64.萌えメガネ女子とS
俺のモテ期といえば、騒がし女子の茜を筆頭にした体育祭で終わったんじゃなかったのか? というか、高校生活で2回目のモテ期とか、モテ期の無駄遣いですよ?
それがどうしてこうなった? 彼女はずっと俺のことが好きだったとでもいうのか?
「しぃちゃん、や、椎奈に邪魔する権利ないじゃん! やめてよ、何で今回も邪魔するの?」
今回も? おや? 俺はゆかりなさんにとっての初恋とかではないのか? もちろんそれは俺の自惚れなのだが、それとも俺が聞いてないだけで、俺と出会う前にもそんな出来事があったのか?
「ちょっといいか? ゆかりな」
「まって、今それどころじゃないし! 高久くん、そこでわたしが食べさせるまで待っててね? いい子だから」
「あ? いい子……? それどころじゃない?」
多分これは俺の後にも先にも、言ってはいけなかった言葉であり、ゆかりなさんを突き放した出来事だったに違いない。ずっといちゃラブしていればそれはそれで幸せだったかもしれないが、俺にも我慢の限界があったらしい。
「お前なぁ! 俺を何だと思ってんだよ! 俺そっちのけで女子友と楽しそうに話してんじゃねえよ! (あれ? これはだぁれ? 俺ってこんな人格も備えてたの? いやいや、これ以上は落ち着け、俺)」
「えっ……な、なに、どうしてそんなにキレてるの? っていうか、勝手に箸使って食べてるの? 嘘でしょ? どうしてそんな――」
「うるせー! うんざりなんだよ! 俺はお前の彼氏だけど、好き勝手出来る男じゃねえぞ? もう嫌なんだよ! 食事くらい好き勝手に食べさせてくれよ! お前の「あーん」は好きだけど、強制的にいつもいつもやられて嬉しいとでも思ってたのか? ふざけんなよ、ゆかりな! 悪いけど、これからは一人で食べる。じゃあな、ゆかりな!」
「――っ!? まっ、待って、な、何でそんなこと……き、嫌いになったの?」
「大好きだからに決まってんだろ! 分かれよ、ゆかりな」
「あっ……」
あーーやっちゃったじゃないか。ナンテコトデスカ! 学食にはまりかさんと椎奈さんしかいなかったが、配膳のおばちゃんにはバッチリと注目を浴びちゃったじゃないか。どうしてくれる、俺。
ずっと我慢してた。だけど、まりかさんに言われたからなのかそれとも、他の女子に見られるのが何となく嫌だったからなのか、自分で自分が分かりません。だけど、嫌だったのは事実だ。
ずっと甘々な日々を過ごしていたのに、どうしてこうなった。好きなのに、好きだからこその言葉を伝えたかった。そういう意味じゃ、俺もまだまだ言葉遣いの足りないガキってことらしい。
「あ、あの……たか――」
「サトル、パン巡り行くぞ!」
「お、おぉ……い、行くか」
「高久くん……」
俺は翌日から明らかに彼女を避け始めた。たまにはこういうお仕置きを俺がするのも必要な事だ。そうじゃなければ、長い長い俺と彼女の生活は続かんだろうと勝手に思っていた。
「てか、高久おま……お前、何でパン食べながら涙流してんの? そんなに美味しいのか?」
「あうあうあう~ふぐっんぐっ……」
「それは冗談として、泣くほど後悔してんなら向き合えばいいだろうが。花城を放置とか、それはやばくね? 気持ちは分からんでもないけど、俺がもう一度告って付き合ってもいいのかよ?」
「良くない。そしたらサトルとは友達を絶つ」
「それは困るな。俺も何気にダチがいないからな。それもパンの心が分かるダチは数少ない。それはしないけど、どうするんだよマジで。お前、彼女に啖呵切った割に心弱すぎんぞ」
これは簡単じゃない。俺にもヘタレなりのプライドがある。ずっと彼女に甘えて来た俺の責任でもある。
「いつでもどこでも食べさせてほしい」「本当にホント?」「もちろん」などなど、まさに自業自得。自分で言っておきながら、彼女に日々日々の不満をぶつけてしまうとか、泣くしかなかった。
「うううっ……サトルきゅん~どうしよう?」
「や、やめろ、そんな目で見るな! 一瞬可愛く見えてしまっただろうが!」
「俺にも上目遣い属性が!?」
「冗談だ。それはともかく、泣くくらいなら土下座しに行けばいいだろ? 自分で言ったことに悲しんでどうすんだよ」
「デスヨネー」
そんなことがありつつ、俺は平常を装いながらバイトへ直行した。したはいいけど、そこには切なそうに俺を見つめるゆかりなさんと、ゆかりなさんの場所だった接客にSな彼女が存在していたのだった。
「高久さん、注文お願いします」
「あ、はい」
「じー……」などと思いながら、俺を見つめているとしか感じられなかった。それくらいいつもと違う雰囲気で、俺のことをずっと陰から見つめていた。くっ、しおらしくしていても可愛い。今回は長期戦だ。それくらい、俺は激おこですよ?
