67.決められた運命
「よ、よんひゃくきゅうじゅうはち……だと!? 嘘だろ?」
「高久さん。ほぼ満点……ギリギリセーフ。だから、案内する。付いて来て」
満点を取った人はここにいる椎奈さんで、俺は二位である。応援してた人の方が上という結果だった。
「俺の真下にいた人が上に行くとか、以前の俺と彼女のようじゃないか……なんなんだこの敗北感」
「そんなもんだから」
要するに元から優秀な人は少しだけ頑張ればいつでも上に戻れると、そういう意味ですね、分かります。そして、椎奈さんに案内された場所は俺が最も行きたくなかった花城ママの本拠地だった。殴り込みか!?
「ここで待つ。OK?」
「いえす」
「もうすぐ来るから」
結局椎奈さんもゆかりなさん側の人間でお嬢様ですか、そうですか。平凡なのは俺だけですか。
「高久さん、お久しぶりですね? 珍しい人と一緒に来るのね」
「い、いや、まぁあの……」
「椎奈です。ゆりなさん、お話があります。よろしいですか?」
「……ええ、分かりました。その前に、一応最後に聞いておきたいのだけれど、お母さんに聞かせてくれる? 高久君」
お、お母さんに!? いや、確かにお母さんだったな。家で一緒に暮らしてたし、優しかったし。な、なにを言えと。しかも最後に? もちろん、アレですね。
「ゆかりなは、いずれ俺のヨメにします。兄妹とかそんなのじゃなくて、初めから血が繋がってないままで出会った関係なんです。俺の初恋……じゃないけど、俺にはゆかりなしかいないんです。初めから運命感じてた相手です。だから、俺にあいつを下さい!」
「……運命、ですか。あの子は大変ですけど、本当にホント?」
「当然ですよ! 俺のヨメなんで! 妹の時から好きでしたけど、やっぱりヨメがいいです!」
「――そう」
ど、どうよ? あんまり格好良くないけど言ってしまったぜ。断言する方がきっといいと思った。
「高久君はM?」
「へっ? い、いえ、Mじゃないですよ?」
「M面目でしょう?」
「それはもう……へ? そのM?」
「M面目な君なら弱いSのゆかりなを預けるしかないかな。強い方のSは君の姉……それは本人の意思を尊重しますけれど」
おう? 日本語がワカリマセン。MとSが何だって? そもそもSって何なのでしょう? ドS?
「あなたはどっちになるつもり? 椎奈」
「彼とあの子が籍を入れたら報告します。それでいいですか? ゆりなさん」
「それでいいわ。それじゃあ、今日はせっかくのクリスマスですし、高久君はあの子を思いきり甘えさせなさい! いいわね?」
「ハイ!」
ん? よく分からんが認められた系? そういや、椎奈の名字を知らんけど聞いてみるか。とりあえず、外に出てからだけど。
「じゃあ、外に行く。OK?」
「おけおけ!」
「ん、いい子だね」
何か自然と頭撫でて来たんだが、椎奈って癒し系だったのか。これはこれで萌える。
「ところで椎奈って下の名前だろうけど、名字は?」
「それは……彼女に聞く。OK?」
「ほえ? 彼女?」
『わたしを寒い中待たせるとはいい度胸してるな? 高久のくせに!』
「え? い、いや、待たせるつもりは無かったんだよ? そもそも約束してなかったわけだし……」
「いいえ、してましたけど? 忘れたのか? あ?」
なにっ? していた? いつの話だ。ううむ、それにしてもこんなにも自然に声をかけて来るとか、散々落ち込んだ俺の涙をどうしてくれる! これは説教だ! しかもメガネを外してるとか許さん!
「私、戻る。ゆかりん、頑張れ。後でまた」
「うん。ありがと、しぃちゃん」
「こら、ゆかりな! お前、俺がお前の為にどれだけ泣いたか分かってないだろ?」
「知らないし」
「くっ……も、もし、俺の涙に責任感じてんなら、この先も面倒見て欲しい」
おや? 前もこんな台詞をどこかで言った気がする。どこだったか。
「それじゃあ、あなたのこれからを全部見てあげる……本当にホント? 本当にいい?」
むぅ……これもどこかで聞いた気がする。しかも寒気と鳥肌が……冬だからか?
「当然だろ? 俺はゆかりなしか好きになれない。ゆかりなだけが好きだ。俺の全てをキミに」
「んふふ……やっぱりね。あの時のアドリブって本音だったんだね。なるほどなるほど、ってことは?」
「ん?」
「いいよ、キミの全てをわたしが面倒見てあげる。だから、抱きしめて?」
そうしたいけど、ここは花城の本拠地の真ん前なんですけど、それは空気読めない? ああそうですか。
「ベタだけど、キスしてやるよ」
「……ん、来て。わたしのファーストクリスマスキスを、あなたからもらいたいの」
「ファーストキス? クリスマスか。そうか、そうだな」
ここがどこでも関係ない。俺は待ち望んでいたゆかりなの広げた両腕を無視して、自分の胸元に引き寄せた。そのまま、息もつかせないくらいに唇を奪っていた。どれだけ好きか、想いごと注ぐために。
「――んん……高久――好き……んっんんんん!? く……苦しいだろ、離せバカ!」
「はぁっはぁっはぁっ……離さない。バカでも何でもいい。ゆかりなから離さないし離れない」
「ちょっ――んむっ!? こ、こここここの野郎!」
「離さねえし」
「うるさい、バカ野郎! 殺す気か!」
なんて物騒なことを、花城ビルの前で彼女は叫び続けた。結果、俺は警備員に連れて行かれてしまった。デスヨネー。
「バカ高久、部屋でご飯作って待ってるから、早く帰れよ? 返事は?」
「ハイ」
「じゃあまたね、あなた」
ベタなクリスマスのキスと、連行と。まさに天国と地獄。数時間も説教をくらい、俺はいよいよ彼女の待つ家に帰れることになった。もちろん俺の家だ。
俺と彼女の運命は初めから決まっていたんだ。




