なのか!?
「……で……ました……です」
壇上に立って、しっかりと挨拶をしている。聞きたかったが、驚きで内容が全く頭に入ってこなかった。
許してくれ。こんなところにいるとは思わなかったんだ。
「逢坂芹花さん、ありがとうございました」
名前を聞いて、疑念は確信に変わった。間違いない。あそこにいるのはセリカだ。
今は逢坂芹香という名前なのか。オレと同じで転生前の名残があるな。なんかいいわ。
オレの視線はそれからずっとセリカ……いや芹花に釘付けだった。転生しても本当に美人だ。
でも、元が金髪だったからか黒髪の姿に違和感がある。別に美しさもかわいさも損なわれてはいないが。
そこからもなんか色々とあったのだが、全部記憶になかった。芹花のことを考えていたからだ。
いるなんて思わなかったわ……本当に。
入学式が終わっていざ退場するという時になっても、オレは芹花のことを考え続けていた。
「……おーい、しっかりしろー」
そのせいで、隣の知らない奴に肩を叩かれる。誰だ、お前。
「もう退場するから早く立て!お前以外はもう移動してるぞ!」
「お、おう、そうか」
残った生徒の視線がオレに異常なほど集まっている。恥ずかしいので、そそくさと退散する。
体育館を出ると、他の新入生たちの姿が見えた。遅れたことを謝罪してからオレもその中に混ざる。
小学校や中学校と同じで教室に向かうようだな。
芹花は同じクラスかな?同じクラスだといいな。
教室に入ると、担任の先生によるLHRが始まった。まずは事前に渡されていた提出物の提出だ。問題ない。ちゃんと持ってきている。
オレは自分の番が回ってくるまで、芹花のことを捜していた。もちろん、他の生徒に不審に思われないように。
隣の席以外は全て確認した。もしかして、違うクラスなのか?それは凄い残念だな。
オレは落ちこみながら、自分の分の提出物を渡す。
「よし、逢坂以外はちゃんと出したな。じゃ、次は自己紹介だ。お前ら、準備はできてるか?」
お、逢坂……? 逢坂って確か、芹花の苗字じゃ……?
ということは……オレは芹花と同じクラス……!やった!めちゃくちゃ嬉しい……
嬉しすぎて心が踊る。申し訳ないが、他の生徒の自己紹介なんて全く聞いていなかった。
てか、芹花以外の奴に興味はない。あいつがいないなら別に聞かなくてもいいだろ。
「神呂!」
「ん……あ、はい」
呼ばれてた。気づかなかったな。
「えーっと……神呂侑史です。よろしく」
ちなみに好きな人は逢坂芹花です。心の中でそう付け足しておく。
歓声もわかないし、拍手もまばら。そら、こんなつまんない自己紹介したらそうなるわな。
ああ、……早く終わってくれないかなぁ。芹花のことを迎えに行きたいんだけど……
オレは天井のシミを数えながら、ため息をついた。
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