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魔物学者、村の前で魔物に襲われる少女を助ける。


 強力な魔物が住む【魔の領域】を抜けて。


 ルアドは、草原にあった大きな石の影で仮眠を取った。

 そして日の高くなった頃合いに起き出して、あくびをしながら頭を掻く。


「さて、と。これから、どうしようかなー?」


 この辺りは、元々住んでいた街に帰るにも少し遠い。


 戻らずにそのまま魔物探しの旅に出てもいいのだが、一度どこかに寄って装備くらいは整えたかった。


 最低限の荷物と武装以外に、今は食料の持ち合わせもほとんどない。

 お金があっても、物を売っている場所に行かなければ、そもそも買えないのである。


「よし。まずは、どこかの村とか街を探そうかな」


 モノクルを指先で押し上げながら、ルアドは一人うなずいた。

 少なくとも、食料と水は生きる上で必須である。


 そうしてしばらく歩いて行くと、川を見つけた。


「飲めるかなー?」


 少し観察すると、見た目には問題ないように感じる。

 そこで、水草の陰から音が聞こえた。


 耳を澄ませると、オォイ、オォイ、と人間の男が誰かを呼んでいるような、あるいは大型の動物が鳴いているような音が響いて来る。


「あ、ホラフキ貝が住んでるのか。てことは、飲めるね」


 ーーー【ホラフキ貝】。


 人や動物が飲めるような清浄な水に住む、肉食の貝型魔物だ。

 魚の他に、近くにいる哺乳類や人を捕食することもある。


 様々な、助けを求める呻きに似た音を『ホラ吹きの魔法』で立てて、近づいてきた獲物が水辺に来たり川に落ちたりすると、襲いかかるのだ。


 その生態から、逆説的に水の安全性が分かる。


「助かるなぁ。あ、近づかないから食べないでねー」


 ホラフキ貝は、あまり水草の陰から動かないので、離れた位置にいれば食われる心配はない。

 少し上流に向かったルアドは、魔物などが隠れる場所の少ない河原で顔を洗い、水面に映った自分の顔を見る。


 モノクルを外した、相変わらずの白髪と青い目を持つ線の細い、いつもの顔だ。

 寝グセがついていたので、水で濡らして整えておく。


 そして革袋に水を()んで、飲む分を確保した。


「お腹は少し空いたけど……どうしても必要な場面以外で、あまり魔物食はしたくないなー」


 その前に、人の住む場所に着きたい。


 別に魔物が不味マズいと言うわけではなく、単に研究以外の理由で魔物を殺したり近づいたりしたくないのである。


 荒事は、魔物相手でも趣味じゃないからだ。


 普通の動物を狩る手もあるにはあるが、ルアドは魔物ほど野生の動物について詳しくないので、魔物を狩る方が早い。


 ルアドは、とりあえずお腹が空き過ぎて困ったことになる前に、と歩き出した。


 そして、水を得て草原地帯を歩くこと、半日ほど。


 途中で見つけた、人が作ったと思われる小道に沿って進むと、踏み固められた道が広くなるにつれて、周りの様子がおかしくなって行った。


「……なんでこんなに、草が枯れてるんだろう?」


 不思議に思う間に、どんどん草が枯れている比重が大きくなっていき、しまいにはほとんど全く草が生えない場所にたどり着く。


 そして、少し遠くに高い柵に覆われた村が見えた。

 草の生えない土地の、ど真ん中にあるようだ。


「ん〜。村の周りを開拓した、にしては、たがやされてないし……?」


 謎の状況にルアドが首を傾げていると、少し離れたところから、悲鳴のような声が聞こえてきた。



「こここ、来ないでよぉおおおお!!! なんで追いかけて来るのぉ〜!?」



「ん?」


 ルアドが目を向けると、そっちから褐色肌の少女が疾走して来るので、軽く観察した。


 冒険者ではないようだ。

 ごく普通の袖のない服に短いズボンという服装をしているが、胸元に潰れた袋のようなものを抱えている。


 黒髪はショートカットに見えるが、頭の後ろの方だけ長く伸ばしているようで、結ばれたそれが尻尾のように揺れていた。


「そそそ、そこのなんか妙な上着着た人ぉ〜!!! た、助けて!! か弱い女の子が襲われてるわよ〜ッ!!??」

「君こそ、妙な助けの求め方だねー」


 あはは、とルアドは笑った。

 自分のことを『か弱い』という人は初めて見たのである。

 

