65.メガネ女子×2
教室内でこんなにも居心地が悪いのはいつ以来だろうか。かつて、ゆかりなさんには偽彼氏が隣クラスから来ていたのだが、今回は俺に会いに来ている女子がいる。それについてのヒソヒソでもあり、沈黙のメガネ女子に対してもヒソヒソ話がされているというわけである。
「迎えに来た。行こう?」
「そ、そうだね。じゃあ、図書室で……」
「ついて行く」
「ド、ドウゾ」
ウワサの女子、椎奈はれっきとしたただのお友達である。そして、寡黙なメガネ女子と化したゆかりなさんは、俺たちの後を付いて来るという謎な行動を取るようになった。はっきり言えば謎でも何でもないが、言葉を使わずして俺に近付いてくるので、謎の女子としてウワサされていた。
「ここ、重要」
「あぁ、そうだね。じゃあマーカーしとこうか」
「じゃあこのペンをあげるから使う。OK?」
「か、借りとくよ」
ゆかりなさんとではなく、期末対策を一緒にしているのは椎奈である。いつもなら何も迷うことなく、彼女であるゆかりなさんと二人きりで勉強をしていたはずだったのだが、彼女はそれを断って来た。
それというのも過去に俺と一緒に勉強して成績が上がったのは彼女で、下がってしまったのは俺だけだったという屈辱的なことがあった。俺より成績が上がった彼女からすれば、俺と勉強しなくても平気と思ったのだろう。それなのに、どうしてキミは近くにいるのかな?
「えっと、ゆかりな、何?」
「何って何が? わたし、図書室に用があるだけだし」
「そ、そう。それならいいんだけど……」
「彼氏くん、余所見は駄目。私を見て」
「あ、うん。じゃなくて、テキストを見ますよ?」
「それでいい」
「椎奈の順位はどの辺?」
「君の真下」
壁に張り出される心配はないランキングもとい、成績の順位。端末から前回の期末結果を見てみると、確かに俺の真下に椎奈の名前がある。この子も実は真面目女子なのか。それはそれで興味ありまくりだ。
今までずっと、カレカノ関係の出来事で勉強をしてこなかっただけに、冬の期末は俺の運命を左右する。3年になれば、猶予に余裕などなく……本当の兄妹になってしまう。それが嫌だからこそ、親父も巻き込んで反抗しているわけなのだが。
「集中出来ない?」
「あっ、いや……ナンデモナイヨ」
「気になる?」
「ホワット!? な、なにを……」
近くで本棚から数冊以上の本が落ちたような気がしたのと同時に、椎奈の両手は俺の顔を無理やり動かした。正面には椎奈の顔がある。何か知らないが、妙に緊張する。考えてみればゆかりなさん以外の女子に緊張をするのは、華乃ちゃん以来なのではないだろうか。
「な、何かな?」
「目を瞑って」
「いやいや、それはさすがに」
「……そんなことはしない。目を瞑る。OK?」
「イエス」
さすがに図書室だし、この子も真面目女子だし何もして来ないだろう。そう思いながら目を瞑った。
自分の顔をひんやりとした女子の両手でがっちりと押さえつけられ、動かすに動かせないこの状況は、何やらとてつもなく嫌な予感がいや、胸ドキな予感しかしませんよ?
それにしてもさっきから本棚の本がバタバタと落ちまくっているのが気になる。地震か? それにしては揺れてもいないが。そして何も期待などせずに、俺は目を瞑っている。何も起きないが……?
「う、お……!? み、耳がひんやりと!? ナ、ナニ事?」
「間違えた。かけ直すからまだ目は瞑ってて欲しい」
「あ、うん」
かけ直す……もちろんそれは電話などでは無い。俺の両耳にひんやりとした何かが一瞬、当たったのだがその正体はその時点で判明し、何故かがっかりしている俺がいる。いえいえ、彼女でもない女子からのキスなんて期待してないんですよ?
「目を開ける。OK?」
「イエス!」
「メガネ女子が好きそうだから、かけてみた。好き?」
「す、す――(っと、この先を口走るのは危険が危ない。殺気を感じる)」
「うん、理解」
「ハイ。アリガトウ」
メガネ女子が好きなんじゃなくてですね、メガネのゆかりなさんが……いや、かけたことのないお姿をしているから萌えるのであって、決して誰にでも萌えるわけではなどと思っていたが、椎奈も中々のモノだった。
「似合ってるね。むしろ、それは通常のお姿?」
「正解。普段はメガネ。その方が好み?」
「もちろ――」
「――高久」
「ヒッ!? な、何でしょうか? ゆかりなさん」
「メガネ女子が好きだったなんて初耳ですけど? それは本当にホント?」
「あ、いや、えーと……たぶん?」
「それなら、わたしもあなたと勉強します。いいですよね? 葛城君」
「い、いいですとも! いいよね、椎奈?」
「……問題ない」
「へぇ? 呼び捨てなんですね。わたしのことはさん付けで呼んでいらっしゃるのに……随分と差を付けたんですね? ねえ、葛城君?」
「え? いや、その……」
な、何だ? この寒気というかゾクゾクする話し方は。これがゆかりなの真の姿だとでも? それも何故に女子二人ともメガネで俺を見つめていらっしゃるのでしょうか? 何のプレイですかこれは。
「わたしと椎奈とで、あなたと勉強します。それでいい? いや、いいですよね」
「問題ない」
「えーと……」
「返事は「はい」しか選択出来ませんので、それでいいよね? ねえ?」
「ハイ! 喜んで!」
Sがカムバックしたのか。それはそれは喜ばしいこと、なのか? 俺はやはりMですか、そうですか。




