63.ゆかりなさんと女子友
「それはあかーーん! ゆかりなさん、それは駄目だ!!」
「だってモゴモゴモゴ(だってこれは必要だからだし)」
「くっ、こうなったらこのまま連れて行く!」
「モゴモゴモゴモゴ(また抱っこするの? しょうがないなぁ……いいよ)」
遡ること2時間くらい前、こうなる状況になるには理由があった。パパさんの料理屋も協賛店になっていたというのもあるけど、俺たちの高校は文武両道を勝手に謳ってる学校だ。つまり、地域のお祭りには強制参加なのだ。俺は勉強だけでいいデスなんてことは通用しない。それが地域のお祭りというわけだ。
「おっす、高久。お前も担ぐのか? 大丈夫なのか?」
「なわけがないだろうが! 担がないぞ俺は。それでも許してくれると先生が言ってたぞ」
「どこの先生だよ。まぁ、お前は担がなくてもいいんじゃね? 彼女……花城さんを守ればいい」
「ん? 守るってのはなにから?」
「もちろん、興奮するであろう男子連中から。まぁ、祭りの時ってそうじゃなくても興奮するしな。別に花城だけが危ないわけじゃ無いぞ? 女子はそういう目で見られる日ってことな」
「んん? そういう日でそういう目? 何のことだ?」
「噂をすれば女子たちも着替え終えて来たぞ、ほら」
「ひっ!? あかーん! それはあかんぞ!」
男子の俺らが着替えるといえば、神輿を担ぐ奴や周りを固める奴以外は軽装で済んでいるのでその辺は良かったのだが、女子はこういう時に結構はしゃぐという問題がある。
普段と違ってあまり恥ずかしくないらしいのだが……それは俺が許さん。
「って、おい、高久!」
「すまん、俺、離脱! 彼女を安全などこかへ連れて行く! サトルはその辺の言い訳よろしく!」
「マジかよあいつ! どれだけ好きなんだよ……ったく。新作パン奢れよ、高久」
そして、胸を含めた上半身にサラシをしているゆかりなさんを無理やり奪い、抱っこしている最中だ。
「ちょっ!? な、なに? 何で?」
「他の男子はおろか、近所の奴にも見せたくない。第一、水着ですらほとんど布で隠していたくせに、何でそれは大丈夫なんだよ? 俺は許しませんよ」
「だってお祭り……モゴッ(また口封じ!)」
そんなわけで神隠し第2弾が発動した。だって、サラシですよ? 水着より露出は少ないが、少なくとも白いお肌なゆかりなさんを、公衆の面前の野郎どもに見せるのは嫌だ。
「下ろしてよ」
「嫌です。もう少し我慢しろよ、ゆかりな」
「や、どこまで行く気? 一応、学校行事なのにいなくなるのは駄目なんじゃないの?」
「任せろ!」
祭りのエリアを離れたところでようやく彼女を解放した。抱えていた彼女の温もりだったり、感触がするりと離れたことに、何となく寂しさを感じてしまった。
「キミさぁ……いつからなの?」
「何のことだ?」
「最初の頃はそうじゃなかったじゃん? そこまで独占欲強かったなんて、何か……ちょっと」
「引いたか? でもこれは俺の気持ちでもあるんだ。だから許してください」
「……ん、許す。その代わり、浮気したら……分かるよね?」
「ハイ」
浮気とかそんなのあり得ない。俺がゆかりなさんを嫌いになるはずがない。嫌いになるか、誰かに惹かれるか……どっちにしてもあり得ないはずだ。そんなことを思いながら、サラシの女子連中の出番が終わるまで、ゆかりなさんを独占し続けた俺だった。
祭りの余韻を全く残さず秋は深まっていたのだが、もはや俺と彼女の学食処刑は、すっかりと注目を浴びなくなっていた。実のところ、俺自身はずっとくすぶり続けていた。自分の意思で食べられない……それはそれは結構なストレスであり、いくら好きな彼女にソレをされていても決していいこととは限らない。
「あーん、はい、口開ける!」
「……アーン」
「やる気あるの? ほら、大きく口開けてってば!」
「……(あ~んにやる気って何かねそれは?)」
「もう! ちゃんと食べなよ。口の周り、付いてるってば!」
俺はすっかり赤ちゃん扱いをされている。それも学食限定で。反対にパパさんの店では、俺が彼女に料理を食べさせてあげているが、ここまでひどくない。
最近になり、パンだけの生活に戻りたいと思うようになっていた。ゆかりなさんは好きだ。そう思っていたある日の昼。
「おひさ、ゆかりん」
「まりか? と、しぃちゃん……?」
まりかさんは分かるが、しぃちゃん……だと? そういや、街で出会った時にいた女子にも見えるが、お初だな。
「高久君、こんにちは」
「あ、どうも。まりかさん、お変わりなく?」
「んー? どういう意味です?」
「いえいえいえ、ナンデモナイデス」
まりかさんは確か俺に好意を抱いていたとかなんとか。それも遥か昔の事のように感じる。
「しぃちゃん、何、何で?」
「彼氏、欲しい。くれる? その子……」
「は? いや、高久くんはわたしの彼氏だし。無理」
「ううん、無理じゃない」
「好き合ってるし、何も文句も不満も無いのに……それに、決まってるもん」
「そう?」
おや? 何やらバトルが始まりそうなんですが、そういうお友達なのか?
「高久君……ストレス溜まってるでしょ? 違わない?」
「どうなんですかね。でも、正解っちゃ正解ですね。まりかさんは彼氏は? 確か梓とかいう……」
「うん、結局上手く行かなかったよ。ゆかりん関係なく、努力してた人の方が好きだったっていうかね」
「それって……」
「まぁまぁ、それは過ぎたことだから。それはともかく、不満があるならゆかりんに言うべきだよ? そうじゃないと、取り返しつかないよ? しぃちゃんが狙ってるよ」
狙っている? それは何の獲物なのかな。滅多に会わなくなってたゆかりなの女子友たちだったが、見てる所は見てるってことか。まりかさんの言う通り、俺は学食の所とか外での食事のこととかに不満を覚えつつあった。もちろん、ゆかりなさんには言ってないし言えるはずも無く、我慢していた。
それでも嫌いとかそんなことにはならない。ずっと密かに想っていた彼女だ。好き過ぎる上の、贅沢な不満ってとこだろう。季節は2年の冬に差し掛かろうとしている、そんな昼の時間だった。