「椎奈さん、お疲れ。あぁ、高久君。椎奈さんを家まで送ってやってくれないか? 外も暗いし、少し距離があるみたいだから」
「あっ、はい」
パパさん、いや……師匠の言葉には従うのが俺である。それにしても、ゆかりなさんの親友? ってだけでバイトが出来るとか、何の警戒心も持っていなかったパパさんは、椎奈さんをすぐに雇っていたから驚きである。
「よろしく、彼氏くん」
「あぁ、うん。いや、俺には名前があるからね? さっき、名前で呼んでたでしょ?」
「仕事だから別。キミはゆかりんの彼氏くん。名前で呼ぶのは付き合う時」
「そ、それはまた……何とも」
付き合う時って、それはどういう根拠があるのか俺には分からない。確かに今の時点では、ゆかりなさんのことを許したくない俺がいるけど、だからといって別れるとかそんなのはあり得ない。
「わたしとなら、自由に食事出来る。だから、明日学食で会って」
「椎奈さんと昼? い、いや、でも……俺はゆかりなさんと付き合っ――」
「友達とお昼も食べられない? それは大人になったら駄目なパターン。だから食べる。返事?」
「分かった。椎奈さんと食べるけど、ゆかりなもそこにいていいんだよね?」
「いい。友達だから問題なし」
何やらおかしな展開突入か? それは翌日の学食に的中した。
「ここでいい。彼氏くん、隣に座る。OK?」
「い、いえす」
またしても注目を浴び集める俺である。ハーレム? いや、これは違うんですよ? 本当ですよ?
「むむむむむ……何で? 何でしぃが高久くんの隣に座るわけ? おかしくない?」
「ゆかりんはそこで黙って見てればいい。自由に食べさせる。OK?」
「認めないし」
椎奈さんと俺は約束通りに学食に来た。それはいいけど、何故俺の隣にお座りになられるのでしょう? 対して、正面にはメガネ女子が……!?
「って……ゆかりなさんだよね? どこかの真面目なメガネ女子じゃないよね?」
「そうですけど? わたし、目が悪いから。それも、好きな人を見る目が無いっていう……そういう意味ですけど、文句ありますか? 葛城君」
「い、いえ……メガネのキミもかわいいな、と」
「あ? そういうこと、いま言うワケ? ふんっ!」
「い、いや……はは。すみませんでした」
「謝るな! ムカつく」
あわわわわ……怖いけど萌える。
「もういい? ご飯食べたい」
「そうだね、食べようか。椎奈さんは――」
「椎奈でいい。キミは彼氏くん」
「うん、それでいいデス」
何やらいつも以上にざわめきだした学食である。ハーレムじゃないんですよ? 少なくとも、正面に座っている萌え萌えなメガネ女子は俺をずっと睨んでいるからね? 勘違いしちゃいかんよ。
あああ、それにしてもずっと一緒にいたのに、なぜ今になってキミはそういう武器を使って来るんだ? メガネ女子! ちっさいし、撫でたい……悶々とさせるための何かの試練を俺に与えてるのか?
「美味しい。コレ、食べて」
「あ、じゃあ口を開ければいいのかな?」
「自分で食べられないなら、そうするけど。出来る? 出来ない?」
「いや、出来ます。自分で食べますとも!」
おぉ、いかんいかん。何気に誰かに食べさせてもらう癖が身に染みついているじゃないか。それも俺の目の前で睨んでいるメガネ女子の技なんだが。恐るべしだ。これがいつの間にか当たり前になっていたのか。
「じー……」
「な、何かな?」
「別に」
「もしかして、食べたい……とか?」
これは俺の想像であり、あくまでも俺主観によるものである。というのも、正面に座っているメガネなゆかりなさんは、それが伊達メガネなのか本物なのか分からないけど、とにかく俺と俺が掴んでいる食べ物をじっと見つめているのである。もしかしたら、食べさせてほしいのでは? なんて妄想を膨らませてみた。
「結構です。わたし、食べさせてもらうとか、ここじゃ嫌ですから!」
「えっ? ど、どこに?」
「教室! お昼は無限じゃないし。不真面目なあなたは椎奈といちゃついていればいいんじゃないですか?」
「い、いちゃついてなんか……」
これは嫉妬? しかも何気に学食じゃ無い所で食べさせてほしいアピールに聞こえたよ?
「いちゃつく?」
「いえいえ、友達ですよね?」
「彼女になるよ。君の」
「それはちょっと、意味がワカリマセン」
個性的な椎奈さんのことが気にはなるが、この子以上にメガネ女子のゆかりなさんは卑怯すぎる!




