1話 謎の空間と女神
.....ここはどこだ。
目覚めると、オレは知らない場所にいた。キラキラとした何かが漂っているだけの広大な空間。今まで見たことも聞いたこともないような空間だ。
一度、そのキラキラとした何かの正体を確かめようとしたのだが、どれだけ手を伸ばしてもつかむことができなかった。
幻覚なのかもしれない。そう思って目をこすってみたりもした。だが、それは一向に消えなかった。それどころか、時には増えたりしている。
「うわっ、一つ爆発した」
あまりに突然なので驚いてしまった。
なんなんだ、これは......しばらく見てみたが、全然何なのかわからない。
「それは星です」
「おおうっ、だ、だ、誰!?」
爆発が起こった時よりはるかに驚いた。まさか人がいるとは......
「えっと......誰だあんた。そしてここはどこなんだ」
よくわからないが、こいつはここについて詳しく知っているような気がする。まあ、気がするだけなんだが。
「私はあなた方人族が女神と呼ぶ存在です。そしてここは疑似宇宙空間ですね」
「女神......? 疑似宇宙空間? 何を言っているのかさっぱりわからないな」
「わからなくても構いません。ここでの会話内容は後にほとんど忘れてもらうことになるので」
女神とやらは顔色も声音も一切変えず、そう告げた。
「疑問が次々と湧いてくる......なんなんだ本当に。オレはどうなっちまったんだよ......」
オレは確か、背後から毒矢を放たれて殺されたはず......ということはここは天国というやつか? でも、昔話でよく聞いた感じとは全然違う。
「疑問が浮かぶのも当然ですね。あなたは突然何の説明もなくこのような場所に転移させられたのですから......あ、ちなみに転移させたのは意識だけですよ?」
意識だけ......?ということはつまり......
「肉体は別の場所にあると?」
「はい、そうなりますね。あ、先に言っておきますが、それを知ったところで元の体に戻ることはできません」
「は!? なんでだよ!?」
「こちらにも色々と事情があるのです。理解してください。代わりに物凄く良い情報を与えます。先ほど、ここでの会話の記憶は消すと言いましたが、今から話す情報は頭に残してあげましょう。もちろん、前世の記憶がなかったら覚えていても仕方ないですからね。前世の記憶も残してあげます」
物凄く良い情報、ねぇ......
まぁ、いいや。聞くとしよう。もしかしたら、セリカがどうなったのか分かるかもしれないし。仮にも神を名乗る者。それぐらいは知ってるよな?
教えてもらえるんじゃないかと思ったら少しテンション上がってきた。
「あなたが欲しい情報というのはお葬式の場にいた方々の安否と聖女の魂の行方でしょう? どちらもきちんとお教えしますから、落ち着いてください」
テンション上がってたのバレてる......
「一つ目。お葬式の場にいた方々のことですが......安心してください。誰一人亡くなってはおりません」
「ほ、本当に?」
「本当です。女神は基本的に嘘をつきません」
よ、よかった......あいつら、みんな無事だったか。
ホッとした。めちゃくちゃホッとした。もちろんセリカも大事だが、あいつらも同じくらい大事なんだ。
「ホッとしていただけたようでよかったです。では、二つ目。聖女のことですね?」
「ああ、頼む」
「聖女の魂はあなたたちの世界とは別の世界、地球にあります。誰から生まれてどういう名前の人間になったのかはわかりませんが」
「地球......? そんな世界があるのか?」
「ありますね。そしてあなたにはその世界に行く権利があります」
「な、なんだと......!?」
ということは......もう一度、セリカに会えるというのか!
オレは女神に詰め寄る。
「じゃ、じゃあ、オレの魂もセリカと同様にその地球とかいう世界に......」
「待ってください。説明はまだまだあります」
女神は手を前に突き出してオレのことを制止する。
「じゃあ、とっとと説明してくれ」
「はい、では話します。まず、聖女を地球に転生させたのは私ではありません。別の女神です」
別の女神......こんなやつが他にもたくさんいるというのか。
「それはどこのどいつだ。連れてこい」
「......すみません、不可能です。彼女は今、消息が不明ですから」
「消息が......不明?」
「彼女は私とは真逆の性格の女神。何か良からぬことをしようと考えている可能性が高いです」
そう話す女神の顔はどこか悲しげだった。今までずっと無表情だったから驚きだ。
「で、そいつを捕まえれば転生させてくれるのか?」
「いえ、あなた方人間にそんなことさせられません。これは私たち女神の問題です。私たちだけで解決します」
「それじゃ、結局オレはどうすればいいわけ?」
あいつが別の世界で新しい人間として生活してることがわかったってのにこんな場所でじっとしてるなんて嫌だ。
「地球には聖女もいますが、その女神もいる可能性が高いです。近づかないように」
外見の具体的な特徴に関しては話してくれないか……
「わかった。避ければいいんだな?」
「はい、その女神に関しては私たちの方で捕まえる方法を探します。あなたは聖女を捜す方に集中してください。女神は見つけても無視すること。これがお願いしたいことですよ」
「あ、そういえば、転生したらここでの会話内容はほとんど忘れちゃうんじゃないのか?」
忘れちゃったら避けようがない。
「ああ、確かに女神に関する記憶もほとんど抹消することにはなっています。でも、避けなければいけない人物に関しては近づけばわかるようにします」
「おう」
「転生後にも持っているものに関して一度まとめておきます。まず、ここで話したことの一部の記憶、次に前世の記憶、最後に避けられない人物がいるという感覚です」
それで十分だ。別にここでの出来事をどうしても覚えておきたいわけではない。
「理解したよ。ありがとう」
「あ、言い忘れました。最後に一つだけ助言をさせていただきます。聖女は地球にいる限り、危険な目に遭い続ける可能性が高いです。彼女のことはあなたが救ってあげてください」
あいつが危険な目に……!?それは大変だな。
こんなところにずっといるわけにはいかない。
「今の助言もきちんと頭に残るようにしますのでご安心……」
「……もういい、転生させてくれ」
「はい、時間を取らせて申し訳ございませんでした。間もなく転生させるための魔法陣を発生させます。その場で静かに立ってお待ちください」
女神は手を大きく広げて理解のできない謎の呪文を唱え始めた。唱えることおよそ五分。足元に直径十メートルほどの魔法陣が出現する。まあまあデカイな。
オレの元いた世界では人一人のためにここまで大きい魔法陣を使うことはなかったな。転生させるための魔法というのは、やはり普通の魔法とは違うんだな。
「ここに立っていればいいのか?」
「はい、あと十秒ほどですね」
光がオレの体をどんどんと包んでいく。不思議な感覚だ。
遂に……転生するのか。セリカ……あいつがいる世界に。
……待っていてくれよ、セリカ。次こそは絶対に……絶対にお前のことを助けてみせるから。
「そろそろですね………それでは、ユージ・カミーロさん……いえ、違いました。神呂侑史さん、よい人生を」
女神のその言葉と共に、オレの体は完全に光の粒となって虚空に消えていった。
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