魔物学者は、少女と共に素っ裸になる。
「ふふ、服を!? 何で!?」
エンリィが慌てた様子を見せるのに、ルアドは淡々と事情を説明した。
「胞子がついてたら、洗い流さないと苗床になるじゃない。まとめて袋に入れて水に晒すんだよ。体もね。あ、下流の方にはホラフキ貝がいるから、中に入る時はあまり下の方にいかないように気をつけてねー」
言いながら、自分はさっさと服を脱ぎ始めると。
「待って待って待って!! まさかあなたも全裸になる気!?」
「そうだけど」
「体を洗うだけなら順番で良いでしょ!? 後ろ向いとくから終わったら声かけて!!」
「効率悪いじゃない。それに一辺にやらないと意味がないよ」
目的は胞子を残さない事なのである。
マタンゴの胞子は、大量の水に沈めると寄生することが不可能になり、その効果は乾いても二度と戻らない。
煮ると食べれるのはその現象のおかげで、おそらくは適性が風の属性に寄っているからだ。
自然の状態ではマタンゴの傘がカラカラに乾いて硬いのも、水気を極端に嫌うからなのである。
他には焼くという方法もあるが、周りの空間程度ならともかく、さすがに人間や服をその方法で、胞子が死滅するほど焼くと普通に死ぬ。
「川に浸かるだけでもいいけど、多分二時間は待たないと無力化されないよ? 風邪ひいちゃわない?」
「ふ、服も洗えばいいじゃない!」
「体は寄生されてなければ表面だけでいいけど、服は隙間に入ってると中々抜けないからねー。万一残ってたら、塩害以上に早く村が全滅することになるよ。いいの?」
「……!!」
水を被る程度では、服の胞子は抜けないのだ。
耐性の魔法は一日程度で効果が切れるし、多少の水分だと、人や動物を苗床にしている時同様に排出されてしまって意味がない。
魔法は便利だが、万能ではないのだ。
自然と生態を利用するのが、一番手っ取り早いのである。
「う、うぅ〜!!」
「裸が気になるなら、しばらく換えの服でも着ておきなよ。一応ボクの荷物の中に二着あるからさ」
言いながら、さっさと服を全部脱いだルアドは、自分の荷物袋を持ったまま腰の深さの川に入って、体を洗い流した。
寒いなぁ、と思いつつ上がり、荷物袋の中身を探る。
自分の荷物袋は、遮断の魔法陣を縫い込んだ魔導布なので、雨だけではなくありとあらゆるものを通さない。
裏地には魔導空間形成の魔法陣を縫い込んでいるが、そこまで大量に放り込めるほどの空間は形成しておらず、中身は野営用の調理器具や服、その他細々としたものだけである。
中から大袋と長い紐を取り出したルアドは、大袋の中にさっさと服を放り込むと、真っ赤になって目を覆っているエンリィに声を掛けた。
「ああ、換えの服を出せるのは、そこに転がってる連中を含んだ全員を洗い流した後だからね?」
冒険者たちは目覚める気配がなく、体表も乾いたままだ。
今から川に漬けるので、ついでに水を飲ませて、さらに治癒薬でも飲ませれば生還はすると思われるが。
「どうするの? 脱がないなら、村には連れて帰れないよ? 服着たまま浸かって、風邪ひきたいなら止めないけど」
「〜〜〜!! 分かったわよ! 脱げばいいんでしょ!? さ、最初に言っときなさいよぉ!!」
ルアドの問いかけに、エンリィは泣きそうな顔で、観念したように服を脱ぎ出した。
そしてクーちゃんで体の前を覆いながら、服を投げつけてくる。
「あ、あんまりこっち見ないでよ!?」
「早く川で体を洗ってねー」
エンリィの褐色肌はきめ細やかで、スレンダーな肢体を持っているが、それを眺め回す趣味は言われなくてもない。
ルアドは、彼女が体を洗う間に、冒険者たちを縛り上げて、それぞれにポーションと水を飲ませ、溺れないように川に漬けた。
こいつらが風邪をひいたところでどうでもいいので、二時間漬けっぱなしにしておく予定である。
起きて寒がるかも知れないが、知ったことでもなかった。
ルアドは、大袋にまとめた二人分の服と、元々持っていた荷物袋を再度川に持って行って、エンリィにも肩まで浸かるように指示する。
「今から空間ごと焼くからねー。そしたら服を着て、焚き火の準備して、二時間待機だ」
「もう説明はいいから、早くしてぇ!!」
「はいはい」
ルアドは、【賢者の記録書】を開くと、今まで自分たちがいた河原を中心とした範囲を結界で包み、中を弱めの火の魔法で少し長めに焼いた。