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魔物学者、追放される。

 

 魔物学、というものの重要性は、冒険者には理解されないものだ。


 今回もまた、そういう話だったのだろう。


「出て行け、ルアド」


 屈強な男たちが集まった夜の野営地で。


 所属する冒険者パーティーの副団長に言われた言葉に、ルアドはキョトンとしてしまった。


「え、何で?」

「テメェみたいな穀潰しが、目の前にいるだけで目障りだからだよ」


 ルアドは魔物学者だった。

 その証である、ローブ代わりの黒く染められた白衣を、常に身にまとっている。


 軽く、生来真っ白な髪の生え際、こめかみの辺りをトントン、と指先で叩いた後。

 ルアドは、片眼鏡(モノクル)の縁に手を添えて位置を直した。


「えっと、それは団長の意思なの?」

「団長は関係ねぇ。コイツは俺らの総意だよ。なぁ?」


 副団長が冒険パーティーの面々に目を向けると、彼らは一斉にうなずく。


 団長は今、ここにいない。


 ルアドたちが今いるのは、【魔の領域】と呼ばれる、強力な魔物や魔獣が生息する場所だ。


 あちこちが瘴気(しょうき)と呼ばれる毒素まみれ。


 天候も不安定。

 熱帯雨林の横に砂漠があったり、さらに別の場所は吹雪が吹き荒れるような、そういう場所である。


 団長は、野営地であるここから、パーティーの中でもトップクラスの側近たちだけを連れて。

 依頼を受けて狩ろうとしている魔獣の居場所に、最終確認に向かっていた。


 ―――団長の意思じゃないのかー。


 そんな風に思いつつ、ルアドはとりあえず反論してみる。


「穀潰しって言われても、ボクはそもそも、そういう条件でこの冒険者パーティーに入ってるんだけど……」


 【魔物学】は、魔獣や魔族を含む『魔のモノと呼ばれる存在の生態』を研究するための学問である。


 そうした魔物研究を行う学者の中でも、ルアドは実際に足をその土地に運ぶ生態観察(フィールドワーク)を好んでいた。


 ある魔物の研究をしていた時に、たまたま出会った団長に誘われて、この冒険者パーティーに入ったのだが……。


「うるせぇんだよ。テメェは魔物狩りに参加もしねぇ、だからって野営の設営も手伝わねぇ。あげくに、俺らがせっかく苦労して狩った魔物の死骸を勝手に解剖してゴミに変えたりするだろうが」

「解剖は団長の許可取ってるし、そういう作業は手伝わなくていいって団長に言われてるし」


 やってない、と言われればその通りではあるのだけど。


 その特例自体は、彼も知っているはずだった。


 魔物学の発展は、彼ら冒険者にとっても重要な話であり、それを団長は知っているからこそ、ルアドを団員に加えているのである。


 冒険者が魔物を狩るための、魔物の特性や弱点の発見による狩猟方法の確立。

 生息地や生態を知ることによる、発見のし易さや事前の対処など。


 ルアド的には解明されればどうでもいい、しかし彼らにとっては莫大な利益となる成果。

 正直、そうした事柄を数え上げればキリがないのだが……冒険者というのは『前に立って戦う奴が偉い』という思想が根強いらしい。


「団長『は』認めてるんだろうな! だが、俺らが認めたわけじゃねぇ。不満が溜まってんだよ、テメェの存在そのものにな! 団長に言っても聞きやがらねぇから、こうして俺らが伝えてやってんだ!!」


 副団長は、イラついたように手にした斧の柄を、ドン、と地面に叩きつける。


「これ以上ついて来るなら、俺らの仕事をきっちり手伝え! じゃなけりゃ、今すぐ消えろ!」


 ―――困ったなぁ。


 一応、団長に確認したほうが良いような気はするものの、これ以上この場に留まっていたら、叩き出そうとでも言いたげなくらいに、他の面々も殺気立っている。


 荒事は、あまり好きじゃない。


 ルアドは考えた。


 ―――魔物の研究以外に興味のあることも特にないしなー。


 野営の手伝いや魔物狩りなどを自分でするのなら、一人でも別に構わないのだ。


「分かったよ。じゃ、出て行くから、団長によろしく」

「おお。テメェは条件を呑まずに、自分の意思で出て行った。いいな?」

「別に何でもいいよ。じゃーねー」


 ほくそ笑む副団長にヒラヒラと手を振って、ルアドは野営地を後にした。


 その後ろから、罵声が聞こえてくる。


「テメェみてーな軟弱野郎が、ここを一人で抜け出せるか見ものだな!」

「野垂れ死ぬんじゃねーか!?」

「泣いて逃げ帰ってくるんじゃねーぞ!」


 ギャハハハ! と笑い合う彼らだが、ルアドは別のことが気になっていた。


 ―――本当に、良いのかなぁ?


 ルアドは、このパーティーでは割と古株である。


 あの場にいた面々……それこそ副団長よりも、パーティーにいる歴は長い。


 しかし元々は一人でフィールドワークをやっていたので、パーティーを追放されること自体には、特に思うことはないのだが。


 ―――レアな魔物、見つけてたのボクなんだけどなー。


 彼らがこの大所帯を維持できるような大物を、彼らだけで見つけられるとは思えない。


 それが仕事だったので、自分の手柄というつもりはないし、前に団長自身が皆に言っていたはずなのだが……。


「まぁ、後で団長に連絡だけ入れといたらいっか」


 そう結論づけて、ルアドは野営地を後にした。


 A〜Sランク級の魔物がうじゃうじゃいるこの土地で、唯一の安全地帯。


 最初にその場所を見つけたのもまた、ルアドだったのだが。

 

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