「ノンキに笑ってる場合じゃないのよぉおおおおお!!! 上着だけじゃなくて頭も変なの!?」

「ひどい言われようだなぁ」


 口にする内容の割に余裕がありそうに聞こえるが、本人は至って真剣なようだった。


 黒い白衣は、正式な魔物学者の証なんだけどな……と思いつつ、ルアドはモノクルを押し上げて、彼女の後ろに目を向ける。


 追いかけてきているのは、巨大なバッタに似た魔物で、ぴょん、ぴょん、と何匹も跳ねて来る。


「トノオイ飛蝗バッタかー。逃げるのは逆効果だねー」


 ーーー【トノオイ飛蝗】。


 逃げる相手を追いかける習性を持つ、雑食の魔物だ。


 魔導外骨格、という虫に似た姿を持つ魔物共通の外殻を持ち、通常なら体を支えきれないほどのサイズに成長するのが特徴である。


 雑食なので、もちろん追いつかれれば食われる可能性がある、が。


「はーい、止まってねー」

「ぐふっ!?」


 ちょっと大きめの、手のひらに余るくらいの石を拾ったルアドは。

 反対の手で疾走する少女を抱き止める……というよりは進路に腕を差し出して、無理やり止めた。


 息を詰まらせて、体をくの字に折る彼女のぶつかった衝撃に耐えつつ、追いかけて来るトノオイ飛蝗に目を向ける。


「ごほ、ちょ……ッ!?」

「大丈夫だから、静かにしてねー」


 ルアドは、先頭のトノオイ飛蝗が着地したタイミングで素早く膝を折りつつ、後ろに向かって大きく石を放った。


 すると、トノオイ飛蝗が石を追ってピョーンと頭上を通り抜けていった。

 着地した後続も、跳ねた先頭を追いかけて、次々に跳躍していく。


「……えぇ!? 何で!?」

「トノオイ飛蝗はあんまり賢くないんだよねー。動くモノを追いかけるだけだから、止まって他のモノを投げるとそのまま通り過ぎて行くよー。……あと、あんまり向こうを見ないほうがいいかもー」


 驚く少女にそう伝えてあげるが、彼女はあっけに取られた顔をして、トノオイ飛蝗の方を見てしまい。


「うぇえ……」

「だから見ない方がいいよって言ったのにー」


 吐き気を堪えるような顔をした少女が、目を逸らす。


 多分、後ろからボキバキ、という音が聞こえたので、さっきの石にかじりついた先頭のトノオイ飛蝗を、他のバッタが共食いし始めたのだろう。


 動くものに喰らいつく、というのはそういうことだ。

 そして一度獲物に齧りつけば、彼らは食べ終わるまで他の獲物に目を向けることはない。


 ルアドは一応の用心として別の石を拾い、彼女を連れて見つからないように村の方に向かって歩き出した。


 すると、少女が十分に離れたところで話しかけて来る。


「あの、変な上着の人?」

「ん?」

「助けてくれて、ありがとう……すごくお腹痛いし、乱暴だったけど!!」


 礼を言っているのか、文句を言っているのか分からない彼女の言葉に、ルアドはキョトン、とした後に笑みを浮かべた。


「いえいえ、どういたしまして」

「ていうかあなた、何者なの? どうしてあんなこと知ってるの?」


 少女の問いかけに、ルアドは素直に答えた。


「ボクはルアド・ロエサ。ーーー〝魔物学者〟だよ」

 

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