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ゆかりなさんと。  作者: 遥風 かずら
第一章:ゆかりなさん
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7.ゆかりなさんのドSトレーニング


 いつものようにゆかりなさんと登下校という日々が戻った。思い出したくもないが、この俺自らの手で学園の壁を破壊するとは思ってもみなかった。


 数日前に学長の部屋に穴を開け、下校の時間まで正座をさせられるという、まるでどこかの修行僧のようなリアルを体験していた。もしあの時ゆかりなさんの唇を無理やりにでも奪っとけば、俺の立場が逆転していたかもしれないのに、何てことですか!


「高久くん」


「は、はいっ! 何でございましょう?」


「わたし、コンビニの限定スィーツが食べたい」


「買って来ればよろしいのですね?」


「ううん、違う。売ってない奴がいいの」


 は? なんじゃそりゃあ。ゆかりなさんの俺への無理難題は、どういうわけかレベルアップ。ゲームのテスターでもない俺に、色んなテストを仕掛けて来やがります。それも甘えた声と上目遣い……可愛すぎか!


「それってもしかしなくても制服を着ろとおっしゃっておいでで?」


「賢いじゃん! さすが高久くんだね。だから~わたしと一緒にバイトしよっ?」


「ホワット!?」


「うん、だからコンビニでアルバイト募集してるし、チャンスだよ?」


「ホワイ!?」


「日本語で驚かないの? 面白いね、キミ。そんなことよりも、わたしの傍で一緒に働けるなんて兄冥利に尽きるってやつ。違うかな? もっと君の傍にいたいんだ。だって君のことが……って、妄想してるよね」


「え? えーと……」


 妄想はしてるけど、そもそも妄想を人に聞かせた覚えは無いんだが。ゆかりなさんにも妄想を打ち明けたことなどございませんことよ? 傍にいたいのは事実でありますけど。


「二人同時に採用してくれるとは限らないよ? ゆかりなさん」


「それなら平気だよ。わたしバイトの経験あるけど、二人同時とかあったし。それにそこのコンビニ、もうすぐチェーンが変わるから。開店同時スタッフなら受かるよ」


「くっ……」


 何でそんな裏事情まで把握してやがりますか。何なのこの妹さん。住んでるエリアでも掌握してんの?


「限定スィーツってそもそも何か聞いていい?」


「あ、それね、試食のことだよ。店頭に並ぶ前の店員向けのやつ。高久くん知ってる?」


「聞いたことはあるけど、ま、まさか……それだけの為にバイトを!?」


「そうだよ? それ以外に何があるの?」


「いやいやいやいやいや! それは駄目だよ。それを食べたらやめるんでしょ? それは失礼にも程がありすぎるよ。こう見えても俺は超真面目な男子学生なんですよ? それはあかんやつや」


「やめるのはわたし一人だけでよくない? 高久くんは続けてればいいじゃん。うん、それがいい」


「よくねー! ふざけんなって! ゆかりなさんだからって、俺が何でもかんでも許すと思ったら大間違――」


「……だ、ダメなの? お、お兄ちゃ――」


「あの~人前で泣くのは犯罪……じゃなくて反則技じゃないかね? どう見ても俺が悪者になってますよ? それも俺より小さな女子であるキミを」


 嘘泣きということくらい分かるし、お兄ちゃんの「ん」だけを言ってないのも逃してはいない。舌を出して目が笑ってるのも見逃してませんよ? くそう、惚れた弱み過ぎる……。


 ゆかりなさんに急かされ、コンビニのバイトはめでたく受かってしまった俺たち。しかし現実は本当に甘くないのだ。いや、スィーツ自体は甘すぎて食べ放題状態だったわけだが。


「あんなに余るものなんだね。だとしてもさ、高久くんがそのままを維持するつもりなら、わたしは絶交しちゃうよ? いいのかなぁ?」


 いいわけあるかーー! 絶交って何さ。一応兄妹だぞ。関係を断絶させるとかそんなのはあり得ない。しかし確かに今の俺はよろしくない。


 普段から甘い物には目がない俺。あの日の菓子パン以降はロクに甘い何かを口にしてはいなかった。お菓子を食べることは当たり前の俺だったのに、あの仁王像なゆかりなさんを思い出してしまい胃が受け付けなかった。


「何事も限度があるって、知ってた? 高久くんはもう少し学習能力が高いと信じてたんだけどな。わたし、夢を見過ぎたのかな」


「だ、誰もやらないとは言ってないんですよ?」


 隣を歩くゆかりなさんは、チラチラと俺を見ながら、いちいちため息をついている。首も何度も左右に揺らしながら、やばいやばいと連呼していた。ええ、やばいですよ? こんなの、俺じゃねえええええ!


「し、します! させてください~ゆかりなさん……いえ、ゆかりなさま! どうか、わたくしめに伝授を」


「んふふ……やるんだね? いいよ。その為に色々試したいことが山ほどあるんだよね。それぞれが成功したら、友達にオススメ出来るし、それって高久くんのイメージアップにも繋がるよ? ステマじゃなくて、本当でした! って自慢も出来るし最高だね」


「あ、うん。デスヨネ」


 俺はスィーツ食べ放題で食べまくった。結果、恐ろしい位の体型になってしまったのだ。それも短期間で。毎日どれだけ食いまくってたの!? って悲しいお話なわけだが、それよりも何故躊躇していたかというと、ゆかりなさんが薦めるダイエットは全て、広告のダイエット方法だった。


 信用出来ない物の方が圧倒的に多く、中には日本語じゃないものまで注文しているじゃありませんか。


「高久くんが突然変異しても、わたしは嫌いにはならない自信があるよ? だって、それもキミだしね」


「は!? ナニソレなんすか、それ。何を注文したの? ってか、俺の人権は残るの?」


「まぁ、わたしとしてはさ、高久くんに元通り以上の結果を求めているわけ。だから、頑張ってね!」


「分かったよ。ゆかりなさんがそこまで言ってくれるんだ。俺、やるよ! 前よりもマシな俺になるぜ!」


 翌月、親父の方の請求書には怪しげな会社からの請求と、家では顔色がおかしい俺が横たわることになるのだった。

